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Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

2012年3月23日金曜日メモ「腹診」について

2012-03-23 | 頭皮鍼
YNSA(山元式新頭鍼:Yamamoto New Scalp Acupuncture)の山元敏勝先生の論文を精査している。

1980年11月
山元敏勝著「腹診
『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO11: 352-353, 1980

これは凄く面白かった。

「日頃、我々は腰痛ならびに肩こりに対して、その局所またはその部の経絡に関係ある穴の刺激や耳+頭鍼などが痛み緩和の治療に用いられています。肩、肩背部が東洋医学的に陽経にある関係上、どうしても主に陽経の刺鍼がおもきを置いています。しかし、よく考えて見るに、陰陽の関係上、陽経の治療点が陰経にあっても少しもおかしくない訳であります。実際的に、それらの痛みに対して陰経すなわち、腹部を用いられていることは皆様よくご承知のことであります。わたしも腹針にて良き想像以上の治療効果を得ることが出来ましたので、それをよく観察しているうちに、各身体部位と深い関係があることに気づいたのです。

頸部、後頭部」:胸骨体下端の下、約2~3cmの両側1cm
肩部」:胸骨体下端の下、約6cmの両側1cm
胸部」:胸骨体下端の下、約7~8cmの両側1cm

腰部」:臍下部約6cmの両側1cm
下肢部」:臍下部約7~8cmの両側1cm

東洋医学的には腎経
1.6寸10番鍼で1寸を直刺すると、ひびきを得ることができる

症例1:53歳男性
診察:1週間前より右肩甲間部の痛み、僧帽筋ならびに三角筋の痛み。
治療:「肩部」胸骨体下端の下、約6cmの右側1cmに置鍼。
3分後に痛みを感じなくなった。1回の治療で再発しなかった。

症例2:30歳男性
診察:一ヶ月前より腰痛。X線で異常なし。両側の膀胱経の痛み。
治療:「腰部」臍下部6cmの両側1cmに置鍼。3分後に軽快したが、
更に頭皮鍼で「D点」に置鍼し、痛みが軽快。4回の治療で再発は無い。

【結語】腹部にある陰経とくに腎経を用いて急性期の疼痛の緩和に利用しているうちに腹部にも頭部・耳部のごとく、各身体と深い関係のある事に気づき、その症例を述べましたが、未完成なものでありますので諸先生方のご批判と追試をお願い致したい。」
山元敏勝著「腹診」『日本良導絡自律神経学会雑誌』VOL25.NO11: 352より引用。

 まず、臍下の陰交や気海や関元といった下腹部のツボを腰痛に用いることは伝統医学でもよく行われている。私もかなり昔、ギックリ腰になった際に、良導絡の森川和宥先生に、合谷と腎経の肓兪を刺されての運動鍼でギックリ腰が治った経験がある。

 日本では深谷伊三郎先生が、中国でも老中医、周眉声(しゅうびせい)氏が陰交・気海を腰痛に用いている。
(谷田伸治「このツボが効くー先人に学ぶ75穴」アルテミシア、109ページ)

日本の沢田流でも日産玉川病院の症例報告で、気海や関元を腰痛に用いている。
(「気海の多壮灸で消失した腰痛の例」『鍼灸臨床生情報(2)』160ページ)

 中医学では、臍下の気海から関元あたりは、補腎・補気の効能なのだが、ホログラフィー理論から、人体の腰部が反映されていると考えるほうが合理的に感じる。また、背中の足太陽膀胱経と腹部の腎経がつながっているという考え方は、経絡治療の先生からも聞いた記憶がある。澤田健の『鍼灸真髄』でも同じような考え方をしていたような気がする(うろ覚え・・・)。

 腹診のチャートも、募穴診から湯液の『腹証奇覧』の腹診(心下痞硬や胸脇苦満など)、『難経』の腹診、『夢分流』の腹診など分類しきれないほどある。
 ともあれ、腹部の腎経のツボ(横骨・大赫・気穴・四満・中注・肓兪・商曲・石関)で追試していくしかない。
 わたしが『経絡経穴概論』を講義する際に作成した資料には、任脈の経穴を腰痛に用いた症例は多いが、臍下の腎経の経穴を用いた症例はない。

 ただ、1680年に書かれた『鍼灸大成』を調べると、臍下の腎経のツボの共通点は、衝脈病の「奔豚気(ほんとんき)」だ。『鍼灸大成』の「腎経の気穴」では、「奔豚気で気が上下して腰や背骨が痛む(奔豚、気上下、引腰脊痛)」とあるし、「腎経の中注」では、同じく「気が上下して、腰や背骨が痛む(気上下引、腰脊痛)」と書かれている。
 明代の中国で、臍下の腎経気滞や気逆の腰痛に用いられていたのは文献上の証拠から確かと言える。

 腰痛のほうが追試しやすそうだが、この腹診理論が妥当かどうかをテストするには、頸部や上肢部、胸部の症状で追試したほうが理論的には早いはず。ただ、腰痛に腹部の刺鍼が効果的なのは実感しているので、それを精密化して臨床で使えるレベルにするには、腰部から試していくのも1つの方法だろう。問題点として、遠隔取穴は刺鍼する際の姿勢の問題があるので、そこをどうクリアにするべきかを考えないといけない。耳鍼の腰腿区や手鍼の腰腿点は立位から痛い動きをしてもらうと効果がすぐに判定できるが、腹部の腎経に刺鍼しながらテストするのは難しい。