読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

闘うのではなく、「対話流~未来を生みだすコミュニケーション~」(清宮普美代・北川達夫/2009年)

2009-08-13 07:11:16 | 本;ビジネス
~“同調” でも “対立” でもない。「協働する組織」「学び合うチーム」の創造に不可欠なのは “対話” の発想。学校と企業において「学びとコミュニケーション」の再設計を提唱、実践する二人のプロが織りなす、変革と多様化の時代の対話論。“闘うコミュニケーション” はもう古い。~(三省堂)

<三省堂|対話流 未来を生みだすコミュニケーション>
http://www.sanseido-publ.co.jp/publ/taiwaryu.html

<新刊JP FEATURING 清宮普美代・北川達夫『対話流 未来を生みだすコミュニケーション>
http://www.sinkan.jp/special/taiwa/interview2-1.html

~己の欲するところを人に施すことなかれ。嗜みは各々異なれり。
ジョージ・バーナード・ショウ~

本書の冒頭で引用されるこの言葉は、一般には「己の欲するところを人に施せ(新約聖書)」の方が知られていますね。このバーナード・ショウの言葉は、「己の欲せざる所は人に施すことなかれ」という「論語」の一節をベースにしたものでしょう。

本書は、この言葉が示すように「嗜みは各々異なれり」ことを知り、コミュニケーションを対話で円滑に進めるための方法論を提示しています。対談者のそれぞれの「商品」の販売促進のための宣伝本という側面もありますが、それはそれとして、教育、ビジネスでのコミュニケーション問題に関しての意義ある知見が得られました。

清宮普美代さんが導入を図る「質問会議」は次のように解説されます。

~質問会議は、アクションラーニングにおけるプロセスの鍵となる会議体を示している。アクションラーニングは、文字通り「行動から学ぶ、学んだことから行動を起こす」ことを意味し、現実の問題解決をチームで行うプロセスのなかで、個人、チーム、組織が成長(=学習)をする、問題解決と学習を同時に行う手法です。~

~イギリスの物理学者レグ・レバンス(1907-2003)が提唱しました。その手法をより実践的に、問題解決と学習のバランスをとりやすいフォーマットとして提示したのがマイケル・J・マーコード(1943-)のマーコードモデル(質問会議)です。この質問会議のフォーマットには、「ルール」、「チーム規範の設定」、会議の「進行手順」が組み込まれています。実践知のなかから「対話」を生み出し、チーム学習が生まれやすいフォーマットとなっています。~


元外交官であり、フィンランドの教育から教育問題を研究することになった北川さんは、究極の選択を問う対話的発想のための演習問題として、次の実際に起こった事件が取り上げています。

<事例>
1841年、ニューファウンドランド沖でウィリアム・ブラウン号が難破した。女性と子どもが優先という平時の論理は通用せず、男性乗客が腕力で救命ボート救命ボートを独占した。その救命ボートも定員オーバーで転覆の危機にあったが、自ら救命ボートを離れる者はだれ一人としていない。そこで乗組員のホームズが数名の男性乗客を海上に投げ出した。

<課題>
この状況に関する次の三つの主張を比較しながら、すべての主張を正当化してください。

主張① ホームズの行為は、しかたのないことで許される。
主張② 海上に投げ出す乗客は、くじで決めるべきである。
主張③ だれも何もすべきではなく、自然に任せるべきである。

この事例は、エンパシー型コミュニケーションのトレーニング・ワークとして知られているそうです。さまざまな考えの正当性を認めるにあたって、「個人の倫理観や正義感を越えたところで考えていかねばいけない」という意味を持たせるものだといいます。

本書では、シンパシーは「感情移入」、エンパシーは「自己移入」と定義され、エンパシーとは、「あなたはどう解釈しますか?」という個人的意見ではなく、「こういう解釈が成り立つとします。なぜ成り立つのだと思いますか?」という発想で考えさせるものだそうです。

この事例で実際になされた判決は、コチラ。
<ホームズ事件>(2007-04-12 - uumin3の日記)
http://d.hatena.ne.jp/uumin3/20070412

~「救命ボート」という言葉自体は、「限られた資源の適切な配分」という倫理学上の問題を表現する典型的な用語として一般的に用いられているものである。いうまでもなく、ここでいう「救命ボート」とは、船が座礁ないし難破したさいに乗客を非難させるための小型ボートのことを意味している。乗船していた船が沈み、かつ、乗客全員を救出するための十分な数のボートがない場合、誰をボートに乗せ、誰を犠牲にするべきか。この点をめぐる選択ないし配分の問題が、「救命ボート」問題の原型をなすものである。~http://www.bun.kyoto-u.ac.jp/phil/prospectus/contents/2005/mitani.html

時を同じくして、FMラジオドラマ「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」で、刈谷勇が安部礼司に語ったのが、「ある無人島漂流の物語」でした。この話は、上記のエンパシー型コミュニケーションのトレーニングとしても使われるようですが、心理ゲームとしての側面もあるようです。詳しくはコチラ。

<悪いのは誰? - ある無人島漂流の物語 - タケルンバ卿日記>
http://d.hatena.ne.jp/takerunba/20090116/p2

<ある無人島漂流の物語>
http://anond.hatelabo.jp/20090123153007


<備忘録>
「問題解決の常道、『訊く』と『聴く』」(P16)、「価値観を留保する」(P20-21)、「リーダ育成における第一~第三世代」(P50-51)、「リフレクティング・シンキング」(P51)、「経験や知識を多く持っているとリフレクティングしやすい」(P)、「クリティカルな学びの必要性」(P55)、「リフレクティヴであるということ」(P59)、「PISA(Programme for International Student Assessment)」(P60)、「グローバル・スタンダードの学力とは」(P60)、「疑始(孟子)」(P67)、「クリティカルな思考、リフレクティヴな態度」(P68)、「未来委員会」(P94)、「シンパシーは感情移入、エンパシーは自己移入」(P114)、「定員を超えて沈みかけた救命ボート」(P123)、「成功の循環」(P133)、「学習する組織」(P156)、「オットー・シャーマー『U理論』」(P156)、「様々なコミュニケーション」(P179-180)

<OECD生徒の学習到達度調査 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/PISA


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