1本のわらしべ

骨肉腫と闘う子供とその家族とともに

厚い壁

2009-11-07 18:16:27 | Weblog
昨日、娘が入院していた病院へ行ってきた。

いままで行きたくても行けなかった場所...
悲しい記憶しかない場所...

いままで何度か病院の入口まで行ったけれど、そこから足を踏み入れることはなかった。そこには厚い壁があった。
どうして、そんな思いをしてまで行く必要があるのか。

娘が亡くなった後、入院中お世話になった方が訪ねて来てくれた。
「お掃除のおばさんが、病室を掃除していると、鈴の音が聞こえた。そこに、あかねちゃんの気配を感じたらしいよ」と。
私は、死後の世界も神の存在も信じてはいない。でも、その話は私の心に引っ掛かっていた。
「身体は連れて帰ったけど、魂を置き忘れてきたのでは」その思いは3年経っても消えなかった。ちょうど、幻の島にあの子を探したように。
そう思って病院に向かうのだけど、結局途中で引き返してしまう。

しかし、昨日は違った。
娘と同じ病を持つ知人に会うために出かけた。
前日まで、私の中では、彼女を見舞うこととその病院に行くこととは全く結びついていなかった。当日になって、その病院に行くことを実感し、焦った。
ちゃんと病棟までたどり着けるだろうか?彼女に不快な思いをさせないだろうか?ドキドキしながら階段を昇った。
詰所に当時お世話になった看護婦さんが二人みえて、思わず涙があふれてしまったその時、彼女が病室から迎えに来てくれた。
彼女とは初対面だったが、そんな気がしない。
明るい笑顔で迎えてくれた。その笑顔を見て、私の不安は消えた。

妊婦だった看護婦さんは、2歳児の母になっていた。
そこには時の流れがあり、娘の影はなかった。

厚い壁は、もう消えた。