風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

電線に一直線に赤とんぼ夕べの祈りに羽を垂れおり 【短歌】

2020年09月30日 | 短歌
夕暮れ時のこと
暮れて行く空の色合いを眺めていたら

たくさんの赤とんぼが
電線の上に羽を休めていました

行儀良く一直線にならび
皆同じ方向を向いています

今日はそのまま
そこで夜を明かそうとでもいうのでしょうか
皆静かにしています

それはまるで
沈んでゆく夕日に向って
祈りを捧げる敬虔な信徒の姿にも見えて

僕も静かに頭を垂れていたい
気分でいました

釜飯の蓋湯気こぼす秋静か 【季語:秋】

2020年09月26日 | 俳句:秋 時候
先週日帰りで
東北のとある町に出かけました

当日のバスには僕の他には
お客さんは2人しかおらず
これで儲けが出ているのかしらと
いらぬことを考えていました

バスの終点で降りたのですが
まだ時間があったので
昼食を食べることにしました

少し歩いて行くとお店があったので
そこに入ることにしました

少し薄暗い店内には
2組ほどのお客さん

カウンターに座った僕は
釜飯を頼むことにして
しばらく何もすることもなく
待っていました

やがて僕の目の前で調理されていた
釜飯の蓋が白い湯気を噴き始めました

その音だけが静かな店内に響きわたり
秋の静けさを一層に感じていました

夜に 【詩】

2020年09月24日 | 
「夜に」

夜の一時頃に
目を覚まして窓から覗くと
街はひっそりとした寝息を
月明かりの闇の中にたてていた。

明かりがついているビルも
今日は見あたらずに
人が通る靴音の
高い響きの気配さえ
街灯の下に今日はない。

大きな黒い蜘蛛が
足をのばして
地面に這いつくばるように
街は眠っている
家の中では
うごめく小さな人間達が
疲れはてた肢体を
狭い床の上に投げ出して。

昼間見た
あの奇妙な仮面も今は
すっかりと取り外されて
この夜には誰もが
一匹の動物となって
こくこくと
むさぼるように眠る
荒々しい寝息だけを
枕元に吐き出しながら
頭の中に
腐りかけて花開く
青ざめた夢の数々で
満たされない心埋めて。

虹の立つトンビ羽ばたくその方へ頭傾げる曼珠沙華 【短歌】

2020年09月23日 | 短歌
お天気雨の過ぎたころ
綺麗な虹が立ちました

できたばかりなのか
随分と色も鮮やかで
見ていて嬉しくなりました

その虹に惹かれてか
とんびもそちらの方へと
高く羽ばたいていき

足元に咲く曼珠沙華も
心なしかそちらの方へと
頭を傾けている感じがしました

「君の色も負けたものじゃないよ」と
声をかけていました

とまどいに秋桜揺れる首折れの横 【季語:秋桜】

2020年09月19日 | 俳句:秋 植物
秋めいた爽やかな風が
僕の体を吹き過ぎていきました

こんな気持ちのいい風の中であれば
足が疲れるまで
どこまで歩いてもいいなと
そんなことを感じていました

もっともそこは通勤の途上
それが許されたことではなく

せめてもと
途中の花壇や野原の草花を
見ながら歩いていたのですが

とある場所で背の低いコスモスの一群れが
頭を揺らしていました

その横にはすっかりと首が折れて
うつむいた向日葵
もう息絶え絶えの様子です

秋を謳歌するものもあれば
朽ちて行こうとするものもいる

ちょっと寂しい
季節のコントラストでした

透明な言葉 【詩】

2020年09月17日 | 
「透明な言葉」

小さな口を開けて
一生懸命に話かけてくる
お前たちの透明な言葉
確かに僕の胸に温かく届いているよ

飽きることのないそのお喋りの楽しさ
尽きることない泉のように湧く言葉

言葉にならない声が
こんなに胸に響くなんて
言葉を悪戯にもてあそんでいる
僕は自分の力なさを覚えてしまうよ

僕にも人と分かち合いたい思いが一杯あるんだ
けれど僕の言葉はお前たちの
透明な言葉のように素直ではないから

マッチの炎のような怒りに煤けたり
自分をえらく見せようとする虚栄に汚れたり
知らず知らずのうちに黒ずんでしまっているから
うまく分かちあうことができないんだ

僕もお前たちに習い
いつか透明な汚れない言葉
取り出すことができたのなら
誰かにこの胸の思い
伝えることができるようになるのだろうけど
その手がかりは今は何も無くて

僕の目を見ながら
真っ直ぐに話しかけてくる
お前たちの言葉のその秘密
探り当てようとして
僕もお前たちの瞳の奥底を
覗き込んでみるんだ

面影の欠片湧くたび元気かと聞きたい言葉噛み締めている 【短歌】

2020年09月16日 | 短歌
普段は思い出さない人の顔が
突然浮かび上がって来ることがあります

いつの間にか遠く離れて
今は音信不通になってしまった人たち
中にはとてもお世話になった人もいます

そんな面影が浮かぶたびに
元気かなという言葉が頭をよぎります

今はそれさえもたずねる術を無くして
口をつきそうになる言葉を
少し苦く噛み締めています

頭なき秋刀魚を「なな」と呼ぶ子かな 【季語:秋刀魚】

2020年09月12日 | 俳句:秋 動物
先日子どもたちをつれて
スーパーに買い物に行きました

ちょうどさんまがシーズンで
値段も手ごろ

子供達も魚を結構食べるので
それを晩のおかずにすることにしました

最初は何の処理も
されていないものを買おうとしたのですが
後のことを考えて
頭と内臓が処理されたものを買うことにしました

それを見ていた子供が魚と言おうとして
「なな」と呼び
自分に持たせろといいます

まだまだ分からないからいいのですが
これを見て魚は頭のないものだと
勘違いされたらやだなと
そんなことを考えて

頭のある方のさんまを見せて
これが「なな」だよと教えていました

胸の中のお前たちに 【詩】

2020年09月10日 | 
「胸の中のお前たちに」

心臓の音を聞くと赤ん坊は落ち着くという
お腹の中にいた時にずっとその音に護られていたから
温かな水の中に繰り返し響いていた子守唄

胸の高さで抱いていると
ほんとうにそうだね
安心しきって静かに寝てしまう
胸に顔を埋めるように
まだ座らない首を時々がくりとさせながらも

普段そこにあることさえも意識していない
心臓の音が安心を与えるなんて
それは嬉しいことだ
誰も気づかない僕の生の脈動を
こうして肯ってくれるなんて

その眠りのための眠りの
目をつむった健やかな顔を見ながら
どんな風に僕の鼓動が聞こえているのか
こっそりと尋ねてみたくなる

それは正しく
明るい調子で鳴り響いているかい
それとも少し疲れて
泣き言を零しているかい
前者であればとても励みになるけれど

まだ何も出来ず
胸の中で眠るだけの
小さく温かなお前たちなのに
僕が忘れているものに
気づかせてくれる
その力の大きさに驚いている

苦しくもそれでも生に駆り立てる声を信じる歯を食いしばる 【短歌】

2020年09月09日 | 短歌
苦しくてこの生活から
脱落してしまいたいなと思うときがあります
我侭な話だと自分でも思うのですが

そんな葛藤の中でも
僕を生に駆り立てようとする声を
自分の中に聞きます

余計なお世話だと思う時もあるのですが
その声を頼りに
今できることを頑張ってみたりします

きっとその声の伝える通りに
生活を続けて行くことが
僕に命じられていることなのでしょう

その声の主を信じて
今日も少しだけ
やせ我慢をして頑張ります