阿部ブログ

日々思うこと

イスラエル=レバノン沖の天然ガス資源

2013年04月07日 | イスラエル
イスラエルは、EEZ(Exclusive Economic Zone)防衛力の強化を計画している。何故ならば、安息日の2013年3月30日、イスラエル沖合で初めての天然ガス生産が開始されたからだ。

イスラエルは、ハイファの西方沖合約97km、水深1500メートルの地中海に位置するタマル(Tamar)ガス田の掘削プラットフォームと、その海底パイプラインを防衛警備する為に、OPV (Offshore Patrol Vessel)4 隻を調達する。予算規模は4億ドルで、調達先は韓国。韓国でOPVの船体、主機や電気系統を搭載し、実際の戦闘システムはイスラエル製。ヘリを搭載するOPVは、1200~1400t級で最高速度は24kt。

タマル・ガス田の推定埋蔵量は約2700億立方メートルで、海底パイプラインを経由してテルアビブの南、アシュダッドに陸揚げされるが、自国のEEZ内での天然ガス資源により、イスラエルのエネルギー安全保障は大きく改善される事となる。タマル・ガス田に隣接するリバイアサン鉱区の推定埋蔵量はタマル・ガス田を大きく上回るとも言われ、イスラエル沖合での天然ガス資源開発が今後本格化する。現在は、洋上LNGプラントの建設計画が検討されているので、ガス発電プラントやLNGプラントなど日本企業の出番もあるだろう。

現在のイスラエル国内における天然ガス需要は発電向けが5億立方メートル/日、工業向けが2.5億立方メートル/日。合計7.5億立方メートル/日だが、将来的には完全に自国内の天然ガスで賄えるだろう。タマル・ガス田は徐々に9.85億立方メートル/日まで生産量を引き上げる予定なので余剰分は輸出に回すことができる。計画では2015年に15億立方メートル/日の生産を達成する予定。
因みにイスラエルの電力発電の4割は石炭だが、今後天然ガス発電に置き換わっていく。一人当たり平均6.6kwhと言われるイスラエルの電力消費の大部分は天然ガス発電となるのは自然流れだ。

イスラエル初の天然ガス田のタマルの開発費用は32.5億ドル、ガス田発見から生産までは、何と2.5年と言うから驚きだ。しかしイスラエル沖での天然ガス田はタマルだけではない。イスラエル沖で石油・天然ガス探索しているのは米国のノーブル・エナジー社だが、前述のリバイアサン(Leviathan)、ドルフィン(Dolphin)、タニン(Tanin)、ダリト(Dalit)などが発見されており、イスラエル沖合の天然ガス推定埋蔵量は、総計35兆立方フィートと莫大だ。

中でもリバイアサンの推定埋蔵量は17兆立方フィートと言われており、現在、2016年の生産開始に向けてプラットフォームの建設が進んでおり、生産量は最大で16億立方メートル/日で、ガスは海底パイプラインでハイファへ陸揚げされる。リバイアサンのガスは、半分を国内向け、残りの半分は輸出に回される。しかし輸出するには液化する必要があるが、これはオーストラリアの石油・天然ガス会社ウッドサイド社が担当する事が決まっている。

このようにEEZ内に莫大な天然ガス資源とプラットフォーム、海底パイプラインなど重要施設の防衛を確実にする為には、OPVを新規に調達して万全なものとする事は、確かに重要な事であるが、イスラエル沖合のLevant堆積盆地にある天然ガス資源は、レバノン沖にも達していることが判明しており、今後両国で天然ガス資源など海底資源を巡って紛争になる可能性は高い。

既にレバノン議会の議長は、イスラエルがレバノンの天然資源を盗むのであれば、それを阻止すると発言し、レバノンの首相も、地中海のガス田の所有権の争いに関し、レバノンはイスラエルの脅しにおびえることはない、と発言している。問題なのはイスラエルとレバノンの領海線が確定していない点で、シリア内戦、キプロス情勢なども勘案すると、前述の通り東地中海での資源紛争が顕在化する事はありうるだろう。

レバノンは、国内総生産の175%に達する540億ドルの対外債務を抱えるが、もし天然ガスの輸出により外貨を稼ぐことが出来ると債務の解消を達成する事が可能となるだろう。米国の地質調査所によればイスラエルと同様規模のガス資源の埋蔵があるとされており、液化天然ガスプラントやパイプラインに巨額の投資が必要とはなるが、地政学的に不安定な地域ではあるが、投資する企業はあるだろう。

レバノン海軍のNazih Baroudi提督は、レバノン海軍が自国の排他的経済水域(EEZ)を警備し、将来建設されるであろう天然ガスプラットフォームや海底パイプラインを保護できるようにすると、米国海軍研究所の会報誌に書いている。これを裏付けるように米国は、沿岸警備艇をレバノン海軍に売却している。売却されたのは43.5メートルのTrablous。

いずれにせよイスラエルの天然ガス生産開始と周辺でのガス開発が進捗するとレバノンとの軋轢は避けられないだろう。

中国の労働力問題~ルイスの転換点~

2013年04月07日 | 中国
中国の労働力不足が問題視されているが、ついにルイスの転換点(Lweisian Turning Point)に達した。ルイスとは、ノーベル経済学賞を受賞したアーサー・ルイスの事で、「Economic Development with Unlimited Supplies of Labor」などの著書により開発経済学の確立に多大な功績を残しており、農村と都市における労働力の移動に着目した二重経済モデルによる人口流動モデルが有名。
ルイスの転換点とは、工業化の過程で農村の余剰労働力が、都市部の非農業部門に移動するに伴い、農村の余剰労働力が減少し、ついには労働力の供給が行えなくなる時期が訪れるというもの。中国では、2012年にこのルイスの転換点を迎えたと判断されている。

中国の東部沿岸地域における労働者不足は、2004年から指摘されているが、この労働者不足は、2012年ついに内陸中部地域にも波及した。ルイスの転換点に達した最大の原因は、中国政府の内陸部開発にある。沿海部と内陸部の格差是正を目的とした内陸地域での大規模投資・開発により、沿海部への労働力の供給源であった内陸農村人口が現地に留まる事となり、人口流動の流れが変化した。江蘇省蘇州宿遷工業園区管理委員会の顧玉坤主任は、成長著しい東部沿岸部にに労働力が集中していたが、現在は中国政府が行う内陸部での資本投下により、労働力の移動が大きく変化している事を認めている。

特に一人っ子世代の製造業離れが労働力不足に大きく影響している。実際に2000年~2010年の間に、若年層(16~24歳)の求職者の割合は57%から34%に減少している。中国の生産年齢人口は2013年がピークであり、これ以降減少に転ずるが、今後は製造業や建築業界の現場で働くのは中年ブルーカラーの労働力に依存する事となる。

中国国務院発展研究センターの李偉主任は、今年の全国政策咨詢会議の席上で、中国経済が転換期にあり、中長期的に見て潜在成長率は低下すると指摘し、中国経済を取り巻く内的・外的環境は依然複雑なもので、大きな不確実性があるとし、短期的には、需要が安定的な伸びを示しているが、経済回復の原動力が不足しており、経済運営の不確実性と脆弱性が非常に強いとしている。このような経済判断の中、労働力不足はボディーブローのように中国の経済発展の足かせとなる可能性が高い。

さて、このような環境変化の中、トップの交代を期に中国政府は国務院機構改革を実施している。
これまで国家人口・計画出産委員会が担当してきた人口政策研究・策定機能を、国家発展改革委員会に移し、出産管理や定年退職年齢の引き上げ、年金改革など通じて労働人口比率を高めようとしているが、多分失敗するだろう。