海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「地を這う声のために」第7回の3

2024-08-21 10:13:41 | 米軍・自衛隊・基地問題

 一方で、米軍の那覇空港使用に向けて外堀を埋める策動が進められている。先に触れた「国家安全保障戦略」に基づき、2023年8月25日に「総合的な防衛体制の強化に資する研究開発及び公共インフラ整備に関する関係閣僚会議」が開かれた。その場では「公共インフラ整備」に関し〈自衛隊・海上保安庁の活動上のニーズ〉として次のような議論がなされている。

〈自衛隊及び海上保安庁は、安全保障環境を踏まえ、必要な場合、以下のような活動を行う。このために必要な空港・港湾等を整備し、自衛隊・海上保安庁の艦船・航空機が平時から円滑に利用できるようにすることが必要である。

 【海上保安庁】

 港湾施設等におけるテロ等の警戒、捜索・救難、人命救助、国民保護等を実施。

 【自衛隊】

 〇航空優勢を確保し、我が国に侵攻する部隊の接近、上陸を阻止。

 〇状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開。また、国民保護を実施。〉

 その上で、〈空港・港湾整備・利用の考え方〉として次のように記されている。

 考え方

 〇安全保障環境を踏まえた必要な対応を実効的に行うため、南西諸島を中心としつつ、その他の地域においても必要な空港・港湾等について、民生利用とのデュアルユースを前提として、自衛隊・海上保安庁の航空機・艦船が利用できるように、整備又は既存事業の促進を図る。

 〇併せて、自衛隊・海上保安庁が、平時から円滑に空港・港湾等を利用できるよう、インフラ管理者との間で「円滑な利用に関する枠組み」を設ける。

 〇上記を満たす施設を、特定重要拠点空港・港湾(仮称)とする。

 【整備】

 〇空港の滑走路延長、エプロン整備や港湾の岸壁、航路の整備などを行う。

 〇円滑な利用に関する枠組みを設けることにより、有事のみならず平時においても円滑な利用を確保する。

 【既存事業の促進】

 〇自衛隊。海上保安庁の早期かつ円滑な利用に資するよう、既存の整備計画を活用し、整備の促進や追加工事の実施を行う。

 〇円滑な利用に関する枠組みを設けることにより、有事のみならず平時においても円滑な利用を確保する。〉

 文中に出てくる〈デュアルユース〉とは軍民両用という意味である。〈南西諸島を中心としつつ、その他の地域においても〉自衛隊と海上保安庁が民間の空港・港湾を有事はもとより平時から軍事利用しようという企てだ。そのために自衛隊や海保の航空機、艦船が使用できるように滑走路の延長や岸壁の拡大、水深の確保などの整備を進め、インフラ管理者との間で「円滑な利用に関する枠組み」を設けるとする。

 日本政府の魂胆は分かりやすい。空港・港湾の整備による利便性向上、経済振興、地域活性化、工事を請け負う地元業者の利益などを罠にして、地方自治体の首長や保守系議員、建設業者、商工会などを絡めとり、琉球弧の全域で民間の空港と港湾を軍事利用し、自衛隊への協力体制を作り上げようというものだ。

 全国9道県32か所の候補が挙げられるなか、最多の沖縄県では7空港(那覇空港、久米島空港、宮古空港、下地島空港、新石垣空港、波照間空港、与那国空港)と5港湾施設(那覇港、中城湾港、平良港、石垣港、与那国新港)が対象となっている。玉城知事は2024年度予算への計上を要望しない考えだという。だが、与那国町や石垣市では保守系の首長が受け入れに積極的に動いており、今後、これら保守系首長や議員、国による玉城知事への圧力が強まっていくだろう。

 

 那覇空港について見ると、第二滑走路につながる誘導路を現在の1本から2本に増設する計画が示されている。それによって自衛隊機や海保機が滑走路を使いやすくなるだけではない。日本政府は日米地位協定第5条に基づき、民間の港湾や飛行場を米軍が使用することを認めている。自衛隊や海保に加えて米軍まで使用するようになれば、軍民共用の那覇空港の危険性はさらに高まる。

 冒頭に触れたように、1年にも満たない期間で、自衛隊、米軍、海保が乗員の全員もしくは大半が死亡する大事故を続けて起こした。いずれの事故も、ほんのわずかな差で住民の犠牲を引き起こしかねないものだった。もし自衛隊ヘリや米軍のオスプレイが陸上の住宅街に落ちていたら……。海保機と衝突した民間旅客機の乗客・乗員の避難が遅れていたら……、想像するだけで恐ろしいが、同じことがこれから沖縄で起こらないと言えるか。

 「台湾有事」を煽り立て、日米両政府は琉球弧の軍事要塞化を急速に進めている。それに伴い、米軍・自衛隊・海保による大規模な軍事訓練が活発化している。いつ住民を巻き込む大惨事が起るかもしれない危険な状況に沖縄人は「平時」から置かれているのである。

 また、民間の空港・港湾の軍事利用が進めば、当然そこは戦時に敵の攻撃目標となる。日本政府が打ち出した特定重要拠点空港・港湾は兵站・継戦能力維持のために必要なのであり、敵からすればそこを破壊することで、琉球弧の各島々を孤立させ、兵員や武器、弾薬、食料などの供給を阻止し、弱体化した駐留部隊を撃破することができる。

 その時、空港や港湾が使えなくなった住民は、島から逃げ出すことができず戦闘に巻き込まれることになる。そして、電気、水、通信、交通などの生活基盤が破壊された中で、食料をはじめとしたあらゆる物資の不足に苦しめられる。自然災害と違い、戦時に制空権、制海権を奪われれば、各島々への支援もできなくなるのだ。

 2014年の8月から辺野古の海・大浦湾でカヌーに乗って辺野古新基地建設に反対してきた。今年で10年目を迎えるのだが、年頭に目にしたのは辺野古新基地建設に向けた大浦湾側の着工であり、海に投下される捨て石だった。強風のためカヌーを出すことができず、抗議船からその様子を眺めた。ヤマトゥの捨て石として利用され続ける沖縄の状況を象徴するような光景に胸が痛み、怒りが込み上げた。悔しいかぎりだが、チルダイして腐りヤマトゥ政府に屈するわけにはいかない。海でもゲート前でも、安和、塩川でも、さらに長いたたかいが続く。シマンチュなら傍観者にならず、現場んかい来い(くー)よ。

 


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