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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

エラの谷のダビデ

2008年08月25日 | movie
『アメリカばんざい』

2008年3月までに4000人を超えたアメリカ軍のイラク戦争戦死者。
入隊すれば奨学金がもらえて職業訓練が受けられ、たとえ怪我をしても補償があり、除隊後も年金がもらえると宣伝されるアメリカ軍だけど、実情はそんなに甘いものじゃない。
ベトナム戦争以後の帰還兵のPTSD発症率は驚異的な数字だが、彼らは国からなんのケアも受けていない。奨学金ももらえるのは申請者のうち4割。恩給だって月にせいぜい118ドル。除隊しても仕事がないから、アメリカの路上生活者の3割が帰還兵というていたらく。

しかしぐりが驚いたのはこの映画がなんと邦画とゆー事実。なんでだ?マイケル・ムーアとか喜んでやりそうなネタなのにねえ。
インタビューに答えてるのは全員アメリカ人で大半が帰還兵やその家族なんだけど、外国人である日本人スタッフによくぞここまで赤裸々に語ってくれたもんだと思う。いや、外国人だからなのだろうか?
それでまたみんなよく喋る。みんなすごく弁が立つ。というか素直。それぞれいいたいことがいっぱいあるんだろうけど、にしても論点が明確で聞いてて話が非常にわかりやすい。国は国民に嘘をついてる、戦争は正義なんかじゃない、自分たちは殺人なんかやりたくなかった、目の前で友だちを亡くしたり、罪もない市民を殺したり、そんな悪夢が常に自分たちを苦しめている、もうこれ以上誰かにそんな思いはさせたくない・・・。

そんな酷い経験をした帰還兵はどうなるか。
怪我の後遺症や悪夢から逃れるためにアルコールに溺れたりドラッグに奔ったり、完全に精神のバランスを崩したりして社会から転落してしまう。元が貧困層出身だから転落するのもあっという間である。行く先は路上生活あるのみ。捨て身で助けてくれる家族や友人がいないかぎり、彼らを待っているのは死しかない。国にとってもう戦場に出て行かない帰還兵など使い捨てのゴミでしかない。
これでもアメリカは自由と平等の国だなどといえるのか。そんなものは完璧な嘘である。欺瞞である。こんなことがまかり通る国には人権なんかない。あるなんていうことが間違っている。
てゆーかさ、戦争やめりゃあそれでいいんじゃないの?国民騙してまで戦争やんなきゃいけない国って、やっぱヘンですよ。

関連レビュー:
『告発のとき』
『華氏911』
『ジャーヘッド』
『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』 アンソニー・スオフォード著

日々是決戦

2008年08月25日 | movie
『高三』

福健省のある高校の3年7組に1年間密着したドキュメンタリー。
中国は幼稚園でも学校でも寮制のところ多いですね。会社もか。広い国ならではとゆーべきか。
この学校の雰囲気は高校とゆーより予備校みたい。毎年3年生ばっかり教えてる王先生とゆー熱血教師が、ひたすら生徒を激しく鼓舞し、叱咤激励しつづける。子どもたちは朝もはよから夜遅くまで、机に文字通りかじりついて勉強してる。
でもどこの学校も同じでなかには落ちこぼれもいる。プレッシャーで逃げちゃう子、ネットカフェに入り浸って授業中も寮で寝こけてる子、恋愛にうつつを抜かす子。ひとりっ子政策の影響もあって親の期待も大きいから、子ども本人のストレスも並み大抵ではない。

上映後のトークショーで水野衛子氏もいってたけど、中国の学校にはクラブ活動とか情操教育とかいった要素がまったくない。オリンピックなんかで活躍してる選手はそれ専門の学校で訓練されたスペシャリストである。そうでない子はとにかく良い学校に進学して良い仕事に就いてお金を儲けて、とゆーものすごく画一的な価値観しか学校にはない。まだ中国が未成熟な国だからなのだろうけど、どれだけ中国が大きくてたくさん人間がいる国だとはいえ、将来それで大丈夫ですかー?とゆー危うさもすごく感じる。
ちなみに中国の大学受験は日本のセンター試験みたいな共通テスト一発勝負。受験時に志望校を申告して大学側が希望者から成績の良い順に入学者をピックアップするとゆー方式。これって絶対ムリありますてー。せめてアメリカのSATみたく年間何回か受験機会があればいーのに。一発じゃあねえ。そら逃げたくもなりますよ。

勉強しかしてない中国の田舎の高校生はみんな純真で、ぐりの目から見ても幼くていたいけで、こんな子たちがいったいどんな大学生になるのかうまく想像もつかないくらい。エンドクレジットに3年7組全員の合否が出て来たのには笑っちゃったけど、その後みんなどーしてるのかな?
劇中で歌われてた『那些花儿』はもとは誰の曲なんだっけ?中華ポップスを聴かないぐりでも聞き覚えがあるってことはすごいメジャーな曲のはずだけど、誰が歌ってたのかどこで聞いたのかが思いだせない。気になるー。

関連レビュー:『小さな赤い花』

沈黙

2008年08月25日 | movie
『山清水秀―息子』

もうすぐ死刑になる弟を助けるため、妻・秋月(胡淑麗フー・シューリー)と相談して生まれてくる赤ん坊を売ることにした阿水(甘小二ガン・シャオアル)。子どもを売っても賄賂に足りないので、妻を一年間貸してほしいという金持ちの提案にも応じることにしたのだが、金策がつかないうちに刑が執行されてしまったうえ、売血に手を出した阿水はエイズを発症してしまう。
『塵より出づる』の甘小二の2002年の作品。

