風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

海 【詩】

2023年06月29日 | 

「海」

何も語らない海を
目の前にしている僕と

海を語る言葉を
知らない僕の前に
静かにただずむ海と

閉じられた貝のような
無言の間合いに潮風が吹く
沈黙を縫いながら白い鴎が飛ぶ

埠頭に押し寄せる
ささくれた波に
小舟は痛そうな素振りをした

海が蓄えた言葉が
胸に吐き出され
溢れることを待つ僕に

何も語ろうとしない海は
きっと教える
長い時間をかけろ
成熟が必要なのだと
有り余る海の言葉
受け取るにはあまりにも
おまえは小さ過ぎる器なのだと

けれど 僕は
未練からたたずむ
今すぐに 秘密を教えよと
海から生まれた僕だ
体のなかの古い記憶から
伝わるものがあるだろうと

山影にはもう
太陽が沈もうとする
海の命ずるがまま
僕らの会話を
終わらせるために

水面にはオレンジの道が
水平線に続く
海の向こうの幸いの国
そこへつながる
道であると告げる

夜の匂いの潮風
海原は急速に闇にかたまる
僕の目にはまだ
夕日の像がヒリヒリと残り

どうすれば僕は
その道を渡れるのだろう

海を語る言葉を
知らずにいる僕の前に
たたずむ海と

何も語らない海に
とりつくしまもなく
取り残されている僕と


人の数 ほどに夜あり 君好きな 歌好きになる 努力する 聞く 【短歌】

2023年06月27日 | 俳句:春 時候

夜、一人の時間の過ごし方は
人それぞれ

もしかすると一番
ほっとできる時間かも知れません

若い時には自分の気になる人が好きだった歌を
一生懸命に聞いてみたりと
そんな時間の過ごし方もあったのですが

今は、子供との時間の後
そっとビールを飲んで
一日を終わらせたりしています


この坂は紫陽花推しの画廊かな 【季語:紫陽花】

2023年06月24日 | 俳句:夏 植物

傘をさそうか迷うぐらいの
小雨が降る中を歩きました

途中、坂道があって
上るのもきついなと思っていたのですが
道の端の至るところに紫陽花が咲いていて

その色とりどりの花を眺めながら
休み休み進むと
思った以上に苦しくなく
歩くことができました

それにしても
沢山の紫陽花が花をつけて見事

紫陽花を並べた
画廊を歩いているようでした


棘 【詩】

2023年06月22日 | 

「棘」

その棘を抜いてあげたい
あなたを苦しめる棘を

いつしかあなたの体に
しっかりと根を生やし
人知れず流す涙を養分とする
胸に深く刺さった棘を

あなたの心臓に流れ込む
その棘の毒
耐えきれずに張り裂けて
あなたは人知れず
空の奥で透明に吐血する

棘の痛みは
昼も夜も襲い来る獣のよう
噛みつかれるままに
耳に聞く猛獣の雄たけび

その棘が抜ければ
色を失くした頬も
仄かな赤味を取り戻すだろうに

あなたはいつしか
真っ赤に泣きはらした目を閉じて
いつ果てるのか分からない棘の痛みを
自分と一緒に眠らせてしまおうとする

その棘を抜いてしまおう
固く閉ざされた瞼が開くように
春の陽射し夏の木々
その瞳にはきっと鮮やかに映るよ

その棘を抜いて
あなたの呼吸が
穏やかで正しくあるように
自然な笑顔
桃色の頬がみずみずしくて

そうして落ち着いたのなら
手のひらに抜いた棘を眺める

ようやく抜けた棘は
本当に本当に小さく見える
傷跡さえも
どこにあったのか
分からなくなる

その棘が抜けたら
膨らんだ風船のように
軽く自分から浮き上がる
ふんわりと
痛みにもそのときには
微笑みを向けて

その棘を抜いてあげたい
心が正しい歩調を
取り戻すあなたに
あなたの明日に会いたい


諦めた、心新たに、力出ず、折れる簡単、知るよ、頑張る 【短歌】

2023年06月20日 | 短歌

もうすぐ期末テストを迎える次男
今までダラダラとしていた分
勉強が追いつかないようで
もう諦めようかなとぼやいています

諦めたらそこで終わりだよと
励ましてはいるのですが
確かに、心折れそうになるときは
自分にもいつもあります

ただ、全く諦めてしまうと
そこから力が出ないことが
経験上、分かっているので

小休止をして休み休み
進むようにしています

自分との付き合い方が
だいぶ分かってきたのかも知れません

 


