風のささやき 俳句のblog

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耐え柔く地蔵のお顔暮の春 【季語:暮の春】

2022年04月30日 | 俳句:春 時候

道を歩いていたら
お地蔵様を見つけました

いつからそこにいるのでしょう
その顔の輪郭などから察するに
随分と古いもののように感じられます

このお地蔵様は一体どんな願いの数々を
耳にしてきたのでしょう
そうしてそれをじっと受け止めて
何を感じてきたのでしょう

長い歳月を人々の苦しみと共に耐え抜いてきた顔は
どこか柔和に感じられます
その前では自分をさらけ出しても
受け止めてもらえそうな安心感があります

僕はそのお地蔵さんに手を合わせて
一つ二つとお願いをした後
その場所を後にしました


目の中から 【詩】

2022年04月28日 | 

「目の中から」

# 1

もうそれを 映していることはできなくて
目の中から また一つ 僕は
大切だった 風景をとりこぼす

大粒の涙に 閉じ込められた風景は
頬を伝い 風の中に千切られてゆく
―ああ その中には青い空が映る
 夏の激しい 眩しさがある

# 2

メリーゴーランドように回れ
僕の めまい まよい うれい
さようなら 僕がたくさんいた時間
何よりも 大切だったはずの
あなたの顔も 取り止めのない
速さで 遠ざかる

# 3

僕の目は 病気なのだろうか
次から次へと 大切な風景が
むしりとられる 涙となって流れて行く
まるで 散る落ち葉のように

とりこぼして とりこぼして
大きな穴ぼこの ざるのように
大切なものすべてを とりこぼして

# 4

僕を組み立てていた
骨組みが次々と折れる
心があっけなく ひしゃげる
強い風に あらぬ方向に曲げられた
折りたたみの傘のように

僕はもう途方に暮れて
なすすべもなく
今日も 大切だった風景を
目の中に 残しておくことが出来なくて
惜しげもなく とりこぼしている


お守りはあなた 胸にはその笑顔 ホカホカとして優しさの糧 【短歌】

2022年04月26日 | 短歌

楽しいものばかりが
瞳に映れば良いのですが
そう上手くはいかないようです

だから大切な人の笑顔は
とても大事な瞳の糧です
その笑顔に触れていると
どこか優しくなれるように思えます

そんな大事な糧を
大切にしながら
毎日を過ごしたいのですが

時として自身の心がささくれて
それを壊してしまうこともあって
反省します


綺麗だの応援嬉しチューリップ 【季語:チューリップ】

2022年04月23日 | 俳句:春 植物

子供が何処で覚えたのか
「咲いた、咲いた」で始まる
チューリップの歌を歌っていました
思った以上に上手なので
感心して聞いていました

とあるマンションの
整備された花壇の横を通ると
色とりどりのチューリップが
ちょうど花をつけていました

子供を抱いて
これがチューリップだよと
その花を見せてあげると

子供は興味深そうに
その花に手を伸ばし
チューリップの歌を歌いました

そう良く分かるねと褒めると得意げな顔
「どの花見ても綺麗だな」と
褒められたチューリップもどこか嬉しげ

それ以来子供は
チューリップを見ると
歌っています


洗濯 【詩】

2022年04月21日 | 

「洗濯」

# 1

春の海に心を洗い来たよ

泡立つ波に何度洗えば
心は綺麗になるだろう

真っ白に磨かれた貝殻になれば
少しは気分は
楽になるのだろうか

# 2

春の海に洗った心

潮風に干され
少しは汚れも落ちた気がして

けれど
歩き出せばすぐに
心は乱れ
人に会えば垢まみれ

海はいつでも待っていて
また洗いに来れば良いと
言ってはくれる

何万回でも、何十万回でもと

そんなに長い時間が
許されているのならば


転んだら泣いて抱かれて母の胸やがて笑った柔き泣き場所 【短歌】

2022年04月19日 | 短歌

小さな子供が道を
少しおぼつかない足取りで走っていました
危なっかしいなと思いつつ見ていると
案の定転んで泣き出しました

それを見ていたお母さんでしょう
近づいて泣いたままの子供を抱き上げ
優しくあやしていました

やがて落ち着いた子供
それから程なく笑い出しました

母親の胸に抱かれて安心したのでしょう
安心して泣ける場所があるのは
羨ましいことですね


柔き雨ご馳走さまの芽ぐむもの 【季語:芽ぐむもの】

2022年04月16日 | 俳句:春 植物

気持ちの良い春の雨が
降り注いでだ夕方でした

乾いていた地面も少し潤い
すべてのものが埃を洗われ
綺麗になったように見えます

傘を差して歩いた帰り道
どの木々も
芽吹き始めた緑が賑やかでした

そんな芽ぐむものたちには
この夕べの雨は有難いものだったのでしょう

すべての緑がお腹を一杯に
この柔らかい雨を満喫して
膨らんでいるように見えました


春の岬 【詩】

2022年04月14日 | 

「春の岬」

灯台の光も届かない水平線に
落ちて行こうとする 煮崩れたような春の夕日
菜の花もどこかオレンジがかって
あの海原からの色続き
どこまでも歩いて行けそうで
切り立つ岬に足を向ける

燃える瞳に 見つめられて心は
いとも簡単に燃え上がる
一瞬で炎が包んだ 一片の便箋のように
言葉も一緒に 灰になってしまって

静かになる僕の心には
また淡い歌が立ち上がる
子供の頃 母の背中で聞いた
歌声よりもかすかな調べ
言葉も無く 心に湧き出す 透明な歌

その歌の郷愁に呼ばれて
どれだけの距離を 
帰ればいいのかも分からずに

僕が 羽ある者ならば
潮風に任せる かもめを真似て
鳴きながら広い海原を
飛んでいくだろうに

力いっぱいの羽ばたきが
許すがままの 強さで風をつかみ
空にあることを 僕の幸いにして

夕日はやがて 水平線に落ちて燃え尽きる
海には既にその灰が降り
立ち尽くす僕はまた 羽をもたない
静かなあきらめに
頭を上げる 薄墨色の空を見る

風が大地を 持ち上げようとする
菜の花が頭を振っている
やがて空には薄いゆず色の月が昇る
終わらない旅の途中に
一人 僕はいるのだと


青ざめた群衆日々に心踏みいつしか僕も群れにつながる 【短歌】

2022年04月12日 | 短歌

毎日たくさんの人とすれ違います
電車に乗れば多くの人に囲まれて

自分の心の中にも
そんな疲れた表情のない群衆が
日々通り抜けて行くよう

いつの間にか足跡だらけになる心には
重苦しい感触が残ります

僕もけれどそんな群衆に
何の違和感もなく紛れる一人
不機嫌な顔をして顔色も悪く
日々人込みの中を歩きます


祝福の花ふりそそげ乳母車 【季語:花】

2022年04月09日 | 俳句:春 植物

桜が咲いていました

その下を乳母車を押した
家族連れが通りました

この暖かな陽射しに誘われて
花見に来たのでしょう
とある木の下で立ち止まって
花を見上げています

乳母車の中の子供は静かで
眠ってでもいるのでしょう
その中にも桜の花が舞い降りて行きます

まるで花がその赤ん坊の
未来を祝福するように見えて
もっと花が降り注げばいいと思っていました