内面短歌・アダージェット

年二つ作文をして前よりもゴールに早く上がる双六
一旦は紛失をした大切な「選挙戦だよスヌーピー」出づ

SDでリボル・ペシェクのマーラーの一から九を連続で聴く
横尾作　瀧の絵画を見るたびにその霊性に触れた気がする

棒術を始めたという友だちは恙なきかな笑顔眩しく
連日の仕事ずくめで軽量し外食すればやや揺れ戻し

後半生年々下がる友の数　一期一会と遠い目でみる
ＩＴがサブスクリプション商法の真綿で首を絞める目算

仕事先縁が切れても別の手でライフワークを仕上げ続ける
懐かしきアダージェットの走馬灯　聞いているはずあの空をみて
時計台ホールで津軽三味線に合わせて動く白蝶の舞い

内面短歌・青葉木兎

明日午前置き配便で着々と内緒で買った青葉木兎来る
顔面に未だに残る傷跡の色薄くする軟膏を塗る
美術部の生徒が描いた厠壁夢の記念が取り壊されて

棒乗せたトラックを見て子どもの眼魚の骨がまた来たと言う
Wi-Fiで得できないか苦労して調べてみても消費者の負け

豆乳と大豆サラダで減量し若返っても気づく人なし
灰色の影が近づく後半生デニムコートで取り戻す青
八冊は見切り発車で書き終えて残る樹齢で集大成を

減量中一つ自分に許すのは杏仁豆腐の最後の甘み
冗談で買ったつもりの特撮の人形たちに埋もれつつある
年月を経た老木も長過ぎた冬が終われば出づる若葉も

内面短歌・金木犀

青葉木兎棚で挨拶薄ら寒街角はもう冬隣りかな
地虫鳴く夜半に思うあれやこれ命運なのか今の居場所は
スパゲティ唐揚げ入りの秋弁当買いてスマホのつぶやきを見る

切願のお礼参りの秋薬師諸事祈願して鐘の音深く
町の寺本堂横で運動会秋の命が躍り飛び跳ね
芳しき秋を運びて金木犀忘れられないルーブルのシャツ

花の径原色の夢百日草西日背にして逆光の笑み
手渡したフィルムに誰か踊る秋戦前の冴え映る前衛
秋巡る季節に何処で食事会次々に皿平らげる顔

中庭の素足の動き目の前にそよぐ白蝶草の揺らめき
前面にたまには出でて大人舞秋の例祭駆ける一幕
芸術の秋に向かいて列車窓時計を見つつ揺れに誘われ

内面短歌・回顧展

共に行く秋の道草雲高し宙舞う紙片行く宛てもなく
合唱歌燃やし始める秋の町悲しみさえも何も残らず
指一つ触れることなし今の秋命あるうち血潮高鳴る

曇天に秋雨の降る薄ら寒胸に飾らむ銀のブローチ
本の秋世人の群れの丈高し一行の詩を書いて終わらむ
ボンジュルネ秋の珈琲暖かしパリのパン屋の渡すつり銭

かしこまるマスター淹れる秋焙煎懐中時計取りに帰らむ
秋の棚今は眠れる道化像ピントのボケた父の映写機
中庭の白装束で秋を踏む一つひとつの所作のひらめき

秋の胸英雄駆ける秘仙境画家の絵筆が探る原郷
シベリウス秋の山荘止まる筆交響詩ならまだ行けるはず
秋の午後帽子屋さんのお茶の会意味の分からぬ森を脱け出て

内面短歌・脳の密林

留守番は肉とお稲荷秋の宵どんな秘密を夢に見ようか
幼年の悲しき玩具秋寒し小さな巨人ミクロマンかな
脳細胞密林化して秋の筆哲学的な茂みに入る

狐面被りて消える秋祭り神隠しなら天狗の仕業
寝惚け出て朝目が覚める台所菓子のお陰で甘い夢見る
後半生日々を彩る虫の声先の行方を明日は知らない

割りてみて薩摩芋ぱん黄金色半解剖のモナリザの秋
衣料品ネットスーパー明日届く店では買えぬ洋服の奥
お目ん玉団子を配る秋薬師近くの歯科が手招きをする

前日の予報で中止秋登山いつものように食べてまた寝る
それぞれに刻を重ねて機が熟すそろそろ山が動き出す頃
また会えば稲妻走る秋深し話せばわかる日々の脈動