超人日記・作文

俳句を中心に、短歌や随筆も登場します。

#俳句・川柳ブログ 

ブログ短歌自選歌集その4

2022-08-22 08:18:33 | 自作短歌
ブログに書いた短歌のうち、比較的最近の作を選んでみました。

肉声を放とうとする地の塩に固く閉ざした戸もじき開く
人間の内にも宿る霊性を守り育てて生きる切望
砲撃で揺れる東部の戦線で「論考」を書く指が震える
息切れて何度も開ける冷蔵庫麦茶飲み干す季節また来る
歳月を夢みるように月日貝古い日記をめくる指先
願い事やがては叶い小舟でも銀いろの波目にもまばゆく
生きていて時に感じる苦悩さえ心深める日々の暗号
坂道の雪持ち笹に頬緩む 北の寒さも直終わるはず
先々の行方は知れず雪割草 春来る前にてにをはを直す
月寒の時計塔にも雪残り子どもが走る春浅き日々
除雪車が雪を噴き上げ持ってゆく冬の晴れ間に文字を打ち込む
遅くまで灯る冬窓雪深く見守るように眠る山並み
奔放な台風の目のナジャが見た風景がみな変貌を遂げる
春が過ぎ真夏の陽差し照るなかを白い衣で町を闊歩す
けなげにも川沿いに咲く花を見てうきよというは惜しく思われ
八月の列車で賢治を去るときに車窓に見えた花火現つか
主の神は天地創造なしおえてエデンの園に人を憩わせ
オルガンと賢治の楽譜天の河 椅子残された地人協会
釜石の車窓に眠り賢治の忌カムパネルラは友か私か

コメント (2)
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賢治の少年短歌を読む

2022-08-22 05:00:20 | 無題
「アルカリ色の雲」―宮沢賢治の青春短歌を読む・佐藤通雅編著(NHK出版)を開く。
主に盛岡中学時代、盛岡高等農林学校時代の習作である。各首の後に評者の説明がある。
〇中の字の徽章(きしょう)を買うとつれだちて なまあたたかき風にふれたり
父親と盛岡中学の中の字の徽章を買おうと連れ立って出て行き、生暖かい風のなかに出た。
日常描写から、異世界へ行き当たる感覚がある。
〇ひがしぞら かがやきませど 丘はなほ うめはちそうの夢をたもちぬ
夜明けの光に東空は輝いているが、梅鉢草の自生する丘にはまだ、花が眠れるほどの夜の暗さが残っている。
〇ひとびとは鳥のかたちによそほひて ひそかに秋の丘をのぼりぬ
鳥になれない人々は鳥に装い、金色に輝く丘を登っていた。鳥のかたちによそほひては、文学的空想なのか、民俗に根差した習慣なのかわからないが、幻想的な一首である。
〇せともののひびわれのごとくほそえだは さびしく白きそらをわかちぬ
すっかり葉を落とした樹の下から見上げる空は細い枝によって、確かにたくさんのひびが入ったように見える。枝を瀬戸物のひびと見る眼が、風景を幻想へ引き込んでゆく。
〇雨にぬれ 桑つみをれば エナメルの雲はてしなく北に流るる
桑を摘んでいる自分を描いたのち、上空の広い景色に眼を転じている。雨に濡れてしまったあと、雲が果てしなく流れて行くようすに眼を奪われている。
〇はだしにて よるの線路をはせきたり 汽車に行き逢へり その窓明し
裸足で夜の線路を走ったら、汽車に行き逢った。その窓は明るかった。
ここから「銀河鉄道の夜」が始まりそうな、賢治の原風景。習作だけに、後の夢の萌芽が一杯詰まっている。
習作だが、賢治らしい感受性が随所に見て取れる。「近代短歌、最後の秘境」と帯にある。

八月の列車で賢治を去るときに車窓に見えた花火現つか(私の作)
コメント (4)
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