出ました人身売買&HIV問題。
現代の貧困問題の定番二大テーマでしょー。これ。中国だけじゃなくて、どこでも。
しかしこの映画はすごいです。むちゃくちゃよくできてます。ぐりは『塵より〜』よりこっちのが好きですね。物語の完成度もこっちのが高い気がする。
惜しむらくはDV収録で画質がかなりアレな点でしょーか。内容としては相当に格調高い文芸映画なので、非常にそこがもったいないです。あ、あと胡淑麗が広東語喋りにくいのか台詞棒読みっちゅーのもちょっとアレかも。気になるってほどではないけど。
コレこそハリウッドなんかがリメイクするべきなんじゃない?昨今進出著しい中華スターなんか豪華に使っちゃってさ。だって人身売買とHIVですよー。格差社会ですよー。ワーキングプアですよー。臓器売買の話もちゃんと出てくるしー。どーよどーよ。李安(アン・リー)とか王穎 (ウェイン・ワン)あたりで。

物語はとにかくよくできてる。
昔ながらの家父長制にとらわれた長男である主人公は義務感で弟を助けようとするんだけど、そのことで妻も子も妹もみんな不幸にしているということに気がつかない。わからないわけじゃないんだけど、自分がどこにプライオリティを置くべきなのかを見誤っている。罪を犯した弟を助けることしか頭にないから、赤ん坊を助けたくても妹に勉強をさせてやりたくても、どうすればいいのか方法が見つからない。
結局貧しいってお金がないってことじゃない。古い因襲に縛られて心の自由をなくしてしまうことこそが、貧しさのもっとも大きな害悪だ。

監督がクリスチャンとゆーこともあってこの物語にも宣教師がでてくるけど、信仰そのものは物語の中ではそれほど重要度は高くなくって、世界観の中のひとつのアクセントとして機能している。宗教のこういう表現方法はなかなか自然でいいんじゃないかと思います。
ラストシーンがまた圧倒的に秀逸。コレどーやって撮ったんやろー?謎。

関連レビュー:
『闇の子供たち』1
『ルーシー・リューの「3本の針」』
『中国の血』 ピエール・アスキ著
『丁庄の夢―中国エイズ村奇談』 閻連科著

結婚行進曲

2008年08月25日 | movie
『塵より出づる』

肺を病んで入院中の夫(張献民チャン・シャンミン)を支えながらひとり娘を育てている小麗(胡淑麗フー・シューリー)。家計が厳しく治療費や娘の授業料も滞納しがちな苦しい生活の中で、彼女の楽しみは教会の聖楽隊の稽古だった。
『山清水秀―息子』の(甘小二ガン・シャオアル)監督の2007年の作品。

中国に8000万人もクリスチャンがおるって知らなんだよー。驚きです。
この映画はたぶんクリスチャンが観ればもっと納得がいくんだろうけど、キリスト教に不案内なぐりにはイマイチうまくついてけませんでしたです。すごくいい映画なんだろうけど、入り込めなくてさー。題材はいいのでもったいないです。とても。
なんかいろんな部分があと一歩!なんだよね。胡淑麗の表情が常に仮面をかぶったようにそらぞらしいのが意味不明だし、カメラワークも必要以上に引きすぎてたり寄りすぎてたり、結局どーしたいのかがよくわからなかったり。
登場人物の相関関係の描写が希薄だったのがいちばん惜しいところかな。病院で「友だちや家族に工面してもらいなさい」とまでいわれて支払いを迫られてるのに、ヒロインがなぜそれをしないのかがどーしても引っかかったままになってしまう。その割りには最後にちゃんとお葬式だしてるし。お金どしたん?みたいな。

ホントにいい映画なんだけど、非常に惜しい、観ててなんだか困ったなあと思う作品でした。
ただし、これまで決して映画に描かれてこなかった中国が表現されてるという部分では必見の1本には違いないです。

雪は降る

2008年08月25日 | movie
『最後の木こりたち』

2005年に伐採が停止された黒竜江省の森林伐採地の最後の冬に密着したドキュメンタリー。
音楽なし、テロップ・ナレーションなし、いっさいの説明を取り払った純粋な記録映像。監督はロケ地の出身で登場する作業員たちは幼少時代の友人でもあるそうだ。

いちめん銀世界に凍りついた森の中、馬をあやつり粗末な橇で伐り出した木材をひたすら運ぶ男たち。あまりの過酷さにときどき馬が死ぬ。死んだ馬はその場で皮を剥がれて解体され、作業員たちの食事になる。わずかな日当で肉体労働に従事する彼らにとって、馬は道具であり相棒であり食物でもある。
食べて眠って働いて、話すことといえば家族の話、恋しい少女の話、お金の話。番小屋にはテレビもラジオも何もない。寝具と衣類とわずかな台所道具。生きるために最小限必要とされるものしかない。
春になって暖かくなって家に帰るまでの期間限定の、男だらけのむさ苦しい生活だけど、ただしんどいだけって感じもしない。飲んで騒ぐわけでもないのに男だらけの小屋はなんだかほっこり楽しそう。
でももうその暮らしは終わってしまった。政府がこの山での伐採を禁止してしまったから。彼らは今どうしてるのだろう(東京フィルメックスQ&A)。

ここまで純然たるドキュメンタリーも珍しいってくらい、主観を感じさせない作品。途中微妙に眠くはなったけど、個人的にはこれはこれでいいと思います。音とかかなりテキトーだったけどそれも味ってことで。
監督の本職は版画作家だそーで、どーりでなーと納得でしたです。