ソノラ・パスとは、シエラ・ネヴァダ山脈を横断するいくつかの自動車道路のうちソノラ市とブリッジポートを結ぶもので、正式名称は州道108号線である。それは筆者が2024年メモリアルデー休日に敢行した、カリフォニアドライブ紀行最終日の記録だ。シエラ・ネヴァダ山脈東側の町、ビショップでは日本料理“山谷YAMATANI” で、すき焼きを食べるのを楽しみにしていたのだが、残念ながら日曜日は休業日であった。仕方なく数ブロック南にあるビール醸造所でハンバーガーをパクつきながらビールを4杯ほど飲めば、ほどよく酩酊したので、宿のクオリティ・インへ戻って眠りについた。
このドライブの記録は以下のとおりだ。参考にしてもらいたい。
①シエラ・ネヴァダ横断を決める。
翌朝に下宿までの経路を調べれば、このソノラ・パス利用経路が最短距離として表示された。高速道路が整備された北米では、地図上の直線距離が近くてもこのような山越えの経路はなかなか表示されないのが常であるが、シエラ・ネヴァダ山脈は迂回するには長すぎるのだ。ホテルの路地の角にあるガソリンスタンドでガソリンを満タンにし、特筆すべき出来事の無かったビショップの町の思い出のために丸いサングラスを購入した。鏡を見るとレンズから眉毛がはみ出し、中国人マフィアのようで嬉しい。それにこの日は快晴で、朝焼けに山が輝く景色も嬉しい。
②ソノラ・パスまで
ビショップ市からソノラ・パスの入口までは、395号を3時間ほど北上しなくてはならない。だがこの道も楽しい。西側には急峻な雪山を眺め、東側は“グレート・ベイシン”と呼ばれる太古の昔に湖だった広大な盆地エリアで、荒れ地や乾いた湖の景色が続き、時折標高が上がればヒノキの森を抜ける。そして昔には何かの産業があったか知らないが、今はもっぱらハイカーやクライマーやスキーヤーの基地になっている小さな集落を通過するときに、速度をすーっと落としてゆっくりと通り過ぎるのも楽しいものだ。そうしているうちにソノラ・ジャンクションに着いてしまう。
③ソノラ・パス入口
395号線からソノラ・パスへ入る場所は、 “ソノラ・ジャンクション” というたいそうな名前が付いているが、全く何もない単なる淋しい丁字路で、危うく通り過ぎそうになるほどだ。少し進むと警告看板があり、非常に急こう配かつヘアピンカーブの道であるため大型車やトレーラー牽引車にはお勧めしないとの内容である。筆者のポンコツカーで大丈夫かと不安になったが、ポツリポツリと普通乗用車とすれ違うので、どうやら大丈夫なようだ。少し標高が上がると眼下の平たい麓に蛇行した川が見える。カリフォルニアはでこのような自然な河川を見ることが少ないし、こういった緩い勾配を蛇行する川は日本でも珍しく、背景の雪山と合わさった優雅な景色は絵画のようで嬉しくなる。この水が全て “グレート・ベイシン” 内で地下水となって海洋には届かないということが想像できない。
ここからは読者諸氏のために多くは書かないが、初夏のソノラ・パスは雪解け水や残雪に触れたり、滝を眺めたりしながら最大標高9600ft地点(日本最高峰の自動車道路乗鞍スカイラインよりも高いのだそうだ)を通過する。そして、ヨセミテがなければ確実にもっとスポットライトを浴びたであろうはずの岩山の景色を見ながら下っていく。なかなか楽しい道だった。だがこの道はもともと観光道路ではない。山脈東側での金鉱脈の情報を聞きつけた山脈西側の連中が、荷駄を積んで走れる道を作ったのがきっかけのようだ。欲望はシエラ・ネヴァダを越えるというものだ。月にだって届くんだから、簡単な話である。一方で筆者の欲望は、この長屋下宿で停滞したままだ。