永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1255)

2013年05月17日 | Weblog
2013. 5/17    1255

五十三帖 【手習(てならひ)の巻】 その47

「薄鈍色の綾、中には萱草など、澄みたる色を着て、いとささやかに、やうだいをかしく、今めきたる容貌に、髪は五重の扇を広げたるやうに、こちたき末つきなり。こまかにうつくしき面やうの、化粧をいみじくしたらむやうに、紅くにほひたり」
――(浮舟の)そのご様子は、薄い鈍色の綾、その下には萱草色(紅黄色)などの落ち着いた色のものを重ね、たいそう小柄で姿かたちもよく、当世風なはなやかな顔立ちに、髪は五重(いつえ)の扇を広げたように裾の方が房々として、多すぎるほど豊かでいらっしゃる。整って難のない顔かたちは、まるで上手にお化粧をしたように、ほんのりと赤く艶やかでいらっしゃる――

「行ひなどし給ふも、なほ数珠は近き几帳にうち掛けて、経に心を入れて誦み給へるさま、絵にも画かまほし。うち見るごとに涙のとどめ難き心地するを、まいて心かけ給はむ男は、いかに見たてまつり給はむ、と思ひて、さるべき折にやありけむ、障子のかけがねのもとにあきたる孔を教へて、まぎるべき几帳など引きやりたり」
――勤行をなさるにも、まだやはり恥かしげに、数珠は近くの几帳に懸けておいて、一心にお経を読んでいらっしゃる。そのご様子が、絵に画きたいようです。少将の尼は見るたびに涙が止まらない心地がしますのに、ましてや、思いを寄せていらっしゃる男君は、どんなお気持ちであろうかとお察しして、丁度よい機会でもあったのでしょうか、襖障子の掛金のところに孔(あな)があいていますのを中将にお教えして、邪魔になる几帳などを脇へ押しやりました――

「いとかくは思はずこそありしか、いみじく、思ふさまなりける人を、と、わがしたらむあやまちのやうに、惜しくくやしく悲しければ、つつみもあへず、もの狂ほしきけはひも聞えぬべけえば、退きぬ」
――まさか、これほどのご器量とは思いも寄らなかった。実にまあ申し分なく理想的な人だったものを、まるでご自分が出家などおさせしたかのように、口惜しくて悲しくて、思わず取り乱しそうになりましたのを、そのような気配を気付かれでもしたら、とやっとの思いで堪えて、その場を離れたのでした――

「かばかりのさましたる人を失ひて、たづねぬ人ありけむや、また、その人かの人の女なむ、行方も知らず隠れにたる、もしはもの怨じして、世を背きけるなど、おのづから隠れなかるべきを、など、あやしうかへすがへす思ふ」
――(中将はお心の中で)それにしても、これほどの美しい人を行方知れずにして、探し求めない人が一体いるだろうか。また、誰それの娘が行方も知れず、跡をくらましたとか、あるいは嫉妬のために尼になったとか、そういうことならば、自然に噂が立つ筈なのに、と、どう考えても腑に落ちないのでした――

では5/19に。