https://the-liberty.com/article.php?pageId=1&item_id=15920
より転載
写真:ロイター/アフロ。
2019年8月号記事
2020~25年シミュレーション
中国は台湾・日本を同時攻撃する
中国の"台湾統一"の危険性が高まっている。
台湾問題は、日本の未来も決めるかもしれない。
(編集部 山本慧)
「島の商店街には、中国の国旗がはためき、中国の人民元が流通しています。日本円から台湾ドルには両替できませんが、人民元なら可能です」
3月、日本人男性が訪れた台湾の金門島。同島は中国大陸に近く、多くの中国人観光客が訪れ、「中国化」が進んでいる。
金門島は広い自治権が認められる「一国二制度の導入」を主張し、沖縄県のように中央政府とは距離を置くなど、中国の影響を相当受けているという。
そんな中、中国の習近平国家主席は1月、台湾政府に一国二制度の導入を突きつけ、改めて"台湾統一"の意思を示した。たまらず台湾の蔡英文総統は、国交がない日本に「安全保障の対話」を呼び掛け、支援を求めた。
中国の脅威が台湾に迫っている。もし台湾で有事が起きればどうなるか。そしてその時、日本はどんな目に遭い、どう備えるべきか。
代表撮影/ロイター/アフロ。
覇権拡大を目指す中国の本音
- 2020年
- 台湾への侵攻作戦の準備を完了
- 2020~25年
- 台湾統一戦争
- 2025~30年
- 南シナ海諸島の領土回復戦争
- 2035年
- 原子力空母4隻保有で米海軍に匹敵する
- 2035~40年
- チベット南部の領土回復戦争
- 2040~45年
- 尖閣諸島と沖縄の領土回復戦争
- 2045~50年
- 外モンゴル統一戦争
- 2049年
- 中国建国100周年世界トップレベルの軍事力を保有
- 2055~60年
- ロシアに奪取された領土回復戦争
出所:中国国営メディア「中国新聞網」など各種報道より編集部作成
Interview
台湾有事で、南西諸島は戦闘地域になる
日台は運命共同体の関係であり、日本が台湾を守る意味について、元自衛隊幹部に話を聞いた。
元陸上自衛隊
西部方面総監
用田 和仁
プロフィール
(もちだ・かずひと)1952年、福岡県生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上幕僚監部教育訓練部長、統合幕僚監部運用部長、第7師団長などを歴任。元陸将。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。共著に『日本と中国、もし戦わば』(SBクリエイティブ)がある。
マスコミが報道しない、日本の危機に「台湾有事」があります。中国の台湾に対する圧力が増しており、武力統一の可能性が高まっています。もし台湾への侵攻が起きればどうなるか。
東京、横須賀、大阪を爆撃
台湾の作戦について、中国人民解放軍の幹部がこんなことを言っています。
「台湾海峡の西側は、狭くて浅瀬であり、大規模な作戦は難しい。そのため中国軍は、台湾の東側500キロから800キロの範囲に出て作戦を展開する」
米空母の作戦範囲が事実上約1000キロであるため、中国軍は航空機や潜水艦などで800キロ圏内を包囲し、米空母などの介入を阻止するつもりです。
その際、中国軍の作戦エリアに、沖縄や鹿児島の奄美大島がすっぽり入り、南西諸島全域は戦闘地域になります。中国は沖縄方面と日本海に航空機や軍艦を派遣し、「日米が、中国と台湾の"内戦"に手を出せば攻撃する」と脅すでしょう。
これに対し、日本が集団的自衛権を行使して、台湾防衛に動けば何が起きるのか。
中国は、沖縄方面を攻撃すると同時に、日本海側から本土に向けて数百発のミサイルで集中攻撃。東京や横須賀、大阪などの主要都市や基地を破壊します。
こうした可能性は、中国軍の行動パターンから予測できます。中国軍は「兵糧攻め」できるように、台湾を取り囲んだ演習を行っています。また、沖縄の宮古海峡や日本海周辺にも触手を伸ばし、日米をけん制しています。これらの動きは、台湾侵略への予行演習を行っているとも見られます。
"台湾統一"で日本降伏!?
