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Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

オピオイド・クライシスと多極化世界

2018-05-17 | world
2017年 04月 3日『ロイター通信』
 
以下、引用。
「1世紀以上ものあいだ、戦争か疫病、あるいは自然災害でもなければこのような状況は発生しなかった。だが、ソ連が崩壊したときにそれは起きた。そして今、米国も同じ状況を迎えている。
 
米国の国民、特に白人で低学歴層の平均寿命が以前よりも短くなっているのだ。主な原因はドラッグ、アルコール、そして自殺だ。」
 
「ブルッキングス研究所のためにまとめられた両教授による最新の研究からは、25─29歳の白人米国民の死亡率は、2000年以降、年間約2%のペースで上昇していることが分かる。
 
他の先進国では、この年代の死亡率は、ほぼ同じペースで、逆に低下している。50─54歳のグループではこの傾向がさらに顕著で、米国における『絶望による死』が年間5%のペースで増加しているのに対して、ドイツとフランスではいずれも減少している。」
 
「米国民のあいだでは、「健康状態が良くない」と回答する人が、以前に比べて、またより大きな成功を収めた米国民に比べて、はるかに多くなっている。
 
何か重大な問題が進行している──。単に経済云々ではなかろう。というのも、米国経済は成長しているし、失業や脱工業化は他の先進国にも共通する問題だが、そこでは『絶望による死』は増加していないからだ。米国の独自志向にこうした憂鬱なバリエーションが表われるには、何か別の理由があるに違いない。」
 
「第1に、米国の福祉制度は不十分だ。オピオイド系鎮痛剤中毒の拡大は、どのような制度においても重大な問題になるだろうが、米国の各州による対策は、恐らくどの先進国に比べても整合性がなく、資金も不足している。
 
米国の福祉制度の貧弱さを擁護する人々は、民間・宗教団体による慈善活動の強力さを指摘することが多い。しかしこの薬物中毒の事例においては、そうした取り組みもやはり力不足である。
 
第2に、医療制度も混乱している。規制当局も医療関係者たちも、オピオイド系鎮痛剤の処方に関する監視を怠ってきた。鎮痛剤「オキシコンチン」を製造している米医療用麻薬最大手のパーデューファーマなどの企業によるロビー活動を責めることは簡単だ。同社は2007年、虚偽表示の容疑を認め、6億ドルの罰金を納めている。」
 
「だが、比較的小規模な企業によるロビー活動にさえ当局が抵抗しにくいというのでは、まるで開発途上国における状況のようである。オピオイド中毒は、もっと大きなパターンの部にすぎない。米国民は、処方薬である鎮静剤や精神安定剤の利用について、異常なほど無頓着だ。」
以上、引用終わり。
 ソ連崩壊後、ロシア人男性の平均寿命は劇的に低下し、平均寿命59歳となりました。この原因は、ソ連崩壊後の社会的混乱説と、チェルノブイリ原発事故による健康被害説があります。
 
 現在のアメリカも、白人男性の平均寿命が劇的に低下しています。大きな原因は、オピオイド鎮痛剤「オキシコンチン」による『オピオイド・クライシス』です。
 この記事では、アメリカにおける社会規範の崩解を、平均寿命の低下の原因として挙げています。
 イギリスの歴史家、アーノルド・トインビーは、『歴史の研究(A Study of History)』において、地球上に出現した21の文明を比較し、「内部規範の崩解」こそが、文明を衰退させると論じました。
 
 アメリカ文明の中心であった、中年の白人男性ブルーカラーやホワイトカラー層の平均寿命は、薬物中毒や自殺によって、劇的に低下しています。
 それはアメリカの価値観の崩解と関係している可能性があります。
 
 ソ連崩壊後のロシアは、エリティン時代のグダグダを、ロシア社会で唯機能していた(笑)KGBという組織の代表プーチンが掃して、強国に生まれ変わりました(←秘密警察KGBが支配する国というのは普通にアタマがおかしいです・・・)。
 ただ、アメリカは「移民の国」というアイディンティティーを捨て、アメリカをアメリカたらしめていたもの「自由」や「移民の国」、「アメリカンドリーム」という概念は全て、捨て去りました。
しかし、現在でもアメリカは多様性の国であり、この4年間をのりきって、「白人男性の国」から、「多様性の国」へとアイデンティティーを転換できるなら、ソ連崩壊後のロシアのように、再生の可能性はありますし、スペイン語系住民の数が急増しているアメリカでは、このアイデンティティーのチェンジは起こる可能性が高いです。
 
