自伝のための破片 11 死者の思い出 Ⅲ
『零 ー サークル零 創刊号 ー』に書いた「詩のようなもの」のうち2つ目。ちなみに「Ⅰ」「Ⅱ」は書いてないと思う。
あのころ瀬戸内海で油の流出事故とかがあったろうか。それともボクの妄想詩なのか。
「死者の思い出 Ⅲ
藤井智則
けたたましい声でネコが鳴いたとおまえは言った
海鳥たちは行ってしまった 海の底へ
瀬戸内は冷い波が澱む
ドックはヒューヒューと歌う 機械的に
ナウマン象の牙のような細長い物体
暗黒の水底を群は消えゆく 彼方へ
瀬戸内を北西風が渡ってゆく
コンビナートは煙を吐き出す 暗雲に
けたたましい叫びで ネコが鳴いた
いや あれはサイレンなのだ 船を岩礁へ引き寄せる
白い巨大な空間の歪みから吹き出した油
油を取り巻くテレビカメラと怒りのおまえのその眼
一度死んだ死者がもう一度死ぬはずもない
またおれはネコの声を聞いた
ふりむくと茶色のネコが毛を震わせながら消えていった」