風のささやき 俳句のblog

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25年後の春に 【詩】

2020年04月30日 | 
「25年後の春に」

25年後の春の空は
僕の上にまだ暖かくあるだろうか
一陣の風が金粉のような砂埃を巻き上げて
僕は目を細めてそれを見るのだろうか

25年後の春の空の下で
桜はまた目の中に惜しげもなく
花びらを舞わせるのだろうか
僕の手のひらは惜しきものよと
その花びらを追いかけるのだろうか

何年も会わずにいた人からの手紙は
手の上に零した嬉し涙のように温かだった

昔と同じ懐かしい言葉で
その後の暮らしをしたためた便箋に
僕の胸はわだかまりない青空のように
晴れ晴れと穏やかな明るさでいた

それからの月日の長さを僕は指折り数えた
両手を行き来するその長さと
足早に過ぎた短さとの茫茫とした思いに茫々として
未来の僕へと問いかけていた

ちょっと前に飛行機雲が
空を十字に切り裂いていったその跡が
ゆっくりと傷口を広げている
その先にある25年後の春の僕へと

雲よりも行く末を知らずに漂い
風に迷っては形を変えて
僕はまた迷走を繰り返して行くのだろうな
そこは少しも今と変わらず
その戸惑いを言い訳に置き換えたりしながら
後悔に火照る体には
アルコールの一杯も染み渡らせて

その行き着く果ての25年後の春の空を
僕はどんな気持ちで眺めているのだろう
せめては身じろぎもせずに堂々と
その青さを眺められる者でいたいと思うんだ

夕焼けに一色になる春景色車窓にある顔みんな燃えてる 【短歌】

2020年04月29日 | 短歌
暖かな春の一日でした
僕は一人電車に揺られて
窓辺に頬杖をつき
色を変えてゆく
田園風景を眺めていました

オレンジ色の穏やかな夕日に
すべてが塗りつぶされていきます
散り残った桜も菜の花も
ゆったりと流れる川も
すべてが同じ色をして

僕の胸の思いさえもが
その色に塗りつぶされたようで
どこか懐かしく暖かなものが
流れて行きました

そうして窓の外を覗き込む
幾人かの人の顔もみんな同じ
一様に赤々とした顔をして
静かな目を窓の外に向けていました

流木や日永浮くなり沈むなり 【季語:日永】

2020年04月25日 | 俳句:春 時候
その日は随分と暖かな日でした
太陽が顔を出しているところでは
外にいてもまったく苦には感じられませんでした

とある川の側に通りかかったので
川べりを歩くことにしました

川の面を眺めながら歩いていると
川の流れの淀んだところに
小枝の流木がくるくると回っていました

どこからか流れてきて
そこにつかまり
動けなくなってしまったのでしょうか

魚釣りの浮きのように
時には沈みかけたり
その反動で浮かび上がったりもしています

何故かその様子が
自分の身の上にも似て
哀れに思えて

足早にその場所を離れることにしました

とある日に 【詩】

2020年04月23日 | 
「とある日に」

野球場に歓声がこだましている
フェンス越しには一喜一憂する人の群れ
何に身を焼かれれば
あんなにも我を忘れられるのだろう

ほんとうは僕もそこに溶け込んで
楽しく笑っていられればいいのだが
きっと居心地の悪さに支配される僕の笑顔は
脂汗にまみれ紫色に変色をする

素直な心で人といられない惨めさ
きっと僕には時間の向こうに囚われて
囚人となっているもう一人の僕がいる
僕の素直さをすっかりと持ち合わせて捕まっている彼が
暗がりの中に閉じ込められている

