以下に紹介する文章は、『越境広場』13号(2024年4月28日発行)に掲載された「地を這う声のために」第7回です。3回に分けて本ブログに載せます。
2024年は元旦から能登半島地震が発生し、翌2日には羽田空港で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突事故を起こすなど、激動の1年となることを予感させる事態が続いている。
沖縄から見れば、その事態は昨年末の辺野古新基地建設をめぐる国の代執行から続いていて、さらに基地関連でいえば、11月29日に発生した屋久島沖での米空軍CV22オスプレイの墜落事故から続いていると言える。
それにしても、昨年4月6日に宮古島沖で海上自衛隊のヘリが墜落事故を起こして以来、1年も経たないうちに自衛隊、米軍、海上保安庁の三つの組織が、乗員全員もしくは大半が死亡する大事故を起こしたのは異常としか言いようがない。
中国と軍事的に対抗するため、日本政府は「南西領土の防衛強化」を打ち出している。その担い手となるのが自衛隊・米軍・海保の三つの組織だ。今回の海保の事故は、能登半島地震の被災地に物資を運ぶのを目的としており、直接に沖縄と関係するわけではない。しかし、今後海保が担う役割を考えれば、その意味するところは大きい。
2022年12月16日に決定された「国家安全保障戦略」では、〈海上保安能力を大幅に強化・体制を拡充。有事の際の防衛大臣による海上保安庁に対する統制を含む、自衛隊との連携強化〉が打ち出された。
自衛隊法第八十条第一項は、海上保安庁の「統制要領」として以下のように定めている。
〈内閣総理大臣は、第七十六条第一項(第一号に係る部分に限る。)又は第七十八条第一項の規定により自衛隊の全部又は一部に対する出動命令があった場合において、特別の必要がある時は、海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れることができる〉。
さらに同条第二項では、防衛大臣は海保を統制下に入れると、政令に基づき指揮することとなっている。
自衛隊法第七十六条は外部からの武力攻撃事態やそのおそれがある場合に際して、同七十八条は間接侵略その他の緊急事態に際して、内閣総理大臣が〈自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる〉と定めている。その際、海保は防衛大臣の統制・指揮下に入り、自衛隊が戦闘に集中できるように住民避難や海上における人命保護の役割を主として担うことになる。
そのための机上・実動訓練はすでに行われており、琉球弧における自衛隊強化と並行して海保の強化も進められている。「台湾有事」を喧伝して琉球弧における米軍と自衛隊の大規模な共同訓練が頻繁に行われているが、海上保安庁の参加も拡大し、警察組織としての範囲ではあっても、米軍や自衛隊を補佐する役割を担わされている。
この三つの組織が航空機事故を頻発させていることは、沖縄に住む私たちが事故に巻き込まれる危険性が増しているということだ。宮古島沖に墜落した自衛隊ヘリが、もし陸上の住宅地に墜落していたらどうなっていたか。屋久島沖で墜落した米空軍のCV22オスプレイにしても、目指していたのは嘉手納基地であり、飛行が続いていてその周辺に墜落していたら、住民を巻き込む大惨事となっていた。羽田空港の事故にしても、那覇空港の状況を見れば同じような事故が起こる危険性は大きい。
沖縄の玄関口である那覇空港は、自衛隊も使用する軍民共用空港であり、海上保安庁の航空機も使用している。中国やロシアの軍用機が領空に接近すれば、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進し、その回数は日本全体の半数を超えている。
〈自衛隊との共同使用も那覇空港の特徴の一つだ。陸海空3自衛隊の部隊が置かれる空港は那覇だけで、特に領空侵犯の恐れがある外国機に対する航空自衛隊F—15の緊急発進(スクランブル)は近年増加している。那覇空港は緊張度が高まる南西地域の前線基地でもある。
民間機と自衛隊機が絡むトラブルも起きている。15年6月には、空自のCH47ヘリが管制官の指示を待たずに離陸して滑走路を横切り、滑走中だった全日空機が急きょ離陸を取りやめ停止。その後方から日本トランスオーシャン航空(JTA)機が着陸し、衝突事故につながる危険が生じた。過密な運行状況の中、空自ヘリの操縦士が管制官の離陸許可を誤認したことや、不十分な目視確認が原因だった〉(2020年4月6日・琉球新報電子版)。
1月2日に羽田空港で起こった事故と類似の事例が、2015年に那覇空港でも起こっている。那覇空港には米軍の訓練空域を避けるため、離着陸の際に高度を1200フィート(約360メートル)以下に維持するという制限もある。米軍機優先のため、世界でも例がないと言われる高度制限が強いられているのだ。ただでさえ危険な運用がなされている那覇空港で、軍事優先がさらに進み、自衛隊や海保の航空機の使用が増加すれば、大事故が起こる可能性が高まる。