まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

京王多摩川駅前の地区計画 まちづくり 府中用水の暗渠化

2024-05-25 18:48:09 | 建築・都市・あれこれ  Essay

忘れていたのですが、先日二ケ領用水の古い写真を見て、思い出してしまいました。

京王多摩川駅前の地区計画のことです。駅前に掲示してある地区計画の看板をもう一度見て、カメラに収めました。

京王多摩川の駅前は、戦前の多摩川遊園から近年のフローラルガーデンアンジェまで、行楽地として土地利用がなされてきました。しかしアンジェは数年前に、閉鎖されて空き地になっています。多摩川に沿った行楽エリアがだんだんなくなっていくというのは残念でしたが、運営主体にもいろいろ事情があることと思います。

1,2年前でしょうか、跡地を住宅や商業施設として開発するという方針が示され、京王多摩川の駅前広場で市の説明会があったので、ぶらりと立ち寄ってみました。上の看板に書いてある内容が掲示してありました。

私は2つのことに、驚きました。一つ目は用途地域指定を第一種低層住居専用地域から近隣商業地域にかえて、容積率を80%から300%に一気に上げるということです。これは仮に100㎡の土地に対し、80㎡の住宅した建てられなかったのに、地区計画により300㎡の商業施設などが建てられるようになるということです。いわば、土地の価値が一気に3,4倍に引き上げられるということです。土地利用者に莫大な利益をもたらします。

ただ、このことは、調布市が、何らかの都市計画的理由があって行うのであれば、しようがないと言えなくもありません。ただ、それだけ土地所有者に大きなメリットを与えるのであれば、SDG’sや環境に対する配慮は当然なされるはずです・・・。しかし、2つ目に驚いたのは府中用水に蓋をかけてしまうという計画であったことです。

府中用水と鶴川街道が交差するところです。

府中用水というのは崖線からのはけ水などをうまく農業用水にしたものだと思います。自然の川ではありませんが、付近の植生を豊かにし、沿線が市街化された現在でも、自然的な環境を市民に提供しています。府中の方に行くと下写真のような場所もあります。

また、多摩川をはさんだ川崎側にも、二ケ領用水という用水路がありますが、下のように市民に親しまれる空間になっています。親水環境を作ろうという明確な意思が感じられます。

本来私たちの望ましいくらしの環境をつくるための「地区計画」で、なぜ用水を暗渠化するという発想が出てくるのか、理解に苦しみます。もちろん開発事業者は、暗渠にすれば効率よく宅地開発あるいは商業開発できると発想するでしょう。しかし、時代は産業発展や自動車での移動、貨物輸送のために多くの川や用水を暗渠にしていた50年前ではありません。市は違う立場、すなわち市民の立場で考えるべきです。土地所有者(開発者)に、容積率の巨大なボーナスを与えているのですから、少しくらいは地域環境への貢献を求めるのが自治体が設定する「地区計画」の役割です。

1,2年前の京王多摩川駅前での説明会の時に、担当者に対して私は以上のようなことをお話ししました。しかしその後、再説明会があるわけでもなく、そのまま、地区計画が制定されてしまいました。何のために地区計画を制定するのか・・・、開発事業者に最大限の利益を与えるためなのか、あるいは地区に暮らす人たちに(一様な都市計画では達成できない)その場所に応じた優れた環境(この場合は親水環境)を生み出すために制定するのか・・・。調布市に考えて欲しいものです。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 

 

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