海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

辺野古新基地建設の護岸整備予算

2008-12-23 18:03:25 | 米軍・自衛隊・基地問題
 12月20日付琉球新報朝刊一面トップは〈普天間代替 本体工事へ〉〈09年度予算、防衛省要求〉〈護岸整備に3億円〉という見出しが並んでいる。

 〈防衛省は十九日、二〇〇九年度の八月の概算要求時には未調整のため盛り込めなかった米軍再編関係費と日米特別行動委員会(SACO)関係経費の予算要求を発表した。米軍普天間飛行場移設関連は九十三億円八千七百万円で、施設本体の護岸工事に三億円を新規で要求した。日米合意した辺野古沿岸部への代替施設建設に着手する。同省は財務相との調整をほぼ済ませており、二十日の〇九年度予算財務省原案に同額が計上される見通し」〉。
 〈護岸工事は、沿岸部埋め立て部分の北側で、燃料施設や飛行場支援施設が位置する場所。護岸工事の予算要求は、環境影響評価(アセスメント)調整が遅れる中、ロードマップ(在日米軍再編行程表)通りの順調な進展をアピールしたものとみられる〉。

 見出しだけをみると、何か今にも本体工事が始まりそうだ。実際には、環境影響評価の調査が遅れる中、〈施設本体の護岸工事〉の予算を新規に付けなければ、作業の遅れが鮮明になり、米国からの批判は免れないし、推進派の意気も上がらないので、意地でも予算を付けたというところだろう。そういう政治的思惑と同時に、これから工程表の遅れを取り戻すため、強引に作業を進めていくという日本政府・防衛省の姿勢がうかがえる。
 防衛省がこのように、次年度中に環境影響評価の調査及びその分析を終え、本体工事に着手する姿勢を打ち出すことは、米軍基地の県内「移設」反対が多数を占める県民世論をないがしろにするだけでなく、環境影響評価調査の方法上からしてもデタラメ極まりないことだ。仲井真知事が鎌田沖縄防衛局長に出した「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書に対する知事意見について」という文書には次のように記されている。

 〈地形及び地質の概況並びに重要な地形及び地質の分布、状態及び特性に係る陸域からの土砂供給量調査については、海触崖の後退量を計測するとしているが、海触崖の後退量は1年間の調査期間では十分把握できないものであることから、台風や季節風などによる波食棚などの海岸地形の変化も捉えられるよう調査時期・調査期間を設定すること〉(12ページ)。

 〈海藻草類の調査期間については、海藻草類の季節的な消長・生育状況及び藻場を構成する海草が希少種であることも考慮に入れて重点化し、四季の調査を行うこと。
 また、藻類は台風の襲来等により分布域が変動するが、台風の規模や襲来数が毎年異なることにより藻場の分布域の経年変動があることから、海藻草類の経年変動の調査手法については文献及びその他参考資料調査のみではなく、複数年の現地調査を実施し、経年変動についても十分に把握すること〉(16ページ)。

 〈沖縄島周辺海域に生息するジュゴンについては、これまで科学的調査などがほとんど行われておらず、その生活史、分布、個体数などに関する知見が非常に乏しい現状であることから、これらに関する知見を事業者として可能な限り把握するため、生活史等に関する調査を複数年実施すること〉(17ページ)。

 〈生態系とは、生物と非生物環境とが一体となったシステムであり、「生態系の概況」を知るということは、生息・生育している種の動態(環境変動との関係を重視)、種間・種内関係、食物連鎖機構、物質循環過程、人間による攪乱の影響等を総合的に把握することをいう。イギリスの森林生態系では50年に及ぶ研究でその動態の概要が明らかになってきており、オーストラリアのグレートバリアリーフでは30年の期間を要した研究が発表されるなど、様々な攪乱のパターンがようやく整理されてきている。このように、生態系の全てを調査し理解するためには多くの時間と労力を必要とし、現在の科学的知見だけではまだ十分に把握できないことも多く、数年間のしかも各季節ごとの調査を実施する程度では解明可能な調査対象ではないことを理解することが大切である。また、生態系の動態には、地球環境変動、台風のような一時的な攪乱などが影響を及ぼすが、これらの影響は年によっても異なることから、事業の実施に関連してどのような影響が短期的、長期的にでるのかをこれらの自然現象とも関連させて検討する必要がある。
 以上のことを踏まえた上で、生態系に係る調査、予測及び評価の手法については、可能な限り客観的なデータに基づく科学的・定量的な予測を行うとともに、適切な環境保全措置及び不確実性を考慮した適切な事後調査の方針を検討すること〉(20ページ)。

 以上見たように、「知事意見書」においてさえ、各季節ごとの複数年にわたる現地調査の必要がくり返し指摘され、強調されているのだ。最後に長く引用した文章に示されるように、〈人間による攪乱の影響等〉を正確に把握しようとするなら、できるだけ長期にわたる調査が必要となり、〈複数年〉もそれを踏まえた表現であることは言うまでもない。このような「知事意見書」を無視して、1、2年で環境影響評価の調査を切り上げ、その分析の期間もろくに取らず、しかも工事中止の評価は最初からあり得ないものとして、次年度から本体工事に入るかのように打ち出す防衛省の姿勢はデタラメ極まりない。仲井真知事氏にしても、自らの名で出した「意見書」が無視されていることに抗議すべきだし、それをしないのなら政府・防衛省と馴れ合っているとしか言いようがない。
 琉球新報も〈普天間代替 本体工事へ〉と報道するのなら、そういう問題にまで触れるべきだろう。そうでなければ、ああ、もう来年から本体工事が始まるのか、という誤った認識・印象を県民に与えてしまう。琉球新報に限らず沖縄のマスコミは、政府との予算折衝に関しては県政をバックアップしようという姿勢が前面に出て、批判的検証が後退する傾向があるように以前から感じている。予算配分は官僚や政権与党が地方自治体を支配する最大の権力行使の場であり、県政与党と政権与党の癒着が生じる場でもある。大学院大学や不発弾処理の予算獲得がうまくいったと喜んでいる仲井真知事や県政幹部らの姿を報じるだけで、「知事意見書」をないがしろにする政府・防衛省・仲井真知事らの問題を問わないのなら、予算配分でふるわれる権力の監視を怠っているとしか言いようがない。

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