風のささやき 俳句のblog

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詩や短歌も掲載しています

芋の葉が惜しみ零さぬ朝の雨

2019年09月28日 | 俳句:秋 植物
秋田で目覚めたその日は
朝から雨が降っていました
耳には起きた時から雨音が響いていました

今日は一日雨かなと空を見上げていたら
程なく雨も上がりました

陽射しも差し込んできたので
それに誘われるように畑に出かけると
里芋の大きな葉が
なみなみと朝の雨を湛えていました

良く零れないものだと感心していると
その葉っぱの上には雨蛙
そうして隣の葉にはありが一匹歩いていました

もしかするとこの生き物たちのために
雨を零さずにいるのかなと思うと
頑張れと応援したい気持ちにもなりました

合歓の木陰にまた 【詩】

2019年09月26日 | 

「合歓の木陰にまた」

合歓の木陰で休む
心には真っ黒な闇が広がる
白いテーブルクロスの
黒いインクのように

合歓の木陰に抱かれて
消えたはずなのに
一層 濃い影が体から滲み
僕が浮かび上がる

その底なしに
傍らの蟻も慌てて逃げる
きっと近づいてはいけない
僕は不幸の販売人

いつからこんな闇に
支配者されていたのだろう
あるいは闇自身が正体であることに
気が付いただけかも知れない

その闇に落ちてしまった
素直な笑いや怒り
悲しみを取り戻そうと
けれどその試みは徒労だった
嘆きさえも貪欲に飲み
広がる闇に黙って梢を見上げる

風が吹き
合歓の影もゆれる
葉の間から落ちる陽射しも
同化させる闇が
しっかり心を占拠している

合歓の木陰にも滲みだす
闇の濃さに動きだせずにいる


秋初めお別れ会に顔を出す子供は別れを知る由もなく 【短歌】

2019年09月25日 | 短歌
子供たちが東京に戻るということで
お友達がお別れ会をやってくれたとのこと

いつも遊んでいるお友達が
たくさん集まってくれたとのことです

子供たちはいつものごとく
大騒ぎして盛り上がっていたようです

もちろんまだ友達と離れることの意味も
分からない年頃なので
子供たちには何の寂しさもないのでしょうが

お別れ会にも参加していない自分が
友達と離れるなんて可愛そうにと
子供たちの代わりに寂しくなっていました

おかしな感情移入ですが

先行きが分からなくなり秋に入る 【季語:秋】

2019年09月21日 | 俳句:秋 時候
今のままで暮らしていけるのだろうかと
ふとそんな漠然とした不安に
かられることがあります

生活のスタイルもそうですが
自分の知力や体力
そんなものもどこまで
維持できるのだろうと
いささか自信がなくなってきます

ここのところ忙しさにかまけて
本を読む機会もめっきりと少なくなり
自分の中がすかすかのように感じています

ただでさえ何も無い自分の心が
このまま益々貧弱になって行くとしたら
ちょっと想像したくないなと思ってしまいます

そんな自分に秋めいた風は
今まで以上に染み渡ります

合歓の木陰に 【詩】

2019年09月19日 | 

「合歓の木陰に」

頭上の太陽は
形あるものを黒くなぞる
まるで汚点であるように
地上に広がる僕の影

親指 人差し指 薬指と
指の一本さえも逃さずに
存在がヒリヒリと
夏の地面に焦げ付く
お前の罪だと見せつけるように

自分のものではないような影を
動かしてみる指先につられ
操り人形のように動く影
あるいは影の操り人形の僕

傍らの合歓の木
沢山の羽のような葉を生い茂らせて
夜になれば重ね合わせる
千手よりも多くの祈り

その木陰に逃げ込んで庇われて
姿を失う僕の影
腰を下ろして
そっと安堵の吐息をついている

緊張から解き放たれて
一滴の汗が額を走り地面に落ちる
その跡をもう影はなぞらない

見上げれば合歓の葉が揺れ
風の真っ直ぐな通り道
空に手向ける桃色の花を
罪滅ぼしの数だけ咲かせるように

合歓は母のように庇う
そっと休ませる
何かをした訳でもないのに
葉を重ね合せ
僕のために祈ることを止めずに

黒い一匹の蟻が傍らにきて
そっと動きを止める
合歓の木陰に一緒に隠れる
一息をついて

庇ってくれる
合歓の梢を見上げている
ほっと救われている


年老いた去り行く夏の空咳を写し取ったかさるすべりの花 【短歌】

2019年09月18日 | 短歌
毎日の中から夏の痕跡が
だんだんと消えていきます

思い出したように
陽射しが強く感じられることもありますが
それもほんの一瞬

まるで年老いた人の空咳のような
力の無さを感じてしまいます

そんな逝く夏の力ない様を
写し取ったようなさるすべりの花

そんな印象を持つのは自分だけでしょうか
夏の終わりにさるすべりが花をつけているの見ると
毎年感じられることです

公園に鳴く虫何処の生まれやら 【季語:虫】

2019年09月14日 | 俳句:秋 動物
帰りが夜遅くなってしまい
家路へと暗い道を急いでいました
昼間の暑さも和らいで
風も大分涼しくなっていました

とある公園の横を過ぎようと思っていたら
ひときわ高い声で鳴く虫がいて
その声にはしばし耳を奪われました

それにしても公園は街中にあり
近くに原っぱがあるわけでもなく
一体どこで生まれたのだろうと
ちょっと不思議に思っていました

公園生まれの公園育ちなら
余計なお世話なのでしょうが
ちょっと可愛そうだなと思いました

ある日 【詩】

2019年09月12日 | 
「ある日」

人も訪ねない
石段を上がる
地図にものらない
小さなお寺に
ひっそりと置かれた石の上
刻まれた柔らかい仏の姿
誰がどんな思いをこめて
彫り込んだのか
ー彼の思いは
 かなったのだろうか

その台座には
汚れた五円玉が一枚
置かれて
屋根もなく
雨風にさらされた
青い空の下で憩う
顔の輪郭は穏やかに
ゆれるコスモスの
花影に
飾られて

長い年月が
その面持ちをけずり
石の中に再び
閉じこめてしまうときに
誰かがまた
取り出すことがあろうか
一つの願いと供に
祈りの姿の仏を
灰色の石の
深い眠りの中から

弱さゆえ生きていること苦しくて声鳴き悲鳴誰か聞いてよ 【短歌】

2019年09月11日 | 短歌
自分があまり強い人間ではないせいでしょうか
生きていることをしばし
重荷と感じてしまうこともあります

その重さも段々と増して行き
いつ僕の芯が折れてしまうのだろうと
不安になることがあります

もちろんそんなことは
声を大きくして言えることではないので
じっと耐えるしかないのですが

誰かにこの声にならない悲鳴を
聞いて慰めてもらいたいと
そんな風に思う時もあります

主の居ぬ破れ蜘蛛の巣三日の月 【季語:三日の月】

2019年09月07日 | 俳句:秋 天文
お酒を飲んで夜遅くなった帰り
人も少なくなったホームで
電車が来るのを待っていました

手持ち無沙汰で
辺りに視線を泳がせていたら
破れかけた蜘蛛の巣が目に止まりました

良く見ると蜘蛛の姿もなく
大分前から捨てられた状態になっていたのでしょう

そこに捕まる間抜けな虫はおらず
ただ三日月だけが捕らえられていました