風のささやき 俳句のblog

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鳴り物が止むに止まれぬ暴風雨 【季語:暴風雨】

2024年08月31日 | 俳句:秋 天文

雨はさほど降らなかったのですが
風が強かった日

普段は音を出さないベランダの置物や
窓枠、網戸
家中がどこか軋んだ音を出し
気持ち悪い感じでした

一番気持ち悪かったのは
家の前の工事現場に
備え付けられたクレーン

みしみしと音を鳴らして揺れ
今にも倒れて来そうに見えました


僕を呼ぶ声 【詩】

2024年08月29日 | 

「僕を呼ぶ声」

夕暮れ、蜩が鳴き始めた頃に
夕日は山影に沈み
その闇を深める山々は、もう来てはいけないよと
厳しい顔で、言い放つようだった

その山の神社で誰かが、鐘を鳴らした
一つ、二つと紫色の空が暫く
その余韻に波打ち震えていた

僕も昼間にはそこに出かけて
力任せに鐘をついていたのに
誰が一番かと、妹を連れて
勝てる勝負を楽しんでいたのに

もう直ぐ、魑魅魍魎の跋扈する闇につつまれる
古い容貌をした民家は、魔物たちが入っては来られない
護符の顔をして睨みを利かせている

だから家の中では妖怪図鑑を見ながら
軽口を叩く僕がいて

のっぺらぼうのページを眺めながら
目と鼻と口とが無いだけなんて
そんなに怖くないよねと
けれど、その2ページ先には
僕の一番恐れていた妖怪が潜んでいて

怖い物を知れば、人は臆病になり
夜に一人、外に出ることも怖くなる
その妖怪に会ったことを頭に浮かべると
怖くて体が縮こまるようだった

あやかしの世界にさらわれて、足を踏み入れたなら
深い森のようなところ、霧深く、泥濘だらけの足元
もう戻っては来られない気がして
布団の中に頭を突っ込んだ

けれど、魑魅魍魎よりも恐ろしいのは
人であることを僕が知るのは
もっと、後の後のことではあったが

ご先祖を、家に迎え入れて、もてなして
杉の木を燃やして、お見送りする
お酒を飲んで、楽しそうに、その人の話をする
あれは大人には、魔法の水だ
一時だけは、楽しみを膨らます

人は恐ろしい、けれど人は温かくもあって

そのお店に行くと、一年ぶりの夏休み
僕の成長を褒めてくれた
アイスクリームが美味しかった
都会で食べる味と変わらないはずなのに
僕のことを覚えていてくれたこと
それだけで、味は変わるものだと

もう、そのお店もなくなった
手島さん、だったと思う
アイスクリームケースに
手を入れた時の、ひんやりとした感じが忘れられない

一人では寂しい、妖に囚われそうになる
僕の名前を呼んで欲しい、僕も必死で
あなたの名前を呼んでいる
その声がこだましている、あの夕暮れる
蜩の山々の奥に、呼び合う声がいつしか
寂しさの色を深め、木霊して、妖になるのかも知れない
ばらせば、ただの、寂しさがあるだけの

その世界にはまだ足を踏み入れてはいけないと
蜩は忠告に鳴いていたのかも知れない

いつの間にか、僕は、その闇の中に足を踏み入れている
だから、良く分かる
僕のことを呼んでいて欲しい、叶わないならば
目をつむり思い出の中で、僕を呼ぶ声を探ってみるのだと

闇が濃くなれば濃くなるだけ、迷子になるだけ
僕を呼ぶ声が恋しい、その声をよすがに
闇の中を、手探りで歩く


耐えかねて自分の重さに首を折る頭でっかちひまわりくんが 【短歌】

2024年08月27日 | 短歌

自転車で走っていたら
畑に育つ向日葵の一つが
首をぐにゃりと曲げて下を向いていました

花が周りの向日葵よりも
異常に大きいのです
その重みに耐えかねて
首を曲げてしまったのですが

何故自分で支えられないほどに
大きな花をつけてしまったのかしらと
ちょっと哀れに思い
ブレーキをかけて一瞬
その前に立ち止まってしまいました

頭が重ければ支えきれない首も折れるのは
自然の理ですし分かりそうなものですが
振り返ると自分も頭でっかちになっていることが
往々にしてあります

ついつい理屈と言い訳が先行して
頭が一杯になってそれを自分で支えていられなくなって

向日葵を嗤う以上に自分の方が
首を折った姿でいることが多く
気が付いていなかった自分の姿を
目の前に見せつけられたような気がして
しばらくその向日葵の姿が
頭から離れずにいました


秋初め薄墨雲の慌てよう 【季語:秋初め】

2024年08月24日 | 俳句:秋 時候

海外から羽田に戻ってきた日のこと
空港の外にでると風が
秋を感じさせました

暑い所から戻ったので
余計にそう感じたのかも知れないのですが

空を見上げると
どこか陰のある薄墨の雲が沢山
風に流されていました

僕は爽やかな風を浴びながら
どこかざわざわと騒ぎ立てるような
雲の流れる様を眺めていました


夏祭り 【詩】

2024年08月22日 | 

「夏祭り」

ドンドンと陽気な太鼓を打ち鳴らして
腹の底から響いてくる
お祭りの音は聞こえていますか

小さな神社の参道に沿って
夜店には沢山の人が出ています
伸びてしまって、あまり美味しくもない
焼きそばでお腹いっぱいにして
それでも笑っていられる夏祭り

村を練り歩いてやってくる
獅子に頭を噛みつかれると
元気に過ごすことが出来る
風邪もひかないと
手を繋ぎ、恐る恐るの子供が
引っ張り出されて、抱っこされ
恐ろしい顔の獅子に頭をやられる
怖がる、その涙は可愛らしい
 ―本当に高い熱など出されたら
  どれほど親は心苦しく、心配をするか

