風のささやき 俳句のblog

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古い木の家 【詩】

2022年02月24日 | 

「古い木の家」

# 1

古い木の家は思っている
庭に顔出す春先の菜の花
降り止まない梅雨の雨を
自分の中を通りすぎた夏の風のこと
降り積もる落葉 雪の重さを

古い木の家は耳を傾ける
新しい生命の産声に
夕餉の集いの笑い声に
軒下の猫の眠り
仏壇の前の念仏の呟きに

# 2

古い木の家は考える
受け継がれて行く人の営み
織りなされる物語の不思議さを
悲しいことさえも乗り越えて
いつしか柔らかな笑顔
身につけるそのしなやかな力を

# 3

古い木の家の前に
横たわる広々とした畑
人が耕し丹念に育てた作物は
季節毎に恵みとなり
その人の手に実りの重さ伝えて


沢山の実をなす柿の大木
口を開くあけび
ぎっしりと詰まった栗

# 4

古い木の家は
暖かな陽射しに思い出す
山の斜面に生えていた
一本の木であった時のことを
若葉で捕まえた陽射しの感触も
こんな感じだったのかしらと
遠い記憶を懐かしくまさぐり

# 5

古い木の家は
一人起きては目を凝らす
静かな眠りについた家の者を
何人も脅かせはしないようにと

そんなことには
まるで気がつかず
古い木の家に守られて
暮らす家族の
この先に語り告がれる物語に
思いをはせる古い木の家

願わくは それが
末永く幸せであることを と


溜息に毒気も抜けて街灯り綺麗だ気づかぬままいて僕は 【短歌】

2022年02月22日 | 短歌

電車から吐き出されるように
駅のホームに降り立ちました

今日も一日が終わったなと
深くため息をつくと
自分の体にため込んでいた毒気が
少し抜けたようで
緊張していた肩からも力が抜けて

見上げると
ビルの灯りが目に飛び込んできました

毎日のように降りる駅なのに
そんな綺麗な夜景に気づかずにいる自分は
余裕のない毎日を送っていて
見落としているものが
随分と多いなと思い知らされました


明るい島 【詩】

2022年02月17日 | 

「明るい島」

# 1

あちらの島が
陽射しに明るんでいる

こちらの堤防は
少しの雨もぱらついて

人が渡る先
死はそんなに
隔たれたものではなくて

それこそ目の前に浮かぶ
あの島との距離位ではないのか

そこに自由に行き来する
船がないだけで
渡った人だけがもう戻らない

その末を知りたい


#明るい島 2

陽射しの当たる段々畑
蜜柑の木
昔ながらの民家

今にもその人が姿を現して
こちらに手を振るようだ
楽しくしているよと告げに

こちらも、元気でやっているよ と
大きな声を、届けてみたい
手も届きそうな距離に

いつまでも、そちらの方は
陽射し溢れる
明るい場所でありますように


桜舞う陽ざしよ 病んだ風景も 悔いなく朽ちる まどろみに抱け【短歌】

2022年02月15日 | 短歌

心の中に巣食う痛んだ風景が
時折、頭をもたげて苦しくなります

普段そんな痛みは
忘れたように生活しているのですが
心弱った折に顔を出して
胸の中を占拠します

病んだ風景を悔いも痛みもなく
朽ちさせる柔らかな陽ざしにまどろみたいと
春の日に散る桜を見ながら思います


耳掛の少女一輪ドア際に 【季語:耳掛】

2022年02月12日 | 俳句:冬 人事

朝の電車に乗っていたときのこと

僕の目の前には
白い耳当てをした
若い女の人が一人
ドアにもたれかかって
外を眺めていました

そのドアのガラス窓からは
朝日が差し込んで
その女の人を包んでいます

その姿がまるで
今、咲いたばかりの
一輪の花のようにも見え

少しの間通勤の疲れを
忘れさせてくれました


街で 【詩】

2022年02月10日 | 

「街で」

# 1

歩き疲れて
あなたと二人
こうして座って
目を合わせ微笑む。

ささいな仕草からも
読みとれる
僕らの間には黙っていても
通じあえる言葉があって
それがこうまでに
二人を一緒にする。

僕らのテーブルにも
白い珈琲カップが二つ運ばれて
手で触れるとあなたといる時の
温かさと同じだ。

 

# 2

耳に届くのは
壊れて話をやめなくなった
ラジオから流れるような言葉
少し暴力的で疲れてしまう。

僕はあなたと
そんな言葉で
結ばれたものには
なりたくはないんだ。

黙っていても心は華やいでくる
春風に心地良く揺られる
タンポポを真似て
その気分に揺られていたいんだ。


# 3

たとえばあなたと
目を合わせ微笑む。

あどけない少女の
人懐っこさ残す笑顔
優しい瞳に映し出される
あなたの心のさざ波が
僕の心にも押し寄せて
そんなとき僕には
あなたがよく分かるのだ。

そうして寂しげな仕草には
誘われるように背を押す
そんな二人だけの言葉を
大切に思うのだ

# 4

口に出した傍から
本当のことが伝えられなくて
嘘を重ねる言葉は
もうこれ以上
紡ぐのを止めにしたくて。

どんな人込みにでも伝えあえる
二人だけの言葉に
僕の心の調べを
あなたが感じとってくれるといい。

もしかすると僕自身でさえ
気が付いていないかも知れない
心の調べを。


春近し山で座したる眩しさは 【季語:春近し】

2022年02月05日 | 俳句:冬 時候

子供たちが小さな頃
一緒に高尾山に登りました

リフトからちょっと歩いた所の
ベンチに座り
喉が渇いたというので
ジュースを飲ませ
リフトに乗る前に買った
ポップコーンを食べさせました

最初のうちは僕の横に
子供の一人が座っていたのですが
太陽の陽射しを直接受ける側のせいか
眩しいといって席を移動しました

子供なのにだらしないと思いつつ
確かに以前よりも強くなってきた
陽射しを感じていました