 問題は日本だと思います。戦後の日本が目指したのは、良くも悪くも、「アメリカの民主主義」です。日本が言う「普通の国」というのはアメリカのことでした。陪審員制度、二大政党制、ロー・スクールなど日本の「改革」はいずれも「アメリカ化」でした。
そして、1990年代以降の「アメリカへのあこがれ」は、新自由主義的なものでした。
 小泉政権(=竹中平蔵大臣)以前の自民党政権は、平和憲法をズル賢く利用し、アメリカと同盟を組みながら、対中国とも「日中親善」をおこなってきましたが、小泉政権以降はアメリカ辺倒のアメリカ追従路線となりました。
 
 いま、鍼灸の世界でも、中国経済の強大化に対する反発で、日本鍼灸ナショナリズムが高まっていますが、そもそも「日本鍼灸とは?」というアイデンティティー問題が生じています。
 帰るべき「日本鍼灸」を1930年代にできた「経絡治療」に求めるのは論外の動きです・・・。中国に対するアンチとしての「ナショナリズム」は滑稽で、たとえば今の「神道」なんて、明治時代以降にできたフィクションであり、そんな浅はかな動きは将来、破綻するに決まっています。このような時期には、幼い頃に戻ろうとする「退行」が起こりがちで、おそらく、歴史のなかから古臭い理論モデルをもってきて、新しく塗装しなおして商品化する動きが加速すると予測できます。
 
 現在のアメリカの「オピオイド・クライシス」は、新自由主義のもと、企業のチカラが強くなり、製薬会社が情報を操作して、アメリカの中核である白人ホワイトカラーたちを洗脳した結果、起こりました。
 日本でも同じような情報操作が起こっています。アメリカ文明が内部崩壊しつつある以上、アメリカの旧文明である「白人ホワイトカラーの価値観」である「新自由主義・ネオコン(ネオ・コンサーバティヴィズム新保守主義)」の価値観は致命的なほど、時代遅れです。
 
 おそらく、トランプ政権下のアメリカは、さらに劇的に国力を低下させるでしょう。
 1945-1991年の米ソ冷戦は「化世界支配システム(Bipolar system)」でした。
 1991-2001年の冷戦終結以後は、アメリカの「支配システム(Unipolar system)」です。
 2002年の9.11世界貿易センター事件で世界は変わります。アメリカは2001年アフガニスタン戦争、2003年イラク戦争を起こし、2008年のリーマンショックと世界同時不況となりました。
 2009年にはBRICのブラジル・ロシア・インド・中国がBRIC会議を開き、2014年には南アフリカ共和国を入れたBRICs銀行が発足しています。
 2016年には中国主導で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が発足しました。
 つまり、2008年のリーマンショック以降の世界は、すでに「多極化システム(Multipolar system)」に移行しはじめているわけです。
 2009年から2017年1月までのオバマ政権時代の8年間は、「多極化システム(Multipolar system)」へのアメリカの適応時期でした。ドローンとサイバー戦争と特殊部隊ネイビー・シールズを多用する「未来の戦争」が、スマートなオバマ大統領の戦争スタイルでした。オバマ大統領スタイルは多極化世界では正しい選択だと思います。
 
 世界の歴史は、冷戦後のアメリカ支配の世界から、「多極化世界(Multipolar system)」に向かいます。このパワー・シフトのなかで、アメリカVS中国、アメリカVSロシアという対立が必然的に何度も起こる予定です。日本は、アメリカ基地があるアメリカの同盟国であり、ロシアや中国が隣国という地理条件から、「戦域(war area)」となる可能性が飛躍的に高まるわけです。
 当然、将来の日本では、ナショナリズムが高まり、幻想としての「日本」、フィクションとしての「日本」にアイデンティティーを求める動きはさらに強くなるはずです。しかし、それは幻想であり、幻想と判明した途端に、凄まじい絶望をともないます。敗戦後の日本の文学は、戦前のナショナリズムから戦後のナショナリズム全否定という価値転換による絶望や人間不信に満ちていますが、同じことが起こるわけです。
 
  世界が「多極化世界」に向かう以上、世界の文化や情報も多極化します。文化的にも多くの(pole)が同時に並立します。このような多極化した世界を、元的価値観で乗り切るのは難しいです。

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