暗い夜空に小さな打上花火が上がって
誰かの庭から景気づけ、心意気だ
その後には閃光の後の灰色の煙
風に流され、空はまた、静かな星の世界になった

虫も鳴いて、感じられる、田畑や
林の奥の、用水路を覆う、闇の静寂
貪欲な底なし、そこに全てが
飲み込まれてしまうことも、子供心に分かり始めて
夜はおじいちゃんの横で、しりとりをしながら眠った
ねえ、飲み込まないで、楽しい夏祭りの笑い。

もうそこに、出かけることはなくなった、夏祭り
まだ、子供たちはそこで楽しい、時間を過ごしているだろうか
踊りの輪に加わって、その一瞬が思い出に刻まれ
闇に飲み込まれても、時々、夢の中には出てきて、笑う
目覚めた時の、胸が温もっている
何処にでもある、ありきたりの神社だけれど
僕だけの神社、懐かしい、その夏祭り。 


怒りにて封蝋をして閉じた今日このところこれ目覚めもこれだ【短歌】

2024年08月20日 | 短歌

ここの所忙しいせいか
イライラとしながら一日を終わらせることが
少なくありません

例えば嫌なことを思い出しながら
蒲団の中で気を揉んでいるとか

その怒りの気分は
次の日にも持ち越されるようですね
何となくイライラとしながら目を覚まして

その悪循環にここの所
嵌っている気がして
少し心落ち着ける時間を見つけて
安らかな気持ちで眠らなければですね


誘蛾灯明るみにみな集いたく 【季語:誘蛾灯】

2024年08月17日 | 俳句:夏 人事

温泉街を訪れた時のこと
誘蛾灯に虫が集まり
その身を焼かれていました

何故に焼かれると分かって
集まるのだろうと
人の視線で思うのですが

かく言う自分たちも
明るい場所を好むことには
変わりがないのではと思います

暗い夜を洗い流してくれる朝を
待ち望むように
いつまでも闇の中で暮らすのは苦しく

それを思うと明るみに集う
虫の姿を嗤う気にはなれませんでした


古い家で 【詩】

2024年08月15日 | 

「古い家で」

その古い家は、高い所に咲いた
ノウゼンカズラが迎えてくれた
その橙色のアーチを潜り

靴を脱いで、夏の足跡もそこまではついてこられない
ひんやりとした土間には
笑っているおばあさんがいた

その皺の間に悲しみや寂しさ織り込んで
優しい言葉だけが残った
柔らかい方言が耳に心地よかった

飾られたご先祖様たちの写真から
茶飲み話のような穏やかな
ひそひそ声も聞こえてくるようで

さっきまで、裏のおじいさんが自転車で来ていた
そのままになった、梅干やら、茄子漬
僕の苦手なラッキョウも残っていた
まだ温もり残す茶碗には温かな話の名残が
漂っているようだった

僕はサイダーをご馳走になって
おばあさんの話しを聞いて、聞かれるがまま、学校の話などをする
それが楽しい話なのかどうか
けれど、興味深そうに話を聞いてくれる
頷きに僕も、もう少し話をしたくなって

その家は蚕を飼っていた
繭を手に取り、興味深そうに見る僕に
その中がどうなっているのか
鋏で開いて見せてくれた
手の上に載せられた小さな蛹
幼虫から蛹へ、繭の中の薄明りに眠り
やがて成虫になる、その予兆と変容の間の、身を護る鎧

僕も大人になること、大人たちの繭に
護られていたことは、後ほどに分かること
その繭は、いつも応援する声に満ちていた
僕はその繭玉に育まれていた
今でもその声が僕に、力をくれている気がする
背中を支えてくれる

もう顔を出しても
覚えていてくれる人もいない古い家
僕がもらった無償の、応援の声と一緒に
思い出す、そのノウゼンカズラが迎えてくれた
家の門構え

僕も、今では、背中押す側に、なれているのかしら
その応援を、君たちに、その先へとつなげて行きたい

 


糸電話、君のひそひそ、声、届く 震える心、伝える手、ないか 【短歌】

2024年08月13日 | 短歌

昔、学校の実験で糸電話を作り
友人と話をした覚えがあります

何故こんな簡単な仕掛けで
声が聞こえるのだろうと
とても不思議で驚きの気分だったことを
思い出します

そんな風に人の心の震えも
そのままに届くような道具があれば
便利だし、誤解も少ないのだろうなと思います

言葉に乗せるとどうしても上手く伝えられず
もどかしさばかりが募るばかりです

それでも言葉ぐらいしか
今のところ心を伝える手立てはないので
それを磨かなければと思います


夜の蝉塗り込め闇の濃き事よ 【季語:蝉】

2024年08月10日 | 俳句:夏 動物

お気に入りの温泉に出かけました

宿から少し歩いたところに露天風呂もあるので
12時過ぎにそこに出かけました
湯船に浸かっていた人は2、3人
それも直ぐに出て行き
自分一人が残りました

高原にある温泉なので
肌に当たる風は涼しく
灯りも少ないので夜の闇も濃厚です
肌に触れる闇もどこかしっとりとした
質感を持っているようでした

蝉も鳴いていたのですが
闇の中に押し込められたような声

どこかこの世から
切り離された場所にいるような
錯覚を覚えていました