海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

宮古島市長辞職

2008-12-12 23:31:21 | 米軍・自衛隊・基地問題
 琉球新報12月11日付朝刊に、宮古島市の伊志嶺亮市長が10日午後に記者会見を開き、12月31日付で辞職する意向の退職届を市議会議長に提出したことを発表したという記事が載っている。同記事によれば〈宮原地区ほ場整備事業補助金不正受給問題や、市発注工事で最低制限価格を漏らした競売入札妨害(偽計)容疑で市伊良部総合支所の課長と業者二人の計三人が逮捕された事件など一連の不祥事の責任を取り〉辞職するとのことだ。以前から任期途中で辞職する意思は表明されていたのだが、伊志嶺氏がこのような形で辞職を選択せざるを得なかったことは残念でならない。
 1997年4月にコザ高校から宮古農林高校(当時)に転勤となり、平良市(当時)下里にある学校近くのアパートを借りて3年間暮らした。伊志嶺氏が市長に就任して間もない頃で、地元の同僚が伊志嶺市長誕生の経緯をこう話していた。
 前の社長は建設会社の社長でもあり、公共工事を乱発して私的利益の追求をはかり、ほかの企業も工事欲しさに市長に媚びへつらっていた。そのため市の財政は破綻寸前となり、このままでは平良市は大変なことになる、という危機感が市民に広がった。それでみんなで伊志嶺氏を押し立てて当選させたのだと。
 引っ越し前にアパートを探すため、初めて平良市を訪れたときに驚いたのは、市庁舎の立派さだった。あとで建設費に70億円以上かかり、建設業者は儲かったが市の財政危機の原因となった、と聞かされた。当時はトゥリバー地区の埋め立て工事の最中でもあった。アパートが近くだったので時々釣りをしに埋立地に行ったのだが、沖縄島の埋立地の状況を見ても、はたして宮古島で計画通りに企業誘致ができるのだろうか、という疑問が湧いた。
 学校のPTAの集まりで、建設会社の社長をしているという保護者からこういう話を聞いたこともあった。宮古では石を投げれば建設業者にあたるとか、三人集まれば一人は建設業者とか言われる。みんな大した金も経験もないうちからすぐに社長になりたがり、会社を作ってはすぐに倒産してしまう。自嘲気味に語られたその言葉は、宮古島だけの問題ではなかった。沖縄全体が大なり小なり似たような状況にあったのだ。
 宮古島の状況を少しずつ知るにつれ、同僚から聞いた話の真実味は増した。元もと医師であった伊志嶺氏は、ハンセン病療養所・南静園の園長を務め、芸術・文化にも理解が深く、温厚、誠実な人柄で市民の信望も厚いように見えた。ただ、前市政の残した乱脈財政の付けが重くのしかかっていて、トゥリバー埋め立て地区の売却をはじめ、その対応に苦しみ続けていたように思う。市職員も前市政までの保守系労組と革新系労組に二分していて、それをまとめる苦労も絶えなかっただろう。
 2005年10月、平良市、城辺町、伊良部町、下地町、上野村が合併して宮古島市が誕生し、行政内の混乱と職員をまとめる困難さはさらに増したと思う。だが、それを言い訳にできないことは、伊志嶺市長本人が一番よく知っているからこその辞職であったのだろう。リーダーシップの足りなさを指摘されればそれまでなのだが、ただ、同時に、伊志嶺市長を辞職に追い込んでいった勢力の意図も見なければならないのではないかと思う。
 しばらく前に、辺野古で新基地建設反対運動に取り組んでいるティダの会の臨時総会があった。総会終了後の雑談の中でこういう話が交わされた。宮古島市では最低制限価格を漏らしたことで職員が逮捕され、それが市長の辞任につながったが、名護市では最低制限価格と落札価格がドンピシャリの公共工事が何件もある。市の情報が業者に漏れているのは間違いないが、名護署も沖縄県警もけっして捜査しようとはしない。それは警察の幹部が経済界とつるんでいるからで、伊志嶺市長は革新市長だったから警察が動き、職員を逮捕して辞職に追い込んだ。そうやって下地島空港の軍事利用に道を開こうとしている。一方で、名護市の方は保守市長だし、辺野古の基地建設に悪影響を及ぼすので、どんなに不祥事が連続しても警察は動かない。
 これはただの憶測ではないだろうと私は思っている。公共工事の談合は行政内部からの情報提供なければできない。名護市の設定した最低制限価格と落札価格が一円単位で一致している問題は、これまで何度も名護市議会で取り上げられている。しかし、名護署も沖縄県警もけっして動こうとはしない。下地島空港のある伊良部総合支所への警察の捜査との差は、基地問題の視点を抜きに正確に捉えることはできないだろう。
 12月11日付琉球新報には、伊志嶺市長の辞任を受けて、宮古島市長選挙は年明けの一月末か二月初旬に実施される見通しとなった、という記事も載っている。
 〈選挙戦に向けては、自民・公明の両会派、元そうぞうや与野党の一部が合流した新会派「21世紀新風会」、伊志嶺市政の継承をにらむ与党革新系がそれぞれ候補者擁立への動きを見せている〉という。
 自民党やそうぞうの影響力の強い人物が市長となれば、陸上自衛隊の宮古島配備と連動して、下地島空港の軍事利用の動きが急浮上してくるだろう。金融危機による不況が深刻化すればするほど、経済活性化を口実として軍事基地誘致を進めようという動きも強まる。すでに裏工作を進めている政治屋や軍事ブローカーもいるはずだ。
 軍事基地があり軍隊がいるからこそ敵の攻撃目標になり、住民の犠牲も大きくなる。それは沖縄戦から私たちが得た貴重な教訓である。下地島空港の軍事化は、中国を刺激して対抗的な軍事強化を生み出すだけではない。米軍や自衛隊がアジア各地で軍事行動を展開する拠点ともなる。年明けの宮古島市長選挙は大きな意味を持つ選挙となる。宮古島を中国に対抗する軍事拠点にしようという動きを許してはならない。

※琉球新報12月12日付夕刊によれば、宮古島市長選挙は1月18日告示、1月25日投開票が確実となっている。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 浜ぬ足跡ん | トップ | 流弾事故か。 »
最新の画像もっと見る

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事