海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

浜ぬ足跡ん

2008-12-12 09:31:40 | 生活・文化
 この二晩素晴らしい月夜が続いている。一昨晩は深夜から近くの海に行った。大きく潮の引いた砂浜のなめらかな肌が月の光に照らされ、泡一つ立たない波にサンゴの小さな破片がかすかに鳴る。何度も往復して澄みきった夜の景色と音を楽しんだのが、実はそこは埋立地に造られた人工ビーチなのだった。それでも、十数年の時が経ち、植えられたアダンやハマスーキが葉を茂らせて人の手になる秩序を乱すようになり、自生したグンバイヒルガオや木麻黄も勢力を広げ、夜になるとそれなりの雰囲気をたたえるようになっている。30数年前、埋め立てられる前の名護の砂浜で従兄達と遊んだことを思い出すと複雑な思いになるのだが、それでも、冬の月夜の砂浜には惹きつけられるものがある。

 月とぅ太陽とぅや ゆぬ道通る かぬしゃま心ん ゆぬ道ありたぼり

 というトゥバラーマーの歌がある。月の後を追って太陽が同じ道を通い、今朝も気持ちのいい空が広がっている。沖縄では紅葉はわずかしか見られないのだが、名護小学校からオリオンビールの工場に続く通りにナンキンハゼの並木があり、それがいま赤く色づいている。ヤマトゥの紅葉には比ぶべくもないが、朝の光を受けて葉が赤く輝く風景は、沖縄では珍しく、けっこう綺麗なものだ。それと同時にブーゲンビリアの花も咲いているのが沖縄の冬景色らしいが。
 実家の庭の椿やツツジの鉢には蕾が沢山ついている。鉢植えの椿はすでに白い花を咲かせた。裏庭のポインセチアもやがて赤い花を咲かせるだろう。シークヮーサーの実もやがて黄金色になる。
 沖縄は季節感が乏しいとヤマトゥンチューは感じるかもしれないが、ヤンバルに産まれ育った私には、実に豊かで微妙な自然の変化が全身に感じられる。オオシマセミの声が消え、芙蓉の花が終わり、サンニンの赤い実が堅くしぼんでいき、チョンチョンが庭で鳴き始める。長くなった夜に初冬の冷気は月の光をいっそう青く鮮やかにする。

 寄する波音に 立ちゅぬ影揺りてぃ 白砂に残る 声や遠く

 月や西下がてぃ 冬ぬ露うりてぃ 浜残る思いん 消えてぃいちゅさ


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« F18墜落 | トップ | 宮古島市長辞職 »
最新の画像もっと見る

生活・文化」カテゴリの最新記事