しばらく、前ですが。
モモヤビルに入り、エレベーターの四階のボタンを指先…ではなく、折り曲げて尖らせた、人差し指の第二関節で押し、やがて扉が開くと、目の前に現れるスナックの入り口二つにはシャッターが下されたまま。(現在は営業を再開なさってます。)
それを横目に、灯りのついた美容室の前を通りつつ、奥の開け放たれた入り口へ。
店内の窓も開けられていて風が吹き抜ける中、ふとカウンターに目をやると、用意されている箸置きとコースターは2組分。
そして奥の席に座ると、あの手書きのメニューが。
本当に久しぶりにここに座ったなと、実感…したのが、およそ1ヶ月ほど前。
諸々がようやく、一応、落ち着いてきた頃でしょうかね。
その頃はまだ世の中が何というか、お互いについて疑心暗鬼と言うか、掴み所の無い不安にかなりギスギスしてる感じで。
とは言え。
無事に再び、ここに辿り着けたし、生き抜く事ができましたよー、なんてマスターと話しつつ、久しぶりのカウンターの座り心地が嬉しかったりしまして。
で、メニューにあった「別海牛のカツレツ」が気になり、早速オーダーを。
フライパンで少ない油を使い、言わば「揚げ焼き」するから「カツレツ」。フレンチやイタリアンの手法ですね。カリカリに揚がってます。
デミグラスソースが染み込んだ部分は、旨味がジュワッと溢れる。
そしてひたすらに柔らかい。噛んだ前歯にしっとり絡みつくような食感。
…別海牛と言えば、北海道産の牛肉でも特にお高い部類だったような…別海町って人より牛の方が多い町だし…
なんて事を、ボーッと考えつつも、別海牛なのにこのフレンドリーなお値段、お肉自体の味わいや柔らかさを考えると、何かかなり上等なモモ肉だろうか、と。
それに確か、牛のカツレツには叩いて薄くしたモモ肉を使うのが一般的だと聞いたかもしれんし。
そんな訳で、マスターに「これ、モモ肉っすか?やっぱり」と伺ったら…
「シャトーブリアンです」と。
…。
……。
しゃとぉぶりあん??
牛一頭から少ししかとれない、ヒレ肉の中でも特に上質な部分で、鉄板焼き屋さんのコースで2万くらいのをお願いしたら、150グラムくらいのステーキが最後に後光を放ちつつ恭しくやんごとなき感じで現れる、アレ。
ブランドによっては、なんかもう、150グラムくらいで5、6万するなんて話も聞いたことがある、アレ。
それが、ファミレスの一番高いメニューぐらいのお値段。
久しぶりに追加注文。
今度はシンプルに、パン粉にバジルや粉チーズを混ぜてカツレツにしていただきました。
こうなるとお肉の旨さがダイレクトに。レモンを絞ると、更にさっぱり爽やかに頂ける。
メニューには一切、「シャトーブリアン」なんて書いてなくてですね(笑)。
時々、こうした驚きの献立が隠されてることがあるので、毎回メニューを隅々まで注意深く読み込まないといけません。こちらのお店では。
諸々のタイミングもあったようですが、恐らく、こんな機会は二度と無いかと。
そして。
ご存知の方も多いかと思いますが、現在、聡咲ではお客様の受け入れ人数を制限して営業中。
カウンターには、社会的な距離感を保つための熊のぬいぐるみがひと席ごとに鎮座してたりします。
そして完全予約制。当日六時までのメール予約が必要。(※追記:R2.8時点では、前日までのメール予約が必要となりました。)
そんな新体制にも慣れてきて、徐々に、再び伺う機会も増えてきた昨今です。
オムライスも健在であります。
かかってるソースもデミソースに見えますが、実は違ってたりしてまして。野菜の甘味がとことんまで引き出された、ミネストローネのようなソースでした。
マグロ納豆ですとか…
カツとじなどの酒肴で一杯やりつつ…
また無理なお願いとかしてしまい。
聡咲のカレーと言えば、工程がいくつも重なり、手間暇がこれでもかとかかってる訳ですが…
今回は玉ねぎと肉を炒めて出汁を注ぎ、カレー粉と水溶き片栗粉で仕上げたカレーを。お蕎麦屋さんのカレーのイメージですね。
案の定、マスターに再び「亡き母親の作った豚のケチャップ炒めオーダー事件」の話をされてしまいました。
オーダーの仕方に、多少なりともめんどくささを感じさせてしまった証拠です。多分(笑)。
あっさりしたカレーが食べたかったんです。すみません。
そんな訳で、コロナ渦でも変わらずメニューに無いものも可能な範囲で応えてくださる、札幌ススキノ「本気食聡咲」であります。
マスターは、本州在住のお客様のことをいつも気にかけていらっしゃる様子でして。
あの「玉手箱」にしても、これまで何度となく本州から遥々、札幌の聡咲まで足を運んでくださった方々に、せめてご自宅で聡咲にいるのと変わらない食事を楽しんでいただきたい、それで少しでも元気になっていただきたい、という思いから始まったんでしょうから。
販売の仕方に制限があったのは、そんな思いからだったんではないかと。
そもそも、詰め込みなどでヘルプの方が居たとは言え、実質、ほぼマスターお一人で仕込む訳で、作ることが可能な数にも限りがありますし。
聡咲を再び体験したくとも、札幌には行けない。
ならば、「聡咲」を本州に送り込む。
そして、札幌に来た時と同じ体験をして欲しい。「聡咲」に実際、足を運んだ方々に届けて、食べてもらうからこそ、あの「玉手箱」の真価が分かる。
…と、いう意図なのかなと、途中からようやく地元民にも解禁された「玉手箱」を注文して、実際食べた時に、そう思いましたね。
タンシチューなんて、お店と全く同じ味でしたし…
電子レンジで温めるだけでこれですから。
時知らずのチャンチャン焼きにイクラを散らすなんていう、食の変態ぶりも健在でしたし(笑)。
食べてる最中、これが届くんなら、お店の味を知ってる方はそりゃ喜びますよね、なんてメールをついついマスターに出してしまいました。
言わば究極の「アフターケア」と言いますか、ここまでお客さんを想うお店も正直無いですよね。
売り上げが少ないから、それを補完するために通販を始めた訳ではなく、聡咲を知る方々が来たくても来られない状況をなんとかしたい、というのが通販開始の理由なのではないかと。
だから、たぶん「玉手箱」は儲けなんて度外視。食べれば、その素材の良さが分かります。
僕も自宅で食べつつ、その想いを噛み締めておりました。
そしてお店のカウンターに座りつつ、また本州各地からの顔見知りのお客様と乾杯できたら嬉しいなと、思っておりました。
まだまだ、予断を許さない状況ですので、皆様もどうかお身体をお大事にして下さい。
そしてまた、北海道に、聡咲にお越しいただけたなら。