長梅雨やいつまでも寝る子の寝言 【季語:長梅雨】

2023年06月17日 | 俳句:夏 天文

休日を何処に出かけるでもなく
ダラダラとしていた子供たち

自分もなのですが
天気もすっきりとせず
家の中でまったりと過ごしました

子供たちはお昼近くまで寝ていて
声をかけてもなかなか起きてきません
若いからと言うこともあるのでしょう
思い返すと自分もいつまでも寝ていたなと思います

子供たちが静かなうちに
家を片付けたりしていたのですが
はっきりと聞こえてきた子供の声

起きたのかなと思ったら寝言でした
どんな夢を見ているのかしらと
可笑しく思いながら
片付けを続けました


とある日 【詩】

2023年06月15日 | 

「とある日」

光届かない群衆の
うつむき黙した深海から
突然飛び出しては
むき出しの歯で
首にくらいつく
いくつもの顔

傷つき流す血の匂いを
すぐに嗅ぎ取り
群がる鮫のような貪欲

血走った目の奥底に
黒い欲望は光る
靴底で踏まれ続けた
屈辱を皺に隠して

なめ尽くされる
卑しい笑いが耳に飛び交う
眩暈がするほど鼓膜が揺らされる

街の明かりに海草のように
ユラユラと揺れるだけの人影や
海牛のように街角を這いつくばる人の
胸を悪くするもだえの渦にまかれ
失われてゆくだけの水平感覚

悪夢を見るよう
うなだれていると
やがて顔のない人ごみにつながれる
痩せた青白い魚のように
背を弓なりに心は溺れる
南国の花咲く島の
位置も見定められずに

ああ 青い海原を渡る
新鮮な潮風が僕に吹きつけるように
朝日のぼる水平線から
陽射しを頂いた波が足を洗うように
暗闇の衣服をはぎ取って
光あふれる方へと僕を向かわせよ


しがみつき 何を大地に求めるか どんどん滑って 皆 逝くのに 【短歌】

2023年06月13日 | 短歌

相も変わらずに
つまらない自分にこだわって
後悔を繰り返しています

この根拠のないプライドが
何故、消せないのかと思うのですが
いつも頭をもたげてきます

やがてこの世から滑り落ちて行く身
つまらない自分に
拘らずにいられればと思うのですが
中々、それができません


水やらぬ鉢をここぞと梅雨の庭 【季語:梅雨】

2023年06月10日 | 俳句:夏 天文

雨模様の日々
普段は水をやることを忘れて
ぐったりとさせることも多い
鉢植えの植物たちを
ここぞとばかりにベランダに出しています

大きな如雨露を傾けるように
空から落ちてくる雨の恵みを
鉢植えたちは確かに感じているようで

僕の怠慢によりぐったりと
萎れかけていた葉が
生き生きとしています

それを見るたびに
自分の不作為にすいませんと
罪悪感を覚えます

やがて梅雨が終わると
また強い陽ざしが差して
その強さにやられる植物もいるので
タイミングをみて
家に避難させたいと思います


彼の地で 【詩】

2023年06月08日 | 

「彼の地で」

心も揺られ運ばれてゆく
 乗り物酔いの気分の悪さも少し
  流れる風景を置いてきぼりにしながら

こんな錆びついたレールの上の不安
  見ず知らずのところへ
   勢い運ばれてゆく
    思い描く自分から遠ざかる

だからあなたの横顔を
 ときどき覗いては
  自分の位置を確認する
   あなたとの距離でしか
    確認できない僕であること

閉じられた踏切の向こうには
 手を振る小さな女の子
  僕に向けられたそのまなざしの純真
   長い旅路を気遣うように
    これからもご無事でと

(僕らが運ばれる先は
 君が羨ましがるような場所だろうか)

(もうきっと逢うこともない
 君の未来こそ
 明るいものであることを祈る)

その小さな女の子に
 あなたが見たものは
  無邪気だったころのあなた
   何も知らないことで胸も軽く

車窓を見送るその横顔には
 捨てて来たものの
  拾い集めたものの
   憂いがあって

車窓の光で寂しく化粧をした
 あなたの顔を
  癒したく思う
   あなたの寂しさは
    僕の胸の棘

心を解きほぐして
 真っ白な手触りのよい
  包帯にしてあなたに捧げる
   捧げ続ける
    そうして二人ずっと
     揺られ続けていられるように

僕らが運ばれてゆく旅の終わりは
 きっと彼の地
  ガラスが触れ合うように
   心と心とが素直に響く場所

笑顔を咲かせる
 たくさんの向日葵が空を向いて
  あなたは向日葵よりも
   明るい笑顔で咲いた
    一番 鮮やかな花であって

それを見たかった僕なのだと
 すっかりと満足をして消える
  あなたを包む風になるんだ
   足跡もつけずに
    青空に駆けあがる

あなたの笑顔が咲いて
 輝くように咲いて
  それで本当に
    満足なんだ