ベイエリア独身日本式サラリーマン生活

駐在で米国ベイエリアへやってきた独身日本式サラリーマンによる独身日本式サラリーマンのための日々の記録

スイカの種

2024-05-05 02:18:40 | 食材
スイカの種とは、スイカの種子のことである。米国で車を運転していると、窓から顔を出し、風を受けて気持ち良さそうな表情した飼い犬たちをよく見る。彼らはニンゲンが編み出したこのマシンに対して何の知識もないはずなのに、恐ろしい(はず)の速度で走る箱の中に居ても、何の恐怖も疑問も持っていないようなので、こちらとしては不思議な気分になる。だが自身を振り返って考えれば、実は我々もクルマのことで知っていることは多くない。にも関わらず疑問も恐怖も持たずにいる点では、飼い犬たちと差はないように思う。生き物の『事象を受け入れる能力』は極めて高いのかも知れない。仮にネアンデルタール人さんが間違って現在にタイムスリップしてきても、すぐにスマホでラインを始め、アダルト動画を見るのだろう。今回は食べるスイカの種を紹介しよう。


この種の特長は以下のとおりだ。参考にしてもらいたい。


①スイカの種と日本
スイカの種は、日本有史以来忌み嫌われる存在のように思われる。その黒ゴキブリの子供のような見た目のせいか、『食べると食あたりを起こす、盲腸になる』などと言われており、幼児の頃に母や祖母などから“飲み込まないように”と注意された記憶がある人も多いに違いない。また、客先でスイカを出された時の種の処理の礼儀作法は、日本社会で未だに確立されておらず、人々を戸惑わせる原因となっている。そのためついには“種なしスイカ”なるものが開発され、主流となっている状況にある。かつて昭和後期生まれの少年にトラウマを与えた “加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ” の“スイカマン”のコントにも、スイカの種に対する潜在的な忌避感が根底にあるように思われる。


②食べるスイカの種
以前もどこかの回で紹介したが、北米のアジア系スーパーでは日本人には馴染みのない豆や種が売られていて面白い。とはいえ①で挙げたような背景があるため、筆者はアジア系スーパーの食料品コーナー(園芸コーナーではない)でスイカの種の袋詰めを見つけても、積極的な購買意欲を持てずにいた。しかしフィリピン系のパシフィックで売られている商品は、ラベルのデザインがトロピカルでポップなので挑戦することにしたのだ。それはルシア社の商品で、黄色いラベルには手書き風のスイカのスケッチがある。ちゃんと黒い粒々も丁寧に描かれていていて具合がいい。



③ルシア社のスイカの種
このルシア社のスイカの種は、見た目が日本のものとは異なる。黒みが少なく、チャバネゴキブリほどの大きさがあって、スイカというよりは大き目の向日葵の種に近い風貌をしている。だが、ラベルには確かにWATERMELON SEEDSと書かれているし、絵もスイカなので、スイカのはずだ。内容物はスイカの種と塩のみなので余計な香りや味付けの無いシンプルな商品と言える。


④ルシア社のスイカの種
これが食べて楽しい商品だったので、一人長屋でデストラーデ選手ばりのガッツポーズを決めてしまった。それと同時に長くの間、些細な偏見から購入を避けていた自身への反省もあった。食べ方にコツがある。このスイカの種は、皮は食べずに中の胚の部分だけを食べるのだ。まず歯で種の先の方のみを割って、そのあと今度は残った殻を縦方向に歯を立てれば、パリリと割れて中からナッツ色の薄い胚の部分が顔を出す。うまくいけば、スマートフォンのシムカードを取り出すように、殻から胚の部分を綺麗にスルリと指で摘まみだせる。これが気持ち良い。うまくいかないことも多く、それがまた楽しい。味はナッツの風味に、ほのかに僅かに甘酸っぱい匂いがあって、嬉しい。チビチビ飲む酒のつまみとしてなかなか上等である。



“仮にネアンデルタール人さんが間違って現在にタイムスリップしてきても、すぐにスマホでラインを始め、アダルト動画を見るのだろう”と書いたが、それは間違っているかも知れない。彼らが滅んだのは『事象を受け入れる能力』が足りなかったからかも知れないからだ。車を恐れる生物、火を恐れる生物、体制に疑問・不満を持つ生物は淘汰され、考えず、疑問も持たず、エライ人が発明したもをすぐに受け入れ、体制に従うことができる体質の生物(飼い犬)が、生き残ったのかも知れない。選挙に行かずに、構造のわかっていない機械やシステムにただ身を委ねる特殊能力を持つニンゲンが最強・・・などと考えつつ、種の保存に貢献しそうにない30代独身日本式サラリーマンが、スイカの種をポリポリしている。