阿部ブログ

日々思うこと

先進製造 (Advanced Manufacturing)

2013年04月17日 | アメリカ
先進製造について、徒然なるままに。

第2期オバマ政権は、グリーンニューディール政策の失敗から、直截的に雇用を増やせる先進製造技術の研究開発を重視している。米連邦政府における「先進製造」とは、「情報、オートメーション、コンピュータ、ソフトウェア、センシング・、ネットワーキング等の利用と調整に基づき、物理学、ナノテクノロジー、化学、生物学による成果と最先端材料を活用する一連の活動」としている。
米連邦政府における先進製造は、既存製品の新しい製造方法と新技術による新製品の製造の両方を含むもので、 2012年度予算では、先進製造技術のためのR&Dとして以下を推進した。先進製造に係る連邦政府機関の予算と取組概要は、以下の通り。

○NSF:ナノテクノロジーを基礎とした製造技術開発、ロボット工学における基礎・応用研究に対し8700万ドルを充当。
○DARPA:製造方法を根本的に変えるイノベーションを指向し、設計から製造までの所要時間の短縮を目指した先進製造技術分野に5年間で10億ドルを充当。
○NIST:ナノテクノロジー製造技術等において測定デバイスの開発や関連技術開発の為に7.6億ドルを充当。
○DOE:フレキシブル・エレクトロニクス等、エネルギー関連の先進製造技術向け研究開発に5億ドルを充当。

2013年度連邦政府予算案においても、先進製造分野、即ち革新的な製造工程、高度な工業材料、ロボット工学に焦点を当てた先進製造研究開発に22億ドルを投資する予定で、来年2014年度の連邦政府予算の優先事項として、産官学連携に重点を置き、ロボット工学、材料開発、積層造形技術等を優先するよう各省庁に指針を提示している。

■先進製造に関する米国政府レポート
(1)「先進製造における米国の指導性の確保」(大統領科学技術諮問会議:PCAST:President's Council of Advisors on Science and Technology、2011年6月24日)
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/pcast-advanced-manufacturing-june2011.pdf 
先進製造分野における米国の地位を回復するためには、産業政策ではなく産官学連携による首尾一貫したイノベーション政策が必要であり、産学官共同でトランスフォーマティブな新技術の開発の加速に取り組む「先進製造イニシアティブ」の立ち上げ等を提言している。

○先進製造の促進のための原則
 ・市場の失敗を克服するために投資する
 ・米国で新技術が開発され技術を基盤とした企業が米国で繁栄するために投資
 ・有望な新技術領域において応用研究プログラムを支援する
 ・広範に適用可能で変容可能性がある技術開発の為の官民連携に投資
 ・企業による生産時間短縮・障壁低減に向けた設計手法の開発・浸透
 ・米国企業の生産を助ける共用の技術基盤への投資

○イノベーションに向けた豊かな環境を創造する
 ・企業がR&Dと製造活動を米国内で行うことを税制と企業政策により促進
 ・堅固な基礎研究活動を支援
 ・高技能人材の育成と誘因付与政策により技能労働者の供給を確保

■提言内容:
○提言1:先進製造イニシアチブの開始
 連邦政府は、米国の未来のための先進製造イニシアチブ(Advanced Manufacturing Initiative for America's Future- AMI)を開始すべきである。AMIは、協調的で、全政府的な努力で、商務省、国防省、エネルギー省が主導的な役割を果たし、大統領府(EOP)において、科学技術政策室、国家経済会議、あるいは製造政策担当大統領補佐官室が調整を行うこととする。商務省長官、国防省長官、エネルギー省長官は、商務省にあっては国立標準技術局(NIST)、国防省にあってはDARPA、エネルギー省においてはARPA-Eあるいはエネルギー効率性・再生可能エネルギー室(Office of Energy Efficiency and Renewable Energy- EERE)といった、各省において適切な機関に主導する責務を付与すべきである。この全政府的な努力が、産業界および学界(大学)において並行的に行われるイニシアチブにより補完されることが重要である。

AMIは、これらの部門が参加するメカニズムを開発し、技術的機会を明らかにすることにその専門性を引き出すべきである。先進製造の専門性へのアクセスを持つ外部諮問委員会が、この業務を支援すべきである。
 AMIの調整主体は、米国における先進製造を推進するために最も重要な連邦政府の投資のためのニーズについて、以下を含む隔年報告書を作成すべきである。

(1)新技術および設計手法に関する応用研究のための大学への調整された連邦政府の支援
(2)主な横断的課題に取り組む競争段階前のコンソーシアムを通したそのような技術を前進させる公的部門と民間部門の連携(public- private partnerships- PPPs)
(3) 企業が製品を製造する時間を大きく短縮させたり障壁を大きく低下させたりする設計手法の開発と流通、(iv) 中小企業がその製品を地球規模的に競争するために改善することを支援する共用の施設と基盤。報告書はまた、これらの活動で焦点を絞る価値のある最も重要な技術的課題を明らかにすべきである。

