読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

苦境に立つテレビ業界の病巣を描き出す、「虚像(メディア)の砦」(真山仁著/角川書店刊)

2008-12-30 05:18:38 | 本;小説一般
<目次>
プロローグ 岐路
第一章 報道迷走
第二章 テレビの使命
第三章 テレビの力
第四章 灼熱の中で
第五章 絶体絶命
エピローグ 決意

本書は平成17年6月30日の初版。「メディア」に「虚像」と当て字をつける。ここに著者のすべての意図を読み取ることができます。NHK土曜ドラマ「ハゲタカ」によって私は著者の存在を知りました。バブル後の「失われた10年」、その後の外資による日本における資産の買い漁りと売り飛ばし。その顛末を描いたストーリーは、人間の欲が合理性の衣を被った経済行為の惨さと脆さを見せてくれました。

本書はテレビ業界に渦巻く人間模様を描いた作品ですが、著書は冒頭で次のように語っています。

「本書はフィクションである。・・・時として、小説世界の中で、現実に起きた世界の真相を推理するという手法がとられる場合がある。だが、本書で扱っているのは、そうした現実世界での出来事の暴露ではない」

とは言え、巻末の参考文献一覧を見れば、次ぎの現実に起きた出来事の真相を抉り出した作品と思うのです。

「TBSビデオ問題」:TBSワイドショー番組のスタッフが、坂本堤弁護士がオウム真理教(現アーレフ)を批判している映像をその放送直前である1989年10月26日にオウム真理教幹部に見せ、直後に起きた坂本堤弁護士一家殺害事件の発端になったとされる事件。

「イラク日本人人質事件」:2002年からのイラク戦争に関連して、2004年にイラク武装勢力がイラクに入国している日本人を誘拐・拘束し、自衛隊の撤退などを求めた一連の事件である。これは米軍のファルージャ攻撃以後頻発した、数ある外国(非イラク)人拉致事件の一部。

総務省によるテレビ局への「再免許」の許認可。テレビ局とネット網の実態。視聴率の怪。ジャーナリズムの本質などなど本書を通じて改めて知らされること数多。ニュースの報道局とお笑いの生活情報局というテレビ局の二つのセクションを対比させながらのストーリー展開は、今も脈打つテレビ界の二大勢力であり、かつ凋落の象徴でもあります。懲りない面々の「茹で蛙」症候群から今も目覚めてはいません。

一昨日取り上げた、田中辰巳さんの「それなら許す!」で取上げられた不祥事には、その報道を行うテレビ業界そのものも登場します。業界ということで言えば、テレビ業界ほど不祥事の温床となっている業界はないと言っても過言ではないでしょう。「虚像の砦」は「砂上の楼閣」となり、その経営基盤がぐらついています。テレビ業界には個人的に業務改善命令を下したいところです。

<【独占】楽天・三木谷社長が語るTBS株の行方:NBonline>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20081218/180729/

<備忘録>
「不思議な少年」(P106)、「記者の陥穽」(P123)、「メディアスクラム」(P183)、「テレビの妙な小細工」(P195)、「情報とは情に報いること」(P291)


真山仁(まやま じん、1962年 - )は作家。大阪府出身。1987年同志社大学法学部政治学科卒業後、中部読売新聞(のちの読売新聞中部本社。現・支社)入社。岐阜支局記者として勤務したのち、1990年退職しフリーライターとなる。2003年、生命保険会社の破綻危機を描いた「連鎖破綻ダブルギアリング」(共著)でデビュー、当時のペンネームは香住究。2004年、ハゲタカファンドを扱った「ハゲタカ」で真山仁としてデビュー。経済小説の新鋭として注目される。


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