僕らはいつまでも隔てられている
ついには一つに溶け合うこともないのだろう
片割れの僕にはあまりにも納まりの悪いこの場所で
僕は顔色を変えながら生きながらえるだけ

今誰かがヒットを打った
外野の間を転々と白いボールが転がって行く
それを追って走る外野手
一生懸命に塁を駆け抜けるバッター
湧き上がる大きな歓声

すべては間の悪い喜劇のように
僕には笑い高ぶる場所がわからない

青空がどぎつい色に光りだす
白い雲が大きな口を開けて嗤う
太陽が針のように目に痛い
僕の視覚はこのまま奪い去られればいい

眼鏡曲げ笑う子駄目と諭しても戻らぬ曲がった眼鏡掛け行く 【短歌】

2020年04月22日 | 短歌
子供にまた眼鏡を曲げられてしまいました

何故か興味があるようで
笑って僕の顔からむしりとり
その慌てた様子が楽しいのか
これまた笑ってフレームを曲げます

本気で止めてくれと叫ぶのですが後の祭り
曲がった眼鏡をして出かけるのですが
見え方が違うせいか気分も悪くなってしまいます

何回も曲げられては
眼鏡屋さんで修理してもらうという
繰り返しだったのですが
ついにはスペアを作りました

けれど新しい眼鏡は翌日に曲げられ
古い眼鏡も顔ごと踏まれて曲がりました

スペアをもっていても
あまり変わらないようです

春の雨に 【詩】

2020年04月16日 | 
「春の雨に」

暖かくなり過ぎた街を
少し冷やそうとする
通り雨が一頻り降った

僕は鞄の中からそっと傘を取り出して
君との間にそっとかざす

小さすぎる傘の間からは
君の肩を濡らす一粒の雨
思った以上に冷たい雨に
君が首をすくめて僕と顔を見合わせる

その雨はある意味で幸せだ
君に気づいてもらえたから

たくさんの雨は傘にはじかれて
アスファルトの水溜りにたどり着く
それを押しつぶして走る車の群れは闇雲に急いで

ビルは高いところから濡れている
若葉を芽吹く街路樹の肌が艶やかになる
僕の靴も爪先の方から心細く冷たくなり
コーヒーを飲みながら窓の外を見上げる人々も
言葉を少し休めている

一頻りの雨が街にしっとり沁みこむ様に
僕の気持ちも何故だか潤い落ち着いて
ほっと君に気づかれぬほどの吐息をついている

早すぎる春の歩調を遅らせようとする
冷たい一頻りの雨に僕の心も濡れ
足元に咲く小さなタンポポに
気がついたりしている

夢を見る終った時の続きから思い出そっと書き換えている

2020年04月15日 | 短歌
夢を見て目が覚めました
ずっと昔に終わった出来事の続きでした

現実とは異なる場面に置き換わっていて
それがとても現実的な感触で
そうだったのかと一人で納得していました

きっと覚えていないだけで
こんなことが日常的に
繰り返されているのでしょう

思い出を書き換えて行く夢
都合のいい話ですが
そうしないと人は生きていくことが
息苦しくなってしまうのではと思います

眠ることが好きな自分の
自己弁護かも知れませんが

電車来て空舞う虫かと散る桜 【季語:桜】

2020年04月11日 | 俳句:春 植物
暖かな春の日でした
電車を待って
駅のホームに立っていたのですが
風も穏やかでしばらく
こうしていてもいいなと思えます

そんな僕の気持ちも知らずに
勢いよく電車は走りこんできました

一瞬にして風向きが変わり
空を見上げると散り落ちて来た桜が
再び舞い上がって
白い虫が飛んでいるように見えます

これだけの花を散らしたら
桜もそろそろ終わりかなと思って眺めると
もう葉桜の状態
少し寂しい気分を覚えました

帰り来てため息吊るす夜桜や散らしておいて人の知る間に 【短歌】

2020年04月08日 | 短歌
いつもとは違う道を通り帰って来た夜
通りがかった公園に
見事な桜が咲いていました

今年はあまりゆっくりと
桜を見る時間もなかったので
しばしそこに足を止め桜を見上げ

今日の心の重荷を
溜息にしてその枝に吊るしました

ほんとうにつまらない僕の心の重荷
人に知られるには
あまりにも恥ずかしいものなので
花と一緒に散らしておいておくれと
言葉を告げてその場から去りました