静 夜 思

挙頭望西峰 傾杯忘憂酒

書評 # 006-1 One Man's View of The World

2014-05-25 14:50:04 | 書評
 昨年90歳を迎え<シンガポールの国父>と敬愛を集めるリー・クワン・ユー氏《以下;LKYと略す》が
Straits Times に語ったインタヴューをまとめたものである。 Straits Times Press Pte Ltd
「リークワンユー回顧録」として日本語版が出ているものとは別物。本書の日本語訳版は、私の知る限り
未だ出ていない。

 本書は次の5つで構成されている。
 1.主要諸国(地域)の政情や接触した指導者について述べた部分 
 2.自国の誕生秘話から現在までを述懐した部分
 3.グローバル経済と世界的気候変化
 4.引退後の日々
 5.シュミット元西独首相との対談

 ここでは2、4以外を3回に分け、要点を紹介してゆく。
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 1.-(1)China - A strong centre

  * LKYは国土のサイズ及び専制の歴史ゆえ「一人一票」の代議制を採用するとは思っていない

  * 中国の弱点は(戸籍制度)(格差:都市/地方、沿岸部/内陸部、国有企業の非効率)
    (輸出/投資依存型経済)。これらの解消の鍵はLack of Governance, No Rule of Law を
    克服できるかにかかっているとし、LKYは悲観的である。

   -(2)America - Troubled but still on top 

  * 米国の隆盛の原因をLKYは次のように挙げ、シンガポール建国時の参考にしたと言う。
   
   - 移民の積極的活用で変革と企業家精神溢れる社会をつくりあげた
   - 英語を公用語にしたことで世界中の俊英を惹きつけている
   - 知識の集積を首都だけにせず、国内で複数の知的拠点が競い合う<日本・中国との違い>
   - 移民の国ゆえ社会習俗や固有文化は障害にならず、実学的発明や革新を生んだ 

  * 米国の欠点を次のように示す。

   - 基礎学力と技術を軽視する初等・中等教育の貧困で中核的人材がコンスタントに供給されない
   - 連邦政府が教育において統御するのを避ける伝統が、それを悪化させている
   - 所得格差、人種差別、金の掛かりすぎる選挙制度による国家的な制度疲労
   - 無邪気なCan-do Approach と西欧型デモクラシーの押し売り
   
  歴代大統領についてのコメントは割愛するが、日本メディアの作り上げてきた像と相当かけ離れて
  いること、また、JFKについてLKYは慎重な言い回しに終始しているのが甚だ興味深い。

  - (3)Europe - Decline and discord

 * LKYは、加盟各国が主権放棄できないので、EUが財務金融の一元化に成功するとは観ていない。
    真の一元化にはFederal Reserve & Finance/Defense Minister を一人にする必要があるから。

  * 高福祉の伝統が経済成長と、その原動力であるべき個人のモチベーションを下げるネガティヴな
    働きをしてきた歴史から、北欧3国の成功はマネージできる人口サイズと民族の同質性ゆえで
    あり、近年の移民導入はやがて文化摩擦を招き難しい局面を迎えるだろうと観ている。

  * 統一欧州はならず、ドイツ・英国が地域大国として将来も影響力を維持するにとどまると
    予想し、EUの失敗は中国・インドを利するであろうと言う。

- (4)Japan - Strolling into mediocrity・・・並みの国へとさまよう

  * 少子高齢化社会改善への投資額ではなく、移民受け入れを拒否する心情が最大の問題
  * 現行の選挙制度・議院制度下における政治家の質を悲観せざるをえない
  * 靖国合祀を続ける限り、いつまでも便利な旗として振り続けられるぞ、と警告している

  本書冒頭には中曽根元首相からの賛辞が掲載されているので、中曽根氏は目を通したと思いたい。
  だが、LKYの指摘をどこまで理解し、受け止め、後輩達に伝えたであろうか?

  - (5)India - In the Grip of Caste

* 民族同質性の欠如とカースト制度ゆえ、LKYはインドの将来を楽観視していない。
    また、インドの代議制民主主義は氏が中国にそれが機能しないふたつの根拠づけと同じ背景
    から、国家発展にはプラスでがないと観ている。

  * ミャンマー・パキスタンに中国は接近中だが、仮に港湾利用権を得たとしても、中国には
    インド洋を支配できないと観ている。不思議なことに、その理由づけは与えられていない。

            ・・・ 連載 #1/3 おわり ・・・
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