海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

米軍流弾事故

2008-12-16 12:53:25 | 米軍・自衛隊・基地問題
 県内紙では金武町伊芸区の流弾事故の記事が連日続いている。まだ県警の鑑定中で確定したわけではないが、〈県警関係者によると、流弾は形状などから「徹甲弾」と呼ばれる貫通力の高い弾である可能性がある〉(琉球新報12月16日付朝刊)とのことだ。昨日の琉球新報夕刊の一面には、穴の空いたナンバープレートの生々しい写真も載っている。 伊芸区とキャンプ・ハンセン射撃場の間には高速自動車道が通っていて、「グリンベレー演習中 流弾注意」という看板が掛かっていたのだが、看板通りの事態が発生したことになる。
 同夕刊には過去に起こった〈金武町内での米軍起因被弾事故〉の一覧表も載っている。それを見て、私が大学に入った前後に事故が連続して起こったことを改めて思い出した。

78年3月 伊芸区のビニールハウスと水田2カ所に照明弾が落下。
同 年4月 廃弾処理場からの砲弾の破片が伊芸区の住宅と公園に落下。
79年5月 沖縄自動車道伊芸サービスエリア駐車場内に砲弾の破片が落下。照明弾が伊芸区のゴルフ演習場と運動場に落下。
80年5、8月 伊芸区水源涵養林に砲弾直撃。
82年1月 伊芸区の民家の屋根と酒造所一帯に砲弾破片が落下。
同 年2月 県道104号線越え演習で伊芸区の水源涵養林に砲弾3発落下。
 
 当時は県道104号線を封鎖して喜瀬武原実弾演習が行われていた。そのために砲弾や破片の落下事故が相次いでいる。79年5月に起こった事故は、家族で中南部に行くときに利用している場所で発生したので、記事に接したときの衝撃も大きかった。私が生まれ育った今帰仁村は、沖縄島では珍しく米軍基地も自衛隊基地もない村なので、演習被害はまったくないし、基地問題を身近に感じることもなかった。基地問題に慣れっこになっていなかった分、大学に入ってその酷さを生々しく感じられたのかもしれない。
 琉大の首里キャンパスは守礼門から坂道を上ってくると、図書館に行く途中に距離は短いがデイゴの並木があった。そこで学生自治会が通学時にビラまきをやっていて、入学して一ヶ月ばかりの頃、サービスエリア駐車場内に砲弾破片が落下した事故を糾弾するビラを受け取り、わじわじーしながら読んだ記憶がある。
 米軍がいくら安全性を強調しても、住宅地域から数百メートルしか離れていない所に実弾射撃演習場があるのだから、事故は起こるべくして起こるのだ。金武町民にそういう危険な生活を強いているのは、日米安保条約に基づいて沖縄に米軍基地を集中させている日本政府であり、その政府を支えている日本人の大多数なのである。この事故は米軍だけが起こしているのではない。日本人の多数意思が起こしている事故でもあり、ウチナーは文字通りヤマトゥの「弾よけ」とされていることを直視しなければならない。
 しばらく前にNHKが「基地とカネ」という番組で、資産運用の一つとして軍用地が売り買いされている問題を取り上げていた。バブル経済が破綻して土地神話が崩れ、周辺の民間地域の地価が下落しても、政治的配慮によって軍用地だけは値上がりを続けてきた。そのために投機の対象となり、「軍用地売ります・買います」という広告が新聞や街角の看板で見られるようになった。これは今に始まったことではなく、もう十年以上前から起こっていることなのだが、最近は資産投資として沖縄の軍用地を買うヤマトゥンチューが増えていることをNHKの番組は報じていた。自分は演習事故の被害を受けない地域に住んでいて、永久に沖縄基地が固定化されることを望んでいるのだから、まさに腐りナイチャーというしかない。
 同じように腐りシマグヮーもいて、軍用地を買って資産を作り、それを担保にして銀行から金を借りてさらに新たな資産作りに励むウチナンチューもいる。えてして米軍基地被害のない那覇・南部に住んでいる軍用地主ほど軍用地の値上げ、基地の継続使用=固定化のために熱心に運動しているというのは、これも何十年も前からあることだ。
 そういう人たちはまた、軍用地料や基地労働者の存在を強調し、基地が沖縄経済にもたらす「恩恵」を唱えるのだが、基地は工場のようにそこで何かを製造して利潤を生み出す場所ではない。広大な面積を占拠していながら、基地従業員の数はごくわずかだ。普天間基地でも沖縄の基地労働者は二百数十名というのだから呆れはてる。
 基地の「恩恵」を唱えている者は、沖縄全体の利益や発展を考えているわけではなく、自分が受けている「恩恵」=既得権を維持したい、というのが本音だろう。自分の個人的利益を守るために運動をするのは勝手だが、そのために米軍の演習事故や米兵犯罪に巻き込まれる方はたまったものではない。米軍基地を返還して民間利用した方が経済的メリットもあるということは多くの人が論じているが、忘れてはならないことは、沖縄の米軍基地がベトナムやアフガニスタン、イラクなどで多くの民衆を殺戮するために使われてきたことだ。どんなに生活のためを強調したところで、米軍基地で働くことが、米軍の軍事行動を支え、間接的であれ殺戮に手をかしていることにかわりはない。基地「恩恵」論はそれを隠すためにも使われてきたのだ。
 今年に入ってキャンプ・ハンセンでは自衛隊の演習も行われている。米軍再編によって米軍専用基地から自衛隊との共有基地へと変われば、沖縄の米軍専用基地は全国の75%という数字が、見かけの上では減少する。実際には演習は激化するにもかかわらずだ。そういう数字のまやかしを利用して、沖縄の「負担軽減」が進んでいるかのようにキャンペーンする者もそのうち出て来るであろう。一年のうち限られた期間しか米軍が使用しない自衛隊基地と、年中米軍が使用している基地を意図的に混同して、沖縄の米軍基地の負担を少なく見せようという手口はこれまでも使われている。
 年末の慌ただしい時期で、金融危機や雇用問題などに加えて、政界再編の動きも活発化し、全国的には今回の事故の扱いは例のごとく小さい。しかし、自分の家の駐車場に止めてある車に米軍演習の流弾が当たる場面を想像してほしい。住民が死傷してからでは遅いのだ。こういう危険な演習を続けさせてはならない。

