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中・高校教育におけるクラブ活動の意義   地域&経済格差をどう克服するか?

2024-08-06 07:02:57 | 時評
▼【毎日】二極化する全中の存在意義=町田樹 
     (まちだ・たつき:国学院大准教授)早大大学院で博士号(スポーツ科学)を取得し、2024年4月から現職。14年フィギュアスケート世界選手権男子銀メダル。ソチ冬季オリンピックは5位。神奈川県出身、34歳。
・ 6月上旬、日本中学校体育連盟(中体連)が部活動設置率20%未満となっている競技の全国中学校体育大会(全中)を、2027年度以降に廃止することを決定した。
   そこで学生アスリートたちに向けて実施した調査は、もう一つ別の現実を表していた。というのも「日本代表やプロアスリートになろうと思えば、全中に出場するよりもクラブチームや学校の
  部活動以外の場で活動した方が圧倒的に近道になるため、エリートアスリート育成の観点で言うと全中は大して重要ではない」という対極の意見
もかなりの数が提出されたのだ。
  私が集計してみたところ、全中が「重要である」と答えた学生と、「重要でない」と答えた学生の割合は、ほぼ五分五分であった。

◎ かつてフランスの社会学者であるピエール・ブルデューは「文化資本」という概念を提唱した。文化資本とは人の文化的所産の総体を表す概念であり、行動や知覚の様式を「身体化された文化資本」、
  芸術作品や書籍などの形ある文化的財産を「客体化された文化資本」、学位やその他の資格を「制度化された文化資本」と定義する。
 * ブルデューの文化資本論はまさにスポーツにも当てはまる。「競技力を最適かつ効率的に伸ばすための強化メソッドや、それを身につけたコーチの存在などは身体化された文化資本」と言えるし、
  「強化環境を支える道具や設備などの物的資源はもとより、スポーツ界やトレーニングなどに関する情報資源は客体化された文化資本」に該当する。また「強豪校卒の称号や、クラブチームなどが
  特定の育成プロセスを受けたアスリートに対して与える修了証などは、制度化された文化資本」としてその人物に蓄積されることになる。

A) 先に示した調査において「全中が重要でない」との見解が数多く提出されたという事実は、全中につながる部活動よりもクラブチームの方が格段にスポーツに関する文化資本を保有している
 (あるいは保有していると思っている人が多いという)ことを物語る。そしてこうした文化資本にアクセスするためには、ある程度の経済力があって、なおかつ大都市圏に住んでいなければならない。

 かくしてクラブならびに大都市圏へのスポーツ関連文化資本の集中は、今後より一層加速していくと思われる。かつては恵まれない環境で育った少年少女が、スポーツの世界で成功してビッグドリーム
 をつかむということは実際にあったし、多くの人々がスポーツ界はそうしたチャンスを与えてくれる数少ない世界だと信じてきた。だが「スポーツでビッグドリームを」というのは、もはや幻想と
 化しつつあるのかもしれない。こうした状況の中で全中が廃止ないし縮小されると、スター街道の通行手形が一部の人たちだけに偏ってもたらされる恐れがある。

B) 確かにスポーツ界で成功するためには、環境が極めて大事になる。だが、それでも全中が経済格差や地域格差の拡大を防ぐ最後のとりでになっているのだとしたら、なおのこと競技の統括組織や
  高校・大学は、全中に依存しない形で、クラブに属していないアスリートたちを公平に評価するためのアスリート選抜およびスポーツ推薦制度を設ける必要があるだろう。

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 町田氏の所論は的確に問題の所在を捉えているし、スポーツに限らず、文芸領域も含む学校教育におけるクラブ活動全体の意義づけとも広く連動する。
スポーツに関する「文化資本」が余裕のある家庭で都市部に住む人口と学校に偏在しがちなのは日本固有の問題ではないとはいえ、格差拡大の防止は中・高等教育そのものの存在意義とも関わってくる。

町田氏が(B)で提案する≪ 競技の統括組織や高校・大学は、全中に依存しない形で、クラブに属していないアスリートたちを公平に評価するためのアスリート選抜およびスポーツ推薦制度を設ける ≫
 これの実現は、文科省のみならず、学校教育に携わる人々が等しく問題意識を共有し、議論せねば起こり得ないだろう。
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