永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(199)その1

2017年06月20日 | Weblog
蜻蛉日記 下巻(199) その1  2017.6.20

「よべ見せし文、枕上にあるを見れば、わが取り破るとおもひしところは異にて、又敗れたるところあるはあやしとぞ思へば、かの返りごとせしに、『いかなる駒か』とありしことの、とかく書きつけたりしを、破り取りたるなべし。」

◆◆昨夜に右馬頭に見せた手紙が枕元にあるのを見てみると、私が取り破ったと思った所とは違って、また破れたところがあるのはどうもおかしいと、今考えてみると、あの人に返事を書いたときに、「いかなる駒か」と詠んだ歌を、あれこれ案じながら歌句を書きつけたところを破り取ったのであると見えました。◆◆



「まだしきに助のもとに、『乱り風おこりてなん、きこえしやうには、えまゐらぬ。ここに午時ばかりにおはしませ』とあり。例の何事にもあらじとてもせぬほどに、文あり。それには『例よりも急ぎきこえさせんとしつるを、いとつつみ思ふたまふることありてなん。よべの御文をわりなく見給へがたくてなん。わざときこえさせ給はんことこそかたからめ。をりをりにはよろしかべいさまにとたのみきこえさせながら、はかなき身のほどをいかにとあはれに思う給ふる』など、例よりもひきつくろひて、らうたげに書いたり。返りごとは、用なくつねにしもと思ひて、せずなりぬ。」

◆◆朝早く助のもとに、右馬頭から「風邪をひいてしまって、申し上げたようにには伺えそうにありません。こちらへ午後にでもお出でください」とありました。また例のようにたいした用事もあるわけではないと思って出かけないでいると、手紙がきました。それには「今までよりももっと急いで申し上げようと思っておりましたが、ひどく遠慮されることがありまして。昨夜のお手紙を拝読いたしかねております。わざわざ結婚のことをお話しいただくことは難しいでしょうが、どうぞおついでの時にはよろしくお口添えをいただけるものと、おすがり申し上げながら、まったく情けないわが身のほどを、どうなることかとしみじみ悲しく思っております」などと、いつもよりも丁重にして殊勝に書いてあります。返事は、その都度その都度する必要がないと思って、せずじまいにしました。◆◆


■乱り風(いだりかぜ)=風邪