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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

タガタメ

2008年08月21日 | book
『性犯罪被害にあうということ』 小林美佳著
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2000年8月に性犯罪事件に巻き込まれ、現在は当事者の立場から性犯罪被害者の支援活動(みかつきHP)をしている小林美佳氏の手記。
雑誌やTVなどでも取り上げられたので有名な方なのかもしれないが、ぐりはこの本が出て初めて知った。
表紙には著者本人の肖像写真。肖像写真で著名な斎門富士男氏の爽やかなポートレートに写った彼女は、色白で華奢で、可憐・清楚といった言葉がまさにぴたりと当てはまるような女性だが、これまでに誰も自ら語らなかったレイプの被害を一冊の本に書くという、「私は悪くない」「勝手に同情なんかされたくない」という毅然とした強い意志の表れをストレートに感じさせる。

レイプは魂の殺人だとよくいわれる。
未だにぐりにはうまく理解できないのだが、性犯罪はなぜか被害者にも落ち度があると思われる。これはどうも万国共通、程度の差こそあれいつでもどこでも似たような状況らしいが、被害者自身もそのことで自分を責めて、責めあぐねてついには自殺してしまうケースもしばしばある。事件後に精神的なバランスをたて直すことができず、対人関係から生活基盤までとことん破壊されてしまう被害者もいる。こうした二次被害はセカンドレイプとも呼ばれ、性犯罪独特の現象ともいわれる。
著者の場合この現象を最も如実に表しているのが、実母の「もう誰にも話さないでちょうだいね」というひとことだった。
第三者は被害の苦しみは忘れてなかったことにするのがいちばんだと安易に考える。本人は被害者のためを思ってそう考えるのかもしれない。だが無知の善意ほど恐ろしいものはない。自分が悪いことをしたわけでもないのに事件をなかったことにされるのは、被害者の苦しみを全否定することと同じだ。
それはすべての理解と解決への道すら閉ざしてしまうことになりかねない。一度起きてしまったことは、決してなかったことにもできないし忘れることもできないのだ。

この本には著者自身が事件とその後のできごとを通して感じたことが、ごくごく素直に淡々とつづられている。
警察の対応、終わることのないPTSDの苦しみ、家族との不和、恋愛やセックスに対する恐怖、さまざまな友情の形、行政への不信、カウンセリング、仕事、結婚など、実際に体験したことがなければ想像もつかない現状がひとつひとつ丁寧に、だが簡潔な言葉で語られている。
女性らしい感情豊かな表現が多いが、決して情緒的でもないし重さもない。弟が「姉は強い人」という通り、おそらく彼女はとても強い人なのだろうと思う。
だが、どんなに強い人でも、年がら年中常に強さを期待されるのは苦しいものだ。どんなに強い人でも、犯罪の被害に遭って苦しんでいるときにまで強さを求められるのは酷かろう。人間は本来、みんな弱くて寂しい生き物なのだから。
そのことを、彼女の両親がもっとわかってくれたらよかったのにと思う。

分量的にも軽めであっさりと読める本なので、それほど考え込まずに誰にでも読んでほしいと思う。
レイプに限らず、犯罪の被害に遭うということ、心に大きな傷を負うこと、強迫神経症やパニック障害などメンタル的な問題を抱える孤独がどういうことなのかが、誰にでもわかりやすく率直に表現されている、いい本です。
若い人にも、年配の人にも、男性にも女性にも、読んでほしいです。