AMIはまた、これらの技術分野におけるパイロットプラントと初期段階活動のための資金の利用可能性を報告し、他国における対応する資金機会の分析と税収中立的な資金提供の機会を含めるべきである。
 AMIにより提案されたプログラムの実施にかかる資金は、商務省、国防省、エネルギー省において最も期待される機会を支援するために歳出予算配分されるべきである。資金の水準は、当初は年間5億ドルを三つの機関に適切に配分されることとし、4年をかけて10億ドルに増加させるべきである。このうちのいくつかの資金は適宜既存のプログラムから流用されるべきである。

○提言2:税制政策の改善
 連邦政府は以下のことを実施すべき。
・法人所得税を、オバマ大統領が2011年の一般教書演説において発言したとおり、他のOECD諸国と同様の限界税率とする改革を行う。これは、製造業の工場を米国に設置する強い誘因を創造し、利益の送還に対する阻害的誘因を除外し、それらに代わり、企業が米国民を雇用することに用いられるようになる。
・研究開発税制控除を、大統領による米国のイノベーションのための戦略(President's Strategy for American Innovation)および2012年度予算教書において示したとおり恒久化し、控除税率を17パーセントに高める。控除は継続すると知られていることにより、企業が研究開発投資の計画対象期間を長期化させることを促進させる。税制に関する規則は、製造プロセスが税制控除に相応しい価値であるか明白にするための検討が行われなければならない。

○提言3:研究、教育、トレーニングの支援
 イノベーションと国家安全保障を支える研究活動の健全性を確かなものとし、米国が先進製造を引き寄せ維持させるために必要な高技能の労働力を有することを確かなものとするため、連邦政府は以下のことをすべきである。
・大統領による今後10年間において国立科学財団、エネルギー省科学室、国立標準技術局という三つの主要な科学機関の研究予算を倍増する計画を実現させる。
・公的部門および民間部門の研究開発投資の対GDP比3パーセントを実現させるために、連邦政府の政策およびリーダーシップを用いる。
・大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の最近の報告に記載された内容に基づき、科学技術工学数学(STEM)教育を強化する。
・米国企業により雇用される可能性のある高技能の外国人労働者の数を増加させる。これは、米国大学から科学技術工学数学の大学院学位を取得する外国人学生にグリーンカード取得を認め、また、個々の雇用に基づく査証を、自動的に労働者とその配偶者や子供を対象に含めるようにし、さらに、H1B査証の数を増加させることにより達成される。

■「国家先進製造戦略計画」
(National Strategic Plan for Advanced Manufacturing )
国家先進製造戦略計画は、米国競争力法再授権法の規定により、2012年2月に国家科学技術会議(NSTC)下の技術委員会が作成している。
当該文書によれば、先進製造研究開発を支援する連邦政府の活動を調整し、指針を与える戦略プラン。研究開発活動と、国内生産における技術イノベーションの実装との間のギャップを埋めるための「先進製造のためのイノベーション政策」を提言している。

○提言の概要:
・政府は、市場の失敗に対応する必要。かつての半導体産業のように、政府による研究・技術・教育・トレーニングへの投資を通じて新産業を創出すること。
・米国の伝統的なイノベーション政策は基礎研究への投資だったが、基礎研究の成果が米国を基盤とする製造業者に十分に活用されていないので改善要。

○国家戦略の原則:
・研究・開発・実装への結合力ある(cohesive)アプローチが必要
・製造業の大部分を占める中小企業による投資を促進することが重要
・産業クラスター内の多くの企業が恩恵を被るようなプラットフォーム技術への投資(ナノ材料プロセス、積層造形技術、先進ロボット工学、スマート製造、グリーン・ケミストリー)
・国・州・地域レベルにおける産労学官の集中的な取り組みを統合

■主な先進製造分野のプロジェクト
○先進材料分野:
•DARPA:セラミック製軽量装甲
•ManTech:安価かつ先進的なチタン粉末加工
•ARPA-E:輸送のための電気エネルギー保存バッテリー

○製品技術プラットフォーム:
•DARPA:集積回路のインテグリティ/信頼性を高める試み
•ManTech:電子機器の先進的な製造/梱包
•NIST, NSF:ナノ・マニュファクチャリング

○先進製造プロセス:
•DARPA:オープン・マニュファクチャリング(製造プロセスの効率化)
•ManTech:宇宙空間構築物の高速製造
•NIST:次世代ロボティクス及びオートメーション
データ/デザイン基盤
•ManTech:先進的なサプライチェーンのモデリング
•EPA:グリーン・エンジニアリング、環境のためのデザイン

