顔を中心としたアンチエイジング治療の潮流をみると、ヨーロッパを中心に全体的には、非侵襲的つまり非手術的な治療への比重が高まってきているのは間違いありません。そこには当然、外科的治療に対する抵抗感や不安、そしてダウンタイム(治療後回服までの経過時間)の必要性などを考えた場合、できるだけ負担がない中で効果を求める患者さん側の気持ちが反映されている為です。そしてそのような要望に応えられる、レーザーや高周波、超音波などの皮膚治療器や様々な注射による治療の技術的 発達が進んできたことが、非手術的治療法が増加してきている現実を支えているともいえます。
しかし美容医療を続けてきた一人の形成外科医として、手術的治療と非手術的著量の二者選択ではなく、より患者さんの状態や、希望、条件に合った治療は何であるかという視点で考えなければいけないと思います。なぜなら、何にでも効果がある最新のレーザーなどというものが存在しないのと同じように、どんなケースでも手術をすればよいということではないからです。勿論、二重にしたり鼻の形を大きく変えたいという場合、手術的治療は必要です。また 目の周りや頬の部分のタルミが強い場合は、手術的な治療が一回の治療効果の面では優れている場合もあるかも知れません。しかし、その場合も正確な説明がなされて患者さんが十分に納得できたという前提があってこそです。
シミ、くすみ、毛穴、張りなど皮膚の総合的な治療は、当然一回の治療ですぐに効果が完成するものではありません。それらに関しては、手術よりも非侵襲的な治療が中心になるのは理解しやすいと思います。そして その積み重ねが結局は大きな効果や変化を、長く維持させることができる面では手術と同様に 美容外科でも重要な治療になってきている理由です。
今回は当院進めている非手術的なアンチエイジング治療について説明します。
年齢による肌の変化で考えられるのは、皮膚のターンオーバーの遅延や、内外の刺激によるメラニンの蓄積、皮膚水分量の低下、コラーゲンやヒアルロン酸量の減少や構造的弱化による皮膚の菲薄化、伸展力の低下です。 これらの変化により皮膚は、くすみ、部分的にはシミが生じ、肌は乾燥して小じわが増え、毛穴周囲組織も凹むことで毛穴も増大して見えます。そしてさらに進行することで、全体的な顔のタルミ現象が起きてしまいます。
このような変化を予防したり改善するためには、皮膚を表皮、真皮、皮下組織、そして脂肪層と深さと構造に分けてそれぞれに到達する治療を何度か行う必要があることが理解していただけると思います。例えばコラーゲンを再構築させるためには主に 真皮の層に 刺激を与えることで、自らコラーゲンを造り直そうとするように誘導しなければなりません。その為には、レーザーでも真皮の層まで届く長い波長をもったレーザーや高周波が必要です。(ジェネシス、サーマクールCPT、パール) また口のまわり頬の下、首のラインに若干垂れ下がったような印象を与える部位には、皮膚のタルミと共に集まった皮下組織や脂肪層を減少させ引き締め効果を加える必要があります。この場合は、皮下組織、脂肪層に到達する高周波や超音波治療が有効です。(ウルトラアクセント、テノール)
そしてメラニンの蓄積や皮膚表面のターンオーバーを改善してシミを薄く、代謝をよくして健康的で張りのある明るい皮膚を取り戻すためには、皮膚の表面からやや中間層まで到達できるレーザーやIPLが適しています。(エリプスPPT、I2PL、ライムライト)当然 同じ機器を用いて、同じ目的に使用したとしても個人個人の肌質や特徴に合わせて調節する必要があることは言うまでもありません。また、皮膚層に合わせて、上記の治療を組み合わせることもより有効な効果を得るためには必要です。
これらレーザー、高周波、超音波の治療と合わせて、部分的な注射(ボトックス、ヒアルロン酸)を併用することで、一般的に考えている効果よりもはるかに高い満足度を感じてもらうケースは数多く経験しています。また、ヒアルロン酸などの肌に本来含まれている成分を用いた治療は、決して一時的な効果ではなく、数回繰り返すことで時には手術に匹敵する場合もあることは意外と知られていないかも知れません。
経験のある形成外科医であるからこそ、手術をおこなえる解剖的知識と、技術や経験があることで、非手術的な治療もより安全に効果的に行えるものであると自負しています。
アジアン美容クリニック 院長、帝京大学附属病院美容センター講師 鄭 憲