私のつれづれ草子

書き手はいささかネガティブです。
夢や希望、癒し、活力を求められる方の深入りはお薦めしません。

見えざるものが見えている

2009-07-26 | 3老いる
脳梗塞で倒れて久しい、要介護5認定を受けた御老人の話。

今日の午後様子を見に行くと、不自由な体を精いっぱい動かし、彼にとっては大変なエネルギーを使って真っすぐに天井を指差している。

施設の各人ベッドを囲う天蓋様のカーテンレールを指差して、必死の形相である。
恐怖と言えば恐怖とも言えそうであるが、身の危険が差し迫った感じでもない。
ただ、必死の形相でそれを指差し、その存在を訴えようとしている父である。

梗塞によるダメージが言語野にあるので、失語状態の彼は言葉でその存在の何であるかを伝える術がない。

何が見えているのだろう?

手を握り、額を触り、硬直した肢体をクッションを使ってゆるめてやり
「ここには悪い奴や怪しいものは来れないから大丈夫よ」とオールラウンドに安心を伝えてやるしかない。

神経がピリピリしている時の父は、その額に触れると指先から電気が通るようなビリビリとした痺れ感が伝わってくる。
若干、私がそうした感覚に敏感な所為なのか、それとも。

額から伝わるビリビリとした刺激が治まったころ、彼はようやく落ち着いた風情になる。

生死をさまよった病態が安定したとはいえ、小さな梗塞は続発し、認知症も徐々に進んでいるのかもしれない。

他の入居者の方々が、さほど気にされていない様子に救われる。

脳のなかの出来事には手も足もでない。
本人にとってあまり苦痛ではない、穏やかなストーリーが脳内で紡がれることを祈るばかりである。
コメント
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