礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

のら犬ですから、つれて いくんです(男)

2015-12-10 03:39:00 | コラムと名言

◎のら犬ですから、つれて いくんです(男)

 昨日の続きである。「太郎花子国語の本 編修方針内容見本」(日本書籍株式会社)から、「2 おまわりさんとポチ」という文章を紹介している。本日は、その四回目(最後)。
 改行は原文のまま。誤植と思われる部分があるが、訂正していない。

 七、こいのぼり
 むこうに、家が 五六けんあります。その 上の
方に、大きな長いものが、ふらふら うごいて います。
 なんだろう。大きな さかなの ような ものです。
 あ、こうのぼりだ。
 ぼくは、こいのぼり を 見ると、うれしくなりま
した。それで、
「ワン、ワン」
といいました。
 すると、子どもたちが あつまって きて、いいま
した。
「なんだ。のら犬だ。」
「のら犬だ。」
「のら犬だ。」
 石をなげる 子も います。
 石を なげられては たまらないと おもって、ぼ
くはまた走りました。
 七、こわい男
 ぼくは、まだ あさごはんも、たべて いません。
きゅうに、おなかが すいて きました。
 見ると、小さい 川が ありました。きれいな 水が
おいしそうに、見えました。
 ぼくは、川に 口を 入れて ピチャピチャと、のん
でいました。すると、うしろから、へんな においが
してきました。
 そして、ふりかえろうと すると、もう ぼくの、首
は なわで しばりつけられて いました。
 見ると、大きな 男です。こわい かおを した
男です。やぶれた きものを きた 男です。
「さあ、こっちへ こい。」
と いって、ぐんぐん、ひっぱっていきます。
「キャン、キャン。」
と、ぼくは なきながら、いっしょうけんめい、ひっぱ
られまいと しましたが なわが、ぐんぐん しめつけま
す。ぼくは いやいや その男に ついて いきました。
 この 男は なんなんだろう。犬ころしかも しれない
と おもうと、ぼくは、こわくて こわくて たまら
なくなりました。
 ああ、太郎さんが きて くれないかなあ。
 太郎さんが きて たすけて くれないかなあ。
 そう おもいながら あるきました。
 九、くつのおと
 むこうから、くつの おとが して きました。
 それは、きのうの おまわりさんでした。
 おまわりさんは、ちょっと ぼくを 見てから、じ
っと その男を 見ました。
「あ、きみ、きみ、その犬を どう するね。」
と、おまわりさんが いいました。
 男は、
「のら犬ですから、つれて いくんです。」
 おまわりさんは、
「きみ、それは、のら犬じゃ ないよ。ぼくの しっ
ている うちの 犬だよ。太郎くんの 犬だよ。」
といいました。
「でも、首わも、ふだも、つけて いませんよ。」
と、男がいいます。
「首わを おとしたんだろう。きみ、それを、ぼくに
 わたしてくれたまえ。つれて いって、太郎くんに
かえして やるから。」
と おまわりさんは いいました。
 男は、いやそうな かおを しながら、なわを お
まわりさんに わたしました。そして むこうへ 行
って しまいました。
 おまわりさんは、
「ポチくん、あぶない ところだったよ。よかった。
 よかった。さあ、ぼくと いっしょに かえろう。」
といって、あるきました。
 ぼくは、うれしくて、たまりません。
「ありがとう ございます。ワンワン。」
と いいながら、ぼくは おまわりさんに ついて い
きました。
 十、ありがとう
 はしの ところまで、きました。
「ポチ こい。ポチ こい。」
という 聲がします。太郎さんの 聲です。
 ぼくは、とび立つ ような 氣が しました。
 太郎さんが むこうから きました。
 おまわりさんに つれられた ぼくを 見つけて、
「あ、ポチだ。どこに いましたか。ぼく ずいぶん
 さがしました。どうも ありがとうございます。」
と いいながら、こっちへ やって きました。
 おまわりさんは、
「太郎さん、この犬は、どうして ふだを つけて 
 いないのかね。」
と ききました。
「けさ、ちょっと、はずした あいだに、ぽちが 出
 て いったんです。」
と、太郎さんは いいました。
「そうかね。いや、けさは あぶない ところだった。
 犬ころしに つかまって、つれていかれる ところ
だった。」
と、いいながら、太郎さんに なわを わたしました。
「おじさん、ぼくのところへ きて くださいません
 か。」
と、太郎さんが いいました。
「いや、もう べつに ようじは ないからね。おと
 うさんに よろしく。」
と いって おまわりさんは 行きました。
 太郎さんも、ぼくも、じっと おまわりさんを 見
おくりました。

 以上のひと続きの文章のタイトルは、「おまわりさんとポチ」であるが、最後まで読んで、ようやく、このタイトルがつけられた意味が、わかる。
 非常によくできた短編だと思うが、今日における価値観からすると、素材や表現に、問題がないとは言えない。なお、これは、あくまでも「内容見本」に載っていた文章である。このままの形で、教科書に使われたのかどうかは、まだ確認していない。

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1 コメント

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Unknown ( 伴蔵)
2015-12-10 22:52:56
 聞くところによると、戦争前は知りませんが、戦争中や

戦後間もないころにイヌを貴重なタンパク源として摂取し

ていたことがあったそうです。特に赤イヌが美味だそうで

す。
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