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海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

『座間味村史・下巻』より3

2008-01-28 01:51:33 | 日本軍の住民虐殺
 以下に引用するのは阿嘉島の宮平正春氏(当時二六歳)の証言である。
 宮平氏は沖縄戦当時、屋嘉比島の慶良工業所に勤め、鉱石運搬船に乗り組んでいた。三月二三日、阿嘉島に船を非難させるが、米軍機の攻撃で船は沈没。その後、阿嘉島の山中で与那嶺老夫婦のタキエさんが日本軍に殺害されるところを目撃する。また、朝鮮人軍夫が銃殺のため日本軍に連れて行かれるところも目撃している。宮平氏自身も日本軍に暴力をふるわれている。
 与那嶺老夫婦の虐殺に関する証言は1、2と一緒だが、殺害の現場を目撃した貴重な証言である。

 〈上陸以来一週間、島には人間が全く見当たらない。ほんとうに自分一人だけ生き残っているのだろうか。ともかく山を登って行こうと、川の流れに沿って歩いた。ふと、目の前を見ると、子供のおしめらしきものが干されている。急いで行ってみると、何と、民の集団避難所であった。一週間ぶりに会う船員たちの顔を見て、ほんとにホッとした。翌日、各自思い思いに避難小屋を作ることになり、清松君と船頭殿のおばさんらとともに、一日がかりで小屋を作りあげた。谷間に避難小屋が数十軒できた。長期戦のなかでは、特に食糧が不足してしまうものである。私は先に、浜辺に穴を掘って、米や砂糖をかくしておいたので、それを取りに行くことにした。
 私が先頭になり、米兵の様子をさぐりながら、暗闇を利用して船員とともに食糧運びを開始した。時々、照明弾が島全体を明るく照らしている、その翌日もまた、残りの食糧を取りにいったが、誰が取ったのか、すっかり持ち去られている。
 日々、生きることに喜びがわき、食糧あさりにも熱が入るようになったが、ただ、日本軍の監視が、米軍に対してよりも民間人に重点が置かれるようになった。日本軍も食糧確保に必死になっているときで、この頃から次第に日本兵の悪事が目立ってきていた。
 その口火を切ったといえるのが、朝鮮人軍夫の銃殺である。その理由は、モミ粒がポケットの中に入っていたというもので、三人が後ろ手にしばられ、銃をかまえた兵隊たちに囲まれて、死の山道を下っていった。終戦後、彼らの遺骨収集に当たった人の話では、全員が針金でしばられて殺されたらしく、骨になった手には針金が結ばれていたとのことであった。
 それからある晩、椎の木に登って椎の実を食べていると、急に悲鳴が聞こえた。日本兵が女の人を竹槍で刺し、銃殺しているところであった。女性はぐったりとなり、間もなくして谷間へバタバタと転がり落ちていった。この場所からそんなに遠くない所から、今度は悲痛な叫びと、呻き声が聞こえてくる。私は恐怖のあまり、金縛りにでもあったかのように、木から下りることができないほどであった。
 夜中、やっと冷静さを取り戻し、木から下りて避難場所へ駆け込んで行った。民にそのことを話すと、みんな怯えたような表情になった。惨殺されたのは、ウルルンメーのおじさん夫婦であることが後日わかった。この夫婦は、大翁長の親子と一緒に捕虜となり、夫婦だけが民家に連れてこられて米軍に保護されていたのである。米軍上陸後の捕虜第一号であった。奥さんは本土の人で、南方にいた経験から英語が少々話せたらしく、米軍から食糧をもらっていたようだが、に下りていった日本兵に見つかってしまい、二人は捕らえられて殺されたのであった。もし、大翁長の親子がその頃阿嘉に残っていたら、同様に日本軍に銃殺されただろう。
 それから日本兵は次第に凶暴になり、住民に圧力をかけては食糧を奪うといったことが増えていった。五月二五日、私たち船員四人が本部に呼び出された。かくしてあった食糧はどうしたかというのである。食糧はもうないと答えると、四人とも、直径三センチあまりもある棒が折れてしまうまで、さんざん叩かれてしまった。特に船長と甲板長の叩かれかたはひどく、船長は体中がどす黒く腫れ、服も脱げない状態であった。また甲板長は耳が半分まで切れて、ずっと血がしたたりおちている。その痛手で、甲板長は戦後死亡してしまった。
 その後三日間、我々は大きな松の木に、後ろ手に縛られた。周囲には日本兵の死体が埋められているせいか蠅が群がり、我々の目や鼻に吸いついてくる。手はしばられているため、首を振ってもなかなか離れてくれない。解放されたときには、目の周りが真っ赤に腫れていた〉(159~160ページ)


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