読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

行政マン必読の書、「社会が変わるマーケティング」(フィリップ・コトラー著/2007年)

2009-05-20 04:23:19 | 本;ビジネス
~民間企業の知恵を公共サービスに活かす~

~イギリスの学校給食を劇的に改善した有名シェフ。サービス精神が豊富なアメリカの郵政公社。フィンランドを世界で最も健康的な国に変えた「ファット(肥満)からフィット(スリム)へ」運動。官民あげて取り組まれたヨルダンの水資源節約キャンペーン。ネパールの画期的なHIV対策。……世界各国で実践されている、優れた公共サービスとそのマーケティング活動。コトラー教授が豊富な事例で「社会を変える方法」を解説する。~

<目次>
第1章 市民の要望にこたえる
第2章 マーケティングの考え方を理解する
第3章 サービスを創造する(評価の高いプログラムとサービスを開発し、その質を高める)
第4章 魅力ある価格設定とは?(購買意欲を誘う価格、インセンティブ、負のインセンティブを設定する)
第5章 流通チャネルを最適化する
第6章 ブランドを創造する(ふさわしいブランドを創造し、維持する)
第7章 効果的なコミュニケーションを行う(鍵となる市民群と効果的なコミュキケーションを行う)
第8章 顧客満足度を高める(顧客サービスを改善し、その満足度を高める)
第9章 ソーシャル・マーケティング(市民の行動にプラスの影響を与える)
第10章 戦略的提携関係を結ぶ
第11章 情報をいかに集めるか
第12章 施策をきちんと評価する
第13章 説得力のあるマーケティング計画を作成する

本書は、マーケティングの世界的第一人者フィリップ・コトラー氏による、公共サービスへのマーケティング援用の方法論であり、実際に導入されている事例集です。その事例として次のような事象が取り上げられています。

・(米国)郵政公社のマーケティング戦略、英国における学校給食革命
・「クリック・イット・オア・チケット」~シートベルト着用強化キャンペーン「Click It or Ticket」」、シートベルト着用しますか? それとも反則切符切られますか?~
・ネパールのHIV/エイズ問題
・エナジースター、――「地球を守る」ブランド
・臓器の提供を増やす
・フェニックス消防署「水のタンクを持った平和維持軍」
・フィンランドの「ファットからフィットへ」運動
・ヨルダンの水問題改善――提携関係を軸とした、人民のための、人民による活動
・マーケティング・リサーチを通して健康な国をつくる――南アフリカ
・環境保護に関する行動指数――結果を数値化し、次の行動を決定する
・マーケティング部が、ブランド・イメージの番人になる、――ニューヨーク市

まず本書中盤で取り上げられるアメリカ合衆国アリゾナ州中心部に位置する州都で、同州最大の都市でもあるフェニックス市の公共機関の一つが示す、顧客満足度を高めるその気概が凄いんです。

~消防署の継続的な課題に、常に顧客のニーズを把握しておくことがある。急速に変化する未来に向けて、消防署が生き残るかどうかは、組織のあり方とサービスの方法を絶えず改善する能力の有無にかかっている。変化の波が押し寄せる前に、自分の仕事の意義を問い直すことができる柔軟な精神の持ち主だけが成長し、繁栄するだろう。それができない人間は、残念ながら雇用市場という高速道路で車に轢かれた動物のように死骸を横たえることになるだろう、「私は消火のため(だけ)に雇われた」と頑固に言い張る者は、「轢かれた消防士」になるだろう。~
アラン・プルナチーニ(フェニックス市消防署長)

フィリップ・コトラー氏は「マーケティング」を、社会に変革をもたらすために公共サービス機関に活用することを提案しています。その考え方とは、次の原理を具体化することだといいます。

<マーケティングの考え方>
第1の原理:顧客中心主義に徹する
第2の原理:市場を細分化し、ターゲットを定める
第3の原理:競争相手の特定
第4の原理:マーケティングの4Pを利用する
第5の原理:活動をモニタリングし、修正を加える