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腐れナイチャーとして (京の京太郎)
2008-12-18 09:40:07
ヤマトの中で血を、肉を、言葉を与えられ生きてきた。何も者かである前にすでに「在日日本人」なのだ!腐れヤマトの中の腐れナイチャーとしてしか生きる場所はない。
2年ほど前に沖縄の反戦地主から京都の飲み屋に呼び出され「辺野古になぜ来ない。もう辺野古にお前の居場所はないぞ!」と言われた。「俺の居場所は俺が作る。俺の居場所はまずここ(京都)なのだ!」と答えてしまった。ひと(他人)の戦いに安易な連帯(悪のり)をしないこと。そう心に決めて生きてきた。今更変えようにも変えれるものでない。これまでに2カ所の土地に地主として名前を登記した。沖縄の普天間基地内と成田の空港用地内である。現在、普天間の土地に対するまた新しい強制収用の手続きの書類が那覇の防衛施設局から届いている。先日、成田空港株式会社からも手紙が来た。私(達)が登記している土地のせいで第二滑走路への進入路が妨害され、への字になっているのだ。腐れヤマトの空港会社と腐れナイチャーのたたかいは終わらない。1971年春からのおつきあいなのだ。終わらしはしない。老いぼれた腐れナイチャーとして、これまで通り生きていこう。それしか知らない。
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腐りナイチャーについて (目取真)
2008-12-18 12:55:08
腐りナイチャーというのは一般論で言っているのではありません。
自分はヤマトゥに住んでいて、沖縄の軍用地を買って資産運用とほざいている輩に対して言っているわけです。
同じことをやってる腐りシマグヮーだっているわけです。
市民運動は自分が生活している場所でたたかうものだと思います。。
ヤマトゥの人に「辺野古になぜ来ない」と問いつめるウチナンチューの気が知れません。
むしろ辺野古に長期間居ついているヤマトゥンチューには、自分の地元に帰って、そこで運動を作るように言うべきでしょう。
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腐りナイチャーとして (京の京太郎)
2008-12-19 12:57:03
「腐りナイチャー」…言葉が頭の真ん中に居座って消えない。沖縄、ベトナム、アフガニスタン、イラクの人々からのまなざしなのだろうか?御室の仁和寺の仁王さんの前に佇んでいるようだ。我が身が受けとめなければならない言葉だから消えないのだろう。昨日は伏見から岩倉まで仕事で走り回っていたが、ずっと頭がこの言葉を反復していた。与えられた命ののこりをあとどう使うのか?使えるのか?這いずりながらも、考えてゆきたい。
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900億円 (吟遊茶人)
2008-12-25 23:05:20
国から沖縄の軍用地主へ支払われる賃貸料が最高額に達したとのこと。いわば、沖縄県民120万人の命の値段ともいえる。我々の命はたった900億円ということです。このハシタ金のために、同胞の命を危険に晒して恥じない情け無さ。クサリナイチャーどもにもシマを売り渡すあまりの愚かさ。
例えば嘉手納弾薬庫一帯の大地主は那覇や東京に在住しているとのこと。本土ではあり得ない農地解放を免れた戦前の大地主たちが、そのまま軍用地主となって沖縄の経済と政治を牛耳っている事実を県民自身もあまり知らない。基地被害を何一つ受けない輩が基地を固定させる権力を持つなど、あまりにも不条理です。
ちゃんがらさんとーないびらん。
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喜瀬武原 歌 (ミカン海)
2010-06-07 14:14:31
私は、自分のブログで歌を拾い集めています。
海勢頭豊氏の「喜瀬武原」を偶然CDで聞いて
いるところです。
米軍の実弾演習がどんなものか、調べていて
このページに行きつきました。ありがとう
ございます。
イラクのファルージャだったか、あの町
を攻撃したのは、沖縄で訓練を受けていた
部隊だと聞かされました。ベトナムを爆撃
するために飛ぶ飛行機が沖縄からだった
、同じ事がいつまで続くのでしょうか。
個別具体的な歴史の一こま一こまは、教科書
にも書けないし、マスコミもほとんど触れません。でも、知りたい人はなくなら
ないでしょう。
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