永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1096)

2012年04月17日 | Weblog
2012. 4/17    1096

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その4

「宮もあだなる御本性こそ、見まうきふしもまじれ、若宮のいとうつくしうおよずけ給ふままに、外にはかかる人も出で来まじきにや、と、やむごとなきものに思して、うちとけなつかしきかたには、人にまさりてももてなし給へば、ありしよりは少しもの思ひしづまりて過ぐし給ふ」
――匂宮の浮気なお心癖は、中の君には困った事、気に入らないこととお思いになりますが、若君がいよいよ可愛らしく成長なさるにつけて、匂宮はお心の中で、他の夫人(左大臣家の六の君たち)にはこのような御子を儲けてくれる人はいるまい、と、この頃では中の君を大切な人として扱っておられますし、気楽で親しいという点からも芯から睦み交わしていらっしゃるので、中の君は前よりは多少物思いもなく過ごしていらっしゃいます――

さて、

「正月の一日過ぎたるころわたり給ひて、若君の年ましり給へるを、もてあそびうつくしみ給ふ。昼つかた、ちひさき童、緑の薄様なるつつみ文のおほきやかなるに、ちひさき髭籠を小松につけたる、また、すくずくしき立文とり添へて、あうなく走り参る。女君に奉れば」
――正月の一日を過ぎて、匂宮が二条院にお渡りになって、若君の一つ年をおとりになった(二歳)のを、お相手にして可愛がっておられます。昼ごろ、小さな女童が、緑の薄様で包んだお文の大きなのに、小松に添えた小さな髭籠(ひげご)と、別にきちんとした立文とを持って、ばたばたと走ってきて、女君(中の君)の前に参って、それをさしあげますと――

 匂宮が、「どこからの御文か」とお尋ねになります。女童がたいそう急きこんで、

「宇治より大輔のおとどにとて、もてわづらひ侍りつるを、例の、御前にてぞ御覧ぜむ、とて、取り侍りぬる。この籠は、金をつくりて、色どりたる籠なりけり。松もいとよう似て造りたる枝ぞとよ」
――宇治から大輔の君(中の君の侍女)へと言って持ってまいりましたが、使いの者がまごまごしていましたので、いつものように上(中の君)が御覧になるのでしょうと存じまして、私が受け取りました。この籠は銅線で作って色を塗ったものだわ。松も本物そっくりの枝だこと――

 と、はしゃいでしゃべりたてます。匂宮もつい釣り込まれて、

「『いでわれも、もてはやしてむ』と召すを、女君、いとかたはらいたく思して、『文は大輔がりやれ』とのたむふ、御顔の赤みたれば、宮、大将のさりげなくしなしたる文にや、宇治のなのりもつきづきし、と思し寄りて、この文を取り給ひつ」
――「それではひとつ、わたしにも見せておくれ」と匂宮がお取り寄せになります。中の君はひどくお困りになって、「その文は、大輔のほうへおやり」とおっしゃいます。そのお顔がほんのりと赤らんでいらっしゃるのを、匂宮は、さては薫が何食わぬふりをして、よこした手紙かな、宇治からと名乗っているのも怪しい、とお思いになったのでしょう、この文を取り上げてしまいました――


◆見まうきふし=見ま・憂き節=気に入らない点

◆髭籠(ひげこ)=竹籠の編み残した端を髭のように出して飾りとしたもの

◆すくずくしき立文=直々しき立文(たてぶみ)=きまじめな立文。立文は書状の形式で、包み紙を縦にするものをいう。

では4/19に。