※ManTech : DOD Manufacturing Technology Program

■第2次オバマ政権の一般教書演説(State of the Union Address)と先進製造分野

第2次オバマ政権としての一般教書演説が、2013年は2月12日(火)午後9時過ぎ(日本時間13日(水)午前11時)から約1時間、大統領が演説を行った。この演説では、中間層の雇用創出を通じた景気回復、富裕層増税、移民法改正、銃規制強化などを2期目の目標として掲げたており、経済・財政問題が全体の半分を占めている。その関係から製造業回帰を鮮明としており、先進製造分野においても言及があった。

○研究開発投資として、オハイオ州に2012年、初めての「製造イノベーション研究所」を設立しており、労働者が3Dプリンティング技術を習得している。

○また同様の製造ハブをさらに3つ立ち上げ、産業界とエネルギー省・国防総省との協力拠点とする方針で、全米に15の製造業関連機関をまとめたネットワークを構築することを議会に要請する予定。

※NHKのクローズアップ現代によれば、高等学校レベルの学校で3Dプリンティングの授業が行われていると報道されている。

江戸切子若手15人展

2013年04月17日 | 日記
日本オラクルでの13時30分からの打ち合わせの前に、伊藤忠商事の社会貢献活動の一環としてアートを通じた国内外の芸術や文化の振興を目的に設立された「伊藤忠青山アートスクエア」を訪れた。場所は、伊藤忠商事本社ビル隣の商業施設シーアイプラザB1F。

アートスクエアでは、3月16日(土)から「江戸切子若手15人展~日本の伝統工芸を継承する職人たち~」を開催している。東京の伝統工芸品である江戸切子の作品を初めて鑑賞したが、その美しさと繊細さ、それと「これどうやって作るの?」と言う驚きで胸一杯だった。いや感動した。

この展覧会に出展しているのは江東区を中心とした若手職人15人。
堀口徹、石塚春樹、大場和十志、小林昂平、佐藤光浩、澤口智樹、篠崎英明、高野秀、但野英芳、鍋谷聰、鍋谷淳一、根本達也、細小路圭、三田村義広、山田のゆり

特に気に入った作品は、但野英芳氏の「流金」。クリスタルガラスで320m、高さ50mで二匹の金魚が清水の中を泳いでいる様は、日本人の美意識に訴えかけるものがある。この切り子で夏、冷や奴でも食べて見たいものだ。この作品は、平成23年度開催の第24回江戸切子新作展の入賞作品で東京都知事賞を受賞している。

それと鍋谷聰氏の「Ocean~母なる海~」もダイナミックな作品で良い。江戸切子のイメージをある種逸脱した躍動感ある作品。この作品も第22回江戸切子新作展で経済産業省・関東経済産業局長賞を受賞している。

もっとも驚いた作品は、三代 秀石 堀口徹氏の「Sanagi」。ソーダガラス製でサナギと題されてはいるが、大地に巣くう巨大マグマを連想させる重厚感溢れる作品でとても力強い。

さて、江戸切子若手15人展は、残念ながら4月21日(日)で終了してしまうが、今週末は青山で江戸切子鑑賞とはおつなものではないか。

江戸切子のホームページで彼らの作品を見ることが出来る。

米国:2014年度国防予算

2013年04月17日 | トルコ
当ブログで『米国の2014年予算教書』を掲載したが、国防総省が2014年度(2013年10月~2014年9月)国防予算を公開している。総額は5,266億ドル。

しかし予算コントロール法によって、国防予算は、2013-17年度の5年間で総額2590億ドル、2012-2021年度の10年間では4870億ドル削減されるので、すんなりと予算が通過するとは思えない。既に2012年1月「米国の国際的な指導力の維持―21世紀の国防の優先順位―「Sustaining U.S. Global Leadership: Priorities for 21st Century Defense,January 2012」と題された 新国防戦略を立案しており、2020年までのグローバルな世界軍事環境を勘案した国防の青写真を描いている。

米国の国防戦略の基本は、アジア太平洋地域及び中東地域への戦力や投資を再配分し、現行の空母11隻の体制等は維持する。2030年までに海軍戦力の60%を太平洋域に配備する。NATOからは、陸軍の2旅団を削減し、現陸軍兵力も削減するが、予備兵力は強化する。また従来の二正面作戦からアジアを重視した一正面作戦に大きく戦力構成を変え新たなアプローチに転換する。

国防戦略の大幅な見直しと予算削減は、削減し易い軍支援部門の経費が削減され5年間で340億ドルとしている。因みにこの支援経費も含め、総額2,110 億ドルの経費節減を目指している。逆に対テロ戦やサイバー戦分野など、新しい脅威に対する技術開発に対しては投資を継続する。

戦術通信を担当していた事もあり、気になっているのは指揮・統制・通信、即ちC4ISR (Command, Control, Communications, Computers, Intelligence, Surveillance and Reconnaissance) 産業への影響が大きい事。2012年は755億3,000万ドルだったが、2017年には450億ドルに縮小すると予測されている。特にRDT&E (Research, Development, Testing, and Evaluation) の分野が大きく縮小する。