本書の最終章では、2003年4月にニューヨーク市のブルームバーグ市長がチーフ・マーケティング・オフィサーを新設し、ジョセフ・ペレーロを任命したことについて、「ニューヨークはマーケティング部という部署とチーフ・マーケティング・オフィサーという職位を持つ世界最初の都市になった」と紹介していますが、その翌年の2004年3月25日、第二回エコノミスト誌年次マーケティング円卓会議でジョセフ・ペレーロが次のように演説したことが記されています。

~私は2003年4月、ブルームバーグ市長からニューヨーク市長からニューヨーク市のチーフ・マーケティング・オフィサーに任命されて以来、自らのことを「この世で一番ラッキーな男」と公言しています・・・。1949年にE・B・ホワイトは『ここはニューヨーク』という本で三つの異なるニューヨーク、つまり先住者、通勤者、移住者のためのニューヨークがあると書いています。私は四つ目のニューヨークを提案したいと思います、それは「イメージ」としてのニューヨークです。この四つ目のニューヨークは、ここに住んでいない何百万という人が「ニューヨーク」という言葉に対して、どのように感じるかということです。ニ、三日訪れただけの人も、この街に対する何らかのイメージを持っていることでしょう。この「イメージ」としてのニューヨークが、いろいろな意味で私たちの最大の財産なのです。~
――ジョセフ・ペレーロ(ニューヨーク市役所 チーフ・マーケティング・オフィサー)


フィリップ・コトラー(Philip Kotler);ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院S・C・ジョンソン記念教授。マーケティング分野の世界的第一人者として、数多くの有名企業の相談役を務めるとともに、米国および海外の著名な大学から名挙博士号を授与されている。著作の多くは各国で翻訳され、高い支持を得ている。なかでもMarketeing Management(邦訳『コトラーのマーケティング・マネジメント』)は、MBA向けのマーケティング教科書として有名。

<フィリップ・コトラー - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%BC


ナンシー・リー(Nancy Lee);マーケティング分野における長年の研究実績を活かし、1993年にソーシャル・マーケティング・サービス会社を設立。現在、米国政府および各地方自治体、海外の行政機関に対する数多くのコンサルタント業務を行っている。ワシントン大学、シアトル大学では、公共部門におけるマーケティング、ソーシャル・マーケティングおよび非営利組織におけるマーケティング講座を担当している。

訳者:スカイライト コンサルティング株式会社
http://www.skylight.co.jp/

<スカイライト コンサルティング株式会社 | 注目企業インタビュー>
http://www.liber.co.jp/job/interview/pickup_sky.html


<英治出版 | 書籍一覧 | 社会が変わるマーケティング>
http://www.eijipress.co.jp/guide/2009.php

<戸崎将宏の行政経営百夜百冊: 社会が変わるマーケティング>
http://www.pm-forum.org/100satsu/archives/2008/02/post_973.html


<備忘録>
「『行政革命』(デビット・オズボーン、テッド・ゲーブラー)」(P25)、米郵政公社碑銘(P41)、「マーケティングの定義」(P57)、「最初の製品マネジメント~P&G」(P68)、「ジェイミー・オリバー」(P70)、「製品の核」(P78)、「クリック・イット・オア・チケットの効果」(P102)、「郵便投票」(P139)、「感覚の上での待ち時間」(P147)、「ポジショニングのさきがけ」(P164)、「ブランド・エレメントを選ぶ際の6つの指針」(P174)、「PSA」(P216)、「フェニックス消防署」(P233)、「ノードストローム・ウェイの採用と教育」(P251)、「優先順位のつけ方」(P261)、「ソーシャル・マーケティング 12の原則」(P275)、「変化ステージモデル」(P276)、「見返りのコスト」(P281)、「ガベッジ・ゴート」(P196)、「ヨルダンのマンスーラ市立公園」(P301)、「ギビングUSAのデータ」(P308)、「ソーシャル・マーケティングの定義と目的」(P315)


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