アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

バーネット・ニューマン ―十字架の道行き―

2015-06-10 | 展覧会

ゼッタイ見に行くべき展覧会だ!と聞き及びながら、なかなか腰が重かったのは、ひとえに「遠い」からです。車の運転が苦手な私は、あの狭くて長い道のりを思うと…(泣)。というわけで、ついに最終日になってしまった先日、やっとミホミュージアムに行ってまいりました。

5月中旬に訪ねた知人によると、お客様はほとんどいなくて展示空間を独り占めできた、とのことでしたが、さすがに最終日は人がいっぱいでした。同じく、曾我蕭白の名品が出品されている日本美術の展覧会も最終日でしたのでね…。(ボリューム的には、むしろこちらがメインか?)

バーネット・ニューマンは、ジャクソン・ポロック、マーク・ロスコなどと並ぶアメリカ抽象表現主義の巨匠のひとりで、その最高傑作と言われているのが、今回の連作「十字架の道行き」です。この作品群の副題は、「レマ・サバクタビ(何ぞ我を見捨てたもう)」、これは十字架の上でキリストが叫んだ言葉で、そこにはニューマンの、時代も宗教も人種も超えた根源的な問いへの挑戦が込められている、とのことです。

アメリカ抽象表現主義の画家たちの表現にはそれぞれ特徴があるのですが、バーネット・ニューマンは、「ジップ」と呼ばれる縦のラインが巨大なキャンバスを垂直に断ち切る独特の画風を確立。そして、その画面に深い精神性、「崇高さ」を追求した画家です。

初めて目撃する「ジップ」!カラーはモノトーンです。最初は白いキャンバスに黒の線。ジップの位置、太さはそれぞれ異なり、チラシの作品のように、ネガでラインを抜いているところもあるし、ラインがはみ出しているような塗り方も。後半は、画材がアクリル絵の具に変わり、色も微妙なグレーとなり、最後の作品は、反転したかのように白のラインが描かれています。

「十字架の道行き」は、イエス・キリストの受難を14の場面であわらす伝統的な宗教画の図像ですが、このニューマンの作品の1点1点に、物語があるわけではありません。でも作家が込めた主題を思うと、そのラインの太さや、滲みやかすれ、はみ出し具合に、何かしらの意味が感じられるのです。特にチラシに載っているモノトーンのかすれたネガのラインなどは、墨絵を思わせるような東洋の幽玄さも感じられ、でありながら、右と左を厳密に分けるラインに、厳しい精神性も感じるのです。

制作年は、最初の作品が1958年、それから実に8年の歳月をかけて完成されたとのことですが、画材の素材感の違いこそあれ、同じリズムで描かれているのがすごいな~と思いました。会場は小さな八角形の展示室を使い、14の連作がグルッと見渡せるように展示されています。そして入口の裏に15点目の「存在せよⅡ」が。きっと、独占できたなら、1点1点のジップによる作品のリズムを追いながら、作品とじっくり対話できる、そんな静謐な時間を持てたのではないかな…と想像します。

でも、最終日は人が多すぎた!しかもおよそ現代美術ファンではなさそうな方々の頭に浮かぶ「?」が、まるで見えるようでした。同行した家人にも「意味がわからん」とハッキリ言われ、まさに「抽象表現主義の作品だなあ!」と思って、なおいっそうおもしろく感じた次第です。そのへんのところを、以前、宇佐美圭司さんの「20世紀美術」という本の感想で書きましたので、ぜひお読みください。

さて、同時開催されていた「曾我蕭白〈富士三保図屏風〉と日本美術の愉悦」では、タイトルどおり蕭白の巨大な屏風が見ものでした。放映されていた映像で辻惟雄館長が力説されていたとおり、富士山の先が三つに割れ、巨大な虹とそれに呼応するかのような半円のモチーフがちりばめられ、金色の空気に彩られたまことに奇妙な空間を創出しています。初めは蕭白らしくない、と思ったのですが、見れば見るほど妙にハマってしまう不思議な作品でした。

行くのはしんどかったけど、素晴らしい作品を目撃でき、行って良かった、楽しかった!と思えるミホミュージアムでした。次回展示は「若冲と蕪村」です。ククク~遠いのお(泣)。


Comment    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 室生山上公園 芸術の森 | TOP | 昔も今も、こんぴらさん。~... »

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | 展覧会