では、日本が台湾を見捨て、中国の"台湾統一"を黙認すればどうなるか。
中国は占領した台湾に、艦艇や戦闘機、防空ミサイル、潜水艦などを配備。核を搭載した潜水艦が、日米の監視網をすり抜けて太平洋に進出し、日米の喉元に核を突きつけます。また、日本のシーレーン(海上交通路)を遮断し、経済封鎖もできます。
さらに、グアムにある米軍基地への打撃力が格段に向上。米軍は貴重な戦力を守るために、ハワイやオーストラリアにまで後退するでしょう。
中国海空軍は、西太平洋における行動の自由を獲得し、日米を分断。日本は中国に白旗を揚げざるを得なくなります。
いずれにせよ、日本が台湾を見捨てることは、自国を見捨てるのと同じです。「台湾に対する宣戦布告は、日本に対する宣戦布告」と捉え、アメリカとともに台湾を防衛する必要があります。
台湾の本音は「日本への失望」
今年5月、私は自衛隊OBなどとともに台湾を訪れ、現地の軍事関係者らと対話しました。そこで分かったのは、台湾側は日本に期待する半面で、失望していることです。
トランプ米政権が台湾との国交がなくても支援に動く中、日本はほとんど何もしていません。対話では、台湾側から「日本は具体的に何ができるのか」と何度も問われ、行動するよう求められました。台湾は、中国に立ち向かわず実行力のない日本に失望しているのです。
さらに愕然としたのは、私が所属するシンクタンクのスポンサー企業から「今回の台湾訪問は、会社に大きな損害を与えたので、今後の支援を打ち切る」と突然通告されたことです。
中国にすり寄る日本企業の実態に触れ、衝撃を受けました。これは「中国こそがすべて」という政財界や一部マスコミの本音といえます。
台湾防衛4つの方法
アメリカが本気で中国に対抗しようとする中、日本が早急にすべきことは次の4点です。
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1「対中融和政策」を転換し、アメリカとともに中国に立ち向かうという「国家意思」を明確にする。
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2日台における政治・経済・軍事交流の基盤となる法律を制定する(詳しくは本紙62ページ)。
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3アメリカと協力して、中国の船を沈める「地対艦ミサイル」を南西諸島から台湾、フィリピン、ベトナムにかけて配備し、中国の海洋進出を封じる(米戦略予算評価センターが「海洋圧迫戦略」として、これを採用したことが5月に判明)。
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4日本の防衛費を2~3倍程度増やし、自分の国は自分で守る体制を整え、台湾と連携する。
日米台が連携し、中国に対抗
台湾の民進党に所属する頼清徳前行政院長は、「日本人は台湾人にとって、家族と同じような隣人だ」と述べています。
まさにその通りです。日台関係は心理的にも文化的にも、安全保障の観点からも、「運命共同体」です(下コラム参照)。
台湾は、自由と民主主義の価値観を有し、共産主義の中国とは全く異なる「国家」です。日本は、米台と一体となり、中国の覇権主義に対抗し、世界の平和と繁栄に貢献すべきです。(談)
中国は台湾を取り囲むように爆撃機や艦艇を派遣している
Interview
アメリカは台湾防衛に動いた
「アメリカは長年の対中政策を見直した。
日本はこれまで通りの外交ではいけない」と語る専門家に話を聞いた。
平成国際大学教授
浅野 和生
プロフィール
(あさの・かずお)1959年、東京都生まれ。慶応義塾大学卒業、同大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。現職の他に、日本李登輝友の会の常務理事などを務める。著書に『日台関係を繋いだ台湾の人びと』(展転社)などがある。
中国の"台湾統一"の可能性が近づき、台湾には未来がないように見えるかもしれません。しかし、トランプ米政権は約40年続けてきた対中政策を転換し、台湾重視にシフトする「歴史的な外交戦」を展開しています。
アメリカは1979年に、中国との国交を正常化すると同時に、台湾との国交を断絶しました。一方で、国交を断絶する代わりに「台湾関係法」を制定し、台湾に武器を売却するなどの支援を行ってきました。
この政策は、中台双方に配慮したものです。ただしアメリカは、「中国が民主化した後に、中台が対話し、平和的に統一する」というような未来が実現すれば、問題はないと判断。あえて双方の顔を立てたのです。
要するに、アメリカが中国と国交を結んだ背景には、「中国民主化への期待」があったのです。
しかし、習近平主席は今年1月、「一国二制度で台湾を統一する」と述べ、独立に動けば武力で統一する意図を示し、台湾の現状維持をも否定しました。
