風のささやき 俳句のblog

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弱った心 【詩】

2020年10月08日 | 
「弱った心」

弱った心は
小さな雨粒にさえも
痛みを感じる

しくしくと泣いている
小さな子供よりも心細い

自分だけが世界に一人
取り残されている

一生懸命に
生きているつもりなのに
誰からも見放されて

臆病な目をした弱った心は
野良猫のように誰も信じない
自分に向ってくるすべてから
一目散に逃げる準備をする

気持ち良く晴れた青空に
この世から綺麗さっぱりと
消えてしまいたいと
思う弱った心

誰の記憶からも
跡形も無く消し飛んでしまえば
どんなにか楽になれるだろうと

どうせ初めから
自分のことなんか
誰も相手にはしていない

弱った心には
毎日が薄暗い雨模様
差す傘もなくて
雨宿りの場所もなくて
不甲斐なくて
悔しくて

けれどふとした瞬間に
ほんとうに
何気ないふとした瞬間に

見捨てられた生が
しみじみと
弱った心に手を当てて
温もりをくれるのだ
弱った心にしか分からない
かすかなささやきで

がなり立てる
強い心にはきっと
耳にも入らないその静けさで

弱った心は
やすりを当てられたように
ひりひりとして
いつの間にか磨かれた
水晶のようだ

太陽がそこに映える場所
だから弱った心は
弱った心のまま
我慢強くあればいい

弱った心には手を触れて
大切なことを伝えようとするものが
いつも直ぐ側まで来ているのだから

秋空を編隊を組み赤とんぼ寂寞落とす爆撃機のよう 【短歌】

2020年10月07日 | 短歌
秋の三時過ぎの空を
赤とんぼが泳いでいました

農作物を支えている棒や
あちらこちらの枝には
空を飛ぶことに疲れたとんぼが
静かに羽を休めて

空を行く赤とんぼを見ていたら
まるで透明な羽をもった
小さな爆撃機のように見えてきました

あてどもなく
何処へという目標もなく
透明な寂寞を落とし続ける爆撃機

この空にとんぼがいなくなったら
肌寒さも一層増すのだろうなと
ちょっと身震いを感じていました

保冷箱ダースで睨む秋刀魚の目 【季語:秋刀魚】

2020年10月03日 | 俳句:秋 動物
ここのところシーズン到来ということで
新鮮な秋刀魚が随分と手ごろな値段で売られています

ここ数週間は子供たちが
ハイハイをして動き回り
その相手をして疲れてしまい
秋刀魚を焼く気力も湧かない日が多いのですが

先だってはふと秋刀魚が無性に食べたくなり
近くのスーパーの秋刀魚売り場の前で足を止めました

白い発泡スチロールの保冷箱の中に
氷と一緒に閉じ込められたたくさんの秋刀魚たち

その秋刀魚たちと目が会うと
何故か恨めしげに睨んでいるような気もして

僕は品定めをすることもなく
二匹無造作にビニール袋に入れて

睨んでいる秋刀魚たちの視線から
逃れるように歩き出しました

なぐさめの夜 【詩】

2020年10月01日 | 

「なぐさめの夜」

心を鎮めて
今日一日の煩いを
夜の闇へと明け渡す

目を閉ざす頬に
跡引く涙がつたわるときに
それを拭う者がいなくとも
決して無力ではない
苦しみは心を強くする

過ちはどこにもなくて
痛みを思い出し
笑える頃には
黄金に輝く自分だと

やがて訪れる朝
一緒に迎えようとする
夜であることを
心の棘に手を当てて
慰めをささやくために
濃い闇に包んで
優しい夢へと誘うために
煩いを和らげようと
訪れた夜であることを

安心して眠れ
慰めの毛布に明日の憂いは包んで
一人の時間を
温かな夜の目に見守られながら
なんでもないのだと
静かに風は吹く