まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

深谷市の幸福な映画館 チネ・フェリーチェ

2009-09-19 20:46:28 | 建築まち巡礼関東 Kanto

埼玉県深谷市(人口14.7万人)でコミュニティシネマ「深谷シネマ」を運営する竹石研二さんの講演を聞きました。以下にその内容をメモします。

Hukaya 竹石さんの講演でいただいたパンフレット

竹石さんは2000年4月にNPO市民シアター・エフをたちあげ、商店街の空きスペースで映画上映を続けました。2002年7月からはTMOの事業である商店街の空き店舗活用の一環として銀行店舗を改装した「深谷シネマ」を作り、以来活動を続けられています。

天井の高い銀行は映画上映には適した条件を持っています。浦山桐郎監督からおそわった「人を実寸で映すことで客が感情移入できる寸法」である高さ1.8mのスクリーンを設置し、固定席で50のキャパを持っています。改装には800万円要したそうですが、竹石さん配布資料によると中古映写機、いすなどの費用250万円は市民と地元企業の寄付で賄ったようです。

現在では 一日100人、年間50作品で4,500万円の売り上げを誇り6人の有給スタッフを雇っています。安く場所を借りているなどの条件はあるものの行政からの補助金はもらっておらず、収入の4分の3程度が入場料、そして残りは移動映写会の売り上げです。

入場者の過半は中高年の女性です。自転車で来る元気な方々もいるものの、やはり車で来られる方が多いようで、商店街が用意した駐車場がたくさんあるのでそれを利用しているようです。若い客は少ないし、それに期待して上映内容などを設定すればおそらく失敗するだろうとのことです。若い人は郊外のシネコンに行ったりレンタルDVDでよいのではないか、シネコンと完全に棲み分けるのがよいというのが竹石さんのポリシーです。

また「映画を文化として捉えなおし、映画の文化性や公共性の価値を街のにぎわい形成の重要な要素」として位置づけ「街と人の生活には文化が必需品」と考える竹石さんは、行政や市民との協働を進め、映画上映以外にもフィルムコミッション活動や映画の担い手育成のための映画祭活動などをつづけています。

実は現在の旧銀行店舗が区画整理のため使えなくなり、間もなく移転を余儀なくされています。しかし移転を機にさらに活動は拡大の様相をみせています。新しい移転先は300年の伝統を持つ造り酒屋の建物で、移転を機会に50席から70席にキャパを拡大し、また敷地内の古い建物を利用した映画撮影や文化活動も展開されることになっています。私たちも㈱まちづくり鶴岡の計画に参加し古い絹工場を映画館にする設計を進めていますが、竹石さんたちの活動はその先駆をなすものです。

講演が終わった後何人かで竹石さんを囲み話しを続けました。事業的には難しい映画館を成功させるためには、市民の参加が不可欠、多くの人に自分たちの画館であるという意識を持ってもらうことが不可欠であるという言葉が印象的でした。

まちを自分たちが誇りに思える場所にしていくというのは私たちの街づくり活動の目標のひとつです。以前幕張ベイタウン・コアを設計したときには自分たちの街のシンボルとなる音楽ホールを造りたいという住民の人たちの熱意が実現への原動力でした。いまでは、立派にまちの人たちが誇りにするホールとして機能しています。松文工場跡地の映画館も地域の人たちの誇りとなる場所にしていきたいという思いを再確認させられた1日でした。

 

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani


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