アメリカのペンス副大統領は昨年10月、「中国の経済成長が民主化につながらなかった」とし、民主化という前提が崩れた対中政策を見直すと宣言しました。
そのため、79年から続けてきた中国への配慮をやめ、台湾に武器をどんどん売却し、国防総省の報告書に「台湾は国家である」と明記するなど、台湾防衛に舵を切っています(下図参照)。
アメリカの台湾政策の転換に気づかない日本
日本は「台湾支持」の明言を
日本は中国との国交を正常化して以来、中国に過剰に配慮し、台湾を軽視してきました。有名なエピソードは、1994年時の河野洋平外相の外遊です。
河野氏が、タイで開かれたASEAN拡大外相会議に向かう途中、台風の影響で台湾の空港に着陸。その際、同氏は中国からのクレームを恐れ、飛行機から降りませんでした。それだけでなく、中国の銭其シン外相に誇らしげにそのことを伝え、ご機嫌をとったほどです。
安倍晋三首相は中国にべったりではありませんが、習近平氏を国賓として日本に招く予定があるなど、中国を刺激しない方針をとっています。
ですが、アメリカが対中政策を一変させたことで、日本は米中のどちらにもいい顔ができる時代は終わりました。「台湾支持」を明言する必要があります。
日台交流基本法を制定する
日本が台湾支持を明確にする方法は、アメリカの台湾関係法に当たる「日台交流基本法」をただちに制定することです。
日台は経済や文化交流などを盛んに行っていますが、それらは法律的な裏付けがありません。そのため日本政府は、日台関係を民間交流に限定しています。しかし、中国の軍事力の拡大と太平洋への進出に対応するために、日台の「防衛対話」を可能にする法的基礎を整備すべきです。
もう一つの方法は、日台の経済関係強化です。日本は自由貿易協定(FTA)といった協定を結び、台湾経済を支えるのです。台湾と手を結べば、中国語人材や、世界に広がる中国系ネットワークを活用できます。
さらに訪日観光客数では、台湾は3番目に多いです。地方創生を進めるためにも、台湾は重要なパートナーになり得ます。
日本は台湾との関係を強化し、自由と民主主義の価値観を守るべきではないでしょうか。
台湾に"平和統一"を呼びかけた習近平主席。写真:代表撮影/ロイター/アフロ、Drop of Light / Shutterstock.com。
安倍首相の対中認識は時代遅れ
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「中国の平和的な台頭は、日本にとっても、世界にとっても、大きなチャンス」(2016年の施政方針演説)
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「日中関係は完全に正常な軌道へと戻りました」(2019年の施政方針演説)
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幸福実現党沖縄県本部が主催したデモの様子。
Conclusion
日台は運命共同体である
日台は、単なる友好国ではなく、生き残りを賭けた同志だ。
台湾は世界で最も親日的な国の一つだ。台湾人の訪日観光客数は昨年、約475万人に達し、5人に1人が日本を訪れている計算になる。だが、日本は親日国である台湾を冷遇してきた。
日台には北朝鮮と同じく国交がなく、日台両国を規定する法律もない。日本で台湾人が日本人と結婚したら、戸籍に「中国」と表記される問題もある。
日本からすれば、ある意味で「台湾は存在しない国」なのだ。
沖縄で台湾の自由を守るデモ
そんな台湾を中国がのみ込もうとしている。先述したように、中国が台湾に侵攻すれば、日本を同時に攻撃する可能性がある。中国の脅威が日台に迫っている。
しかし日本の政界に目を向けると、各党は台湾問題に無関心だ。幸福実現党だけが「台湾防衛」を公約にしている(下表)。
さらに4月に訪中した沖縄県の玉城デニー知事は、「(中国の経済圏構想)一帯一路に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と中国側に伝えるなど、まったく危機意識がない。
これに対し、幸福実現党沖縄県本部は6月、沖縄・台湾・香港の自由を守るために、デモを実施。家族連れや中高年など、幅広い世代から410人が参加した。参加者は「中国の侵略から沖縄と台湾を守ろう」「沖縄が一帯一路に入ることに反対!」などの声を上げ、那覇市内を練り歩いた。偶然通りかかった台湾人観光客からは、「ありがとう!」という声援が飛び交った。
今日本がすべきことは、「日台は運命共同体である」と認識した上で、「対中融和政策」を見直し、中国に対抗することだ。具体的には、日本の国防を強化するとともに、経済や安全保障の面で台湾と連携する必要がある。
日本は「東洋の盟主」として、中国の脅威から自由・民主・信仰の価値観を守るべきである。