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書評057-2止 ≪ 謎と暗号で読み解く ~ ダンテ『神曲』~ ≫ 村松 真理子  角川 Oneテーマ21 2013年

2016-04-07 11:27:15 | 書評
 承前:  まず、本書の章立てを紹介し、そこに顕れている著者の意図を摘要する。
* 1章 謎の詩人 ダンテ ・・・ 政治家としての略歴と、詩人ダンテとして『神曲』執筆の関連に触れている
   2章 暗号に充ちた『神曲』 ・・・ 詩形の創造=<3行詩&三位一体><3の倍数構成>で世界の構造を説き、「煉獄」概念の創出による≪キリスト教における救済≫の
                    意味あいに触れる
   3章 地獄の魂たち ・・・ 「地獄篇」が何故多くの芸術家に影響を与え、読み継がれてきたのか? それはキリスト教侵入以前のローマ古典神話世界との融合もあり、
                    ヨーロッパ人に歴史時間感覚を目覚めさせると同時に、「二者択一」のみではない価値観の大切さも教えているからでは? と著者は示唆する
   4章 煉獄の希望 ・・・  キリストの受難から復活を信じる者だけが「天国」行を許される、その選別の場が(=煉獄)だというダンテの描写が、肉体の死滅ではなく
                  (魂)の死滅を恐れる信者にとっては希望の光になる。
  5章 天国の幸福 ・・・   教徒にとっての「救済」「天国」が、豊かな光輝く金色世界で描かれ、理想の女性:ベアトリーチェを中核にしたダンテの巡礼が終わる
                   ここには当時の天文学/地理学知識を総動員した「楽園」イメージが説かれ、「天」において真理・愛が極まり、ダンテの魂も救われたというわけだ。
  6章 ダンテ『神曲』のこれから ・・・ 著者は、俗語をダンテが意図的に用いたことで宗教が修道院や宗教専門家の間だけのものでなくなり、<広場の文化>を生み出す契機に
                    なったとし、それは(昨日も触れた)統一イタリア語の基礎を産んだばかりでなく、人間の顔をした「知の大全」ともいうべき中世文化の母胎ともなった
                     という。 さらには、ルネッサンスの遠い光になったともいえようか。

 6章で著者は、21世紀社会における<言語と国民文化>グローバリゼーションの進行における<多数派言語の世界語化と少数派言語の今後>、そして<古典文学との対話>の新しい意味を投げかけている。  著者のガイドのお蔭で、キリスト教徒にとっての『神曲』の価値がよく理解できたし、教徒が抱く世界観の視覚化もできたので有意義だった。  
   だが、依然として私は、人間の上に絶対的超越者(X)を措定し、その命に添うことでしか救済はない、とする思考法は、腑に落ちないままだ。 
 (X)の措定なくして1神教は成り立たないので、(X)への従属違反が原罪観念となり、其の原罪からの赦しが即ち≪救済≫。 他方、仏教における≪浄土願望≫は辛苦に充ちた現世及び輪廻からの脱却願望がエネルギーだ。     
  絶対的超越者も、西方浄土も、輪廻も信じられない人間に≪救済≫は無い、ということか。      あっ、そう。                                ≪ おわり ≫
コメント
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