永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(195)

2017年06月04日 | Weblog
蜻蛉日記 下巻(195) 2017.6.4

「今日、かかる雨にも障らで、おなじところなる人ものへ詣でつ。障ることもなきにと思ひて出でたれば、ある者『女神には衣縫ひてたてまつるこそよかなれ。さしたまへ』と、より来てささめけば、『いで、心みむかし』とて、縑の雛衣三つ縫ひたり。下交ひどもにかうぞ書きたりけるは、いかなる心ばへにかありけん、神ぞ知るらんかし。

◆◆今日、こんなひどい雨にもめげずに、同居の人があるところに参詣しました。さしつかえることもないので私も一緒に出立することにしましたら、ある侍女が「女神さまには着物を縫って奉納するのが良いそうです。そうなさいませ」と傍によってきてささやくので、「では、試してみましょう」ということになって、縑(かとり)の雛衣(ひいなぎぬ)を三つ縫いました。それぞれの着物の下前に、このような歌を書いたのは、どんなつもりだったかしら、神様はご存知でしょうよ。◆◆



「<白妙の衣は神にゆづりてむ隔てぬ中にかへしなすべく>
また、
<唐衣なれにしつまをうちかへしわが下交ひになすよしもがな>
又、
<夏衣たつやとぞ見るいはやぶる神をひとへにたのむ身なれば>
暮るれば帰りぬ。

◆◆(道綱母の歌)「白妙の衣は神様に差し上げましょう。仲むつまじい夫婦仲にしていただくために」
また、
(道綱母の歌)「長年連れ添った夫を今とは逆に私に従順な夫にしたいものです」
また、
(道綱母の歌)「夏衣を供えて霊験が現れるかどうか見ましょう。ひたすら神にすがるわが身ですので」
夕暮れになったので帰りました。◆◆


■縑(かとり)=固く織った薄手の平絹。「かとり」は固織(かたおり)の約。

■下交ひどもに(したがひどもに)=着物の前部、重ねて下になる部分。