気ままに

大船での気ままな生活日誌

序の舞

2009-08-13 11:17:19 | Weblog
一見、何でもない景色でも、その土地の歴史を知っていると、新鮮な感じを受けるものである。最近、宮尾登美子著”序の舞”を読んでから、よく図書館で、上村松園の画集をのぞいているが、今まで、何気なくみていた絵が、きらきらと輝きを増しているように感じている。この絵は、あの苦しかった時代に描かれたものだな、とか、やっと心が落ち着いて、絵に専心できた頃の作だなとか、等、思いながら観ると、絵の中の着物姿の女性がまるで松園自身のように感じ、そのときの彼女の心まで写されているようで、感動してしまう。

”序の舞”では、松園がもちろん主役で、小学校を出て、すぐに入った絵学校の先生、そして、成人後、二人の先生に師事する。それぞれ、鈴木松年、幸野楳嶺そして、竹内栖鳳なのだが、小説では、すこしだけ違った名前で出てくるが、その人が誰であるかはすぐ分かってしまう。その他、当時の画家や、松園の画題はそのまま記述しているので、その絵の描かれた彼女の”時代背景”がよくわかるのである。

歴史小説は、”話半分”みたいなところがあり、吉川英治のつくった宮本武蔵であり、司馬遼太郎のつくった坂本竜馬である。これも、宮尾登美子のつくった上村松園であることは百も承知だが、彼女の履歴は正確に示しつつ、履歴書には書かれていない、松園の男女関係などがかなり詳しく書かれていて(想像して?)興味深い(汗)。女性作家ならではの、松園のそのときどきの心理描写はさすがだと思った。

師の一人との間にできた、10歳の男の子をもつ37歳の松園が、7歳年下の京都帝大の学生に恋い焦がれる。彼は、以前、恋した男の弟なのである。彼への狂わしいまでの思いを絵にしたのが”花がたみ”である。謡曲の主人公”照日の前”をモチーフに描いた。”桂さまひとりにみてもらいたいとうおしたのやさかい”と彼とのつきあいが再開したときに述べている。

花がたみ。(大正5年作)京都の精神病院で患者の顔の写生をして、勉強したそうだ。


しかし、桂さまとの恋も家族に反対され破局。桂さまも若い娘さんと結婚、師匠の死にまつわるいざこざ、いろいろなことで悩み、スランプに陥っているとき、文展出品期限のせまる夜、ふと、この構図が浮かんだ。打ち掛けを着て、振り向きざまに怨嗟の眼差しを向ける、打ち掛けの模様は蜘蛛の巣と藤、という壮絶なものだった。”これを仕上げたら、性根つきて死んでしまうかもしれない、もとより死は覚悟の上”の制作だった。

焔(ほのお)(大正8年)。謡曲”葵上”の六条御息所の生霊がヒントになっている。はじめ”生霊”という画題を考えていたそうだ。ぼくは東博の常設展で今年、これを観ている。迫力満点である。そのときは、まだ、この小説を読んでいなかった。もう一度、観たいものである。松園の生霊がひしひしと感じられることだろう。


松園らしくない、このふたつの作品は、こうゆう苦しい時代に書かれたのである。そして、これも、松園としてはめずらしい”楊貴妃”を大正11年に描いた、



その後、昭和に入り、松園らしい美人画が復活。ますます円熟味が増してゆく。松園の代表作、”序の舞”は息子のお嫁さんがモデル。重要文化財。先日、芸大美術館で観てきたばかり。記念切手にも使われ、この小説の題名にもなった名作。

”序の舞”昭和11年。


”つれずれ”昭和16年。山種美術館で観てきたばかり。


”庭の雪”昭和23年。この絵の構想をねっているときに文化勲章の知らせが入る。最晩年の作。これも山種美術館所蔵。


ますます松園フアンになってしまった。
。。。

”序の舞”は映画では、名取裕子さんが主役であったことは知っていましたが、テレビドラマでは、先日、お亡くなりになられた大原麗子さんが主役だったそうですね。芸では妥協を許さない、芯の強さ、うつくしさ、そして波乱の人生、お二人とも、よく似ていますね。
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