alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

焦氏頭皮鍼の症例

2012-03-28 | 頭皮鍼
 山元式新頭鍼(YNSA)を調べているうちに、焦氏頭皮鍼についても面白い研究が見つかったのでノートしておく。

 焦氏頭皮鍼は、1970年に山西省稷山県人民病院の神経科の医師だった焦順発氏が、大脳皮質の機能局在に基づいて開発した治療法。日本語訳としては、杉充胤編訳『頭針と耳針』(自然社、販売:緑書房、1975年)がある。焦氏頭皮鍼は、中国鍼の26号(0.45mm=日本鍼の15番前後)~28号(0.38mm=日本鍼の12番)ぐらいの太い中国鍼で、1分間200回転の捻転手技を1~2分間行い、5~10分後に再び捻鍼を行う。毎日1回で10回1クールとかなりの強刺激を特徴とする。

 見つけた論文は、帝京大学医学部附属病院麻酔科の発表した「頸髄損傷による中枢性疼痛に対して頭皮鍼が奏効した一症例」『慢性疼痛』VOL.29、NO.1、2010 著者:黒木佳奈子、西山比呂史、南部隆、福田悟、森田茂穂、高橋秀則。


頸髄損傷による上肢痛に対して頭皮鍼が行われた。患者は39歳、男性で転倒にて受傷し、救急搬送された時点で呼吸不全上下肢の完全麻痺を認めた。全身状態安定後、両上肢の激烈な疼痛を訴え、麻薬、ステロイドなどの投与で除痛は全く見られなかった。高度な肝機能障害を認めていたため、これ以上の薬物治療は困難と判断し、頭皮鍼治療を行うこととなった。

 治療は、直径0.3mm(8番)、長さ3cm(1寸)の鍼を両上肢の『運動野』及び『感覚野』に相当する部位の頭皮下に挿入し、150Hz20分間電気刺激を行った。受傷3週間後から頭皮鍼治療が開始され、1回目の治療から除痛効果が現れ、5週間に計11回施行したところ、疼痛は治療開始前の30%程度となり、同時に上肢筋力の回復も認めた。他の治療は全く行われず、鍼治療による副作用はなかった。頭皮鍼治療は脊髄損傷による神経障害性疼痛に積極的に用いて良い治療と思われた」
頸髄損傷による中枢性疼痛に対して頭皮鍼が奏効した一症例
『慢性疼痛』VOL.29、NO.1、2010、145-149ページより引用。 

 この論文を精読すると、治療前の感覚障害TH4(第4胸髄神経レベル)以下であったのが、頭皮鍼治療後はTH8(第8胸髄神経)以下に改善している!
 徒手筋力検査(MMT)も治療前に三角筋が0/5→治療後に4/5!!に改善、上腕三頭筋0/5→治療後に3/5に改善、上腕二頭筋が1/5→治療後3/5に改善、と劇的に改善している。

 脊髄損傷による上肢下肢の完全麻痺および麻薬もステロイドも効かない上肢の中枢性疼痛(神経障害性疼痛)、両側のC4~C7領域のアロディニア(allodynia)が頭皮鍼治療のみで改善されたという症例であり、プラセボは考え難い。これだけ難治の症例が、頭皮鍼のみで改善したというのは衝撃的だ。

 この論文の症例を読むと、「頭皮鍼」という分野がかなり可能性を持っていることがわかる。わたしたち鍼灸師はまだ、頭皮鍼の可能性を完全に理解していないのではないか。

※焦氏頭皮鍼の「運動区」は、まず、印堂と外後頭隆起を結んだ正中線「眉間正中線」とその中点をとる。次に印堂と外後頭隆起を側頭部経由で結んだ線「眉間側頭線」をとる。「眉間正中線」の中点の後0.5cmに「上点」を取り、耳介前部の髪際の前縁と「眉間側頭線」が交わるところに「下点」を取る。「上点」と「下点」を結んで5等分したのが「運動区」であり、上1/5が「足・体幹部」、次の中2/5が「上肢」、下2/5が「顔面」に対応している。
 「感覚区」は「眉間正中線」の中点から1.5cm後ろで、「運動区」と平行線を引く。