おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ふくろう

2023-02-18 15:42:31 | 映画
「ふくろう」 2003年 日本


監督 新藤兼人
出演 大竹しのぶ 伊藤歩 木場勝己 柄本明 原田大二郎 六平直政
   魁三太郎 田口トモロヲ 池内万作 蟹江一平 大地泰仁

ストーリー
ある山間部の開拓村に住む母娘ユミエ(大竹しのぶ)とエミコ(伊藤歩)は飢えに苦しんでいた。
ユミエが満州から引き上げた後入植した開拓村の土地が不毛のため、他の住民はすべて村を出て残っているのは二人だけで、ユミエの夫は蒸発し金もない。
近くのダム建設現場で働く男(木場勝己)が二人の家を訪ねてきた。
男から金を受け取るとユミエは男と別室に消えて行った。
事が終わった後、二人は男に特別サービスと称して焼酎をふるまうと、男は口から泡を吹き死んだ。
二人は男の死体を始末すると巻き上げた金で久しぶりのまともな食事にありついた。
その後二人は電灯を取りつけに来た電気屋(六平直政)、ダムの作業員(柄本明)、水道屋(田口トモロヲ)などを次々と同様の手口で殺して金を奪った。
そしてある日、二人の元に巡回中の警官(    池内万作)が訪ねてきた。
ユミエと警官が別室に消えた時、県福祉課の水口(蟹江一平)が訪ねてきたので警官は仕方なく帰った。
開拓村の失敗について謝罪にきたという水口を娘のエミコが別室に連れて行く。
事を終えた後、水口は二人に五十万円を渡し、これから自殺すると言い残して立ち去った。
その後訪れたダム工事の現場監督(原田大二郎)を二人が同様の手口で殺した後、死にきれなかった水口が戻ってきて、エミコに結婚を申し込んだ。
困った二人が結婚の杯と称して水口に毒入り焼酎を飲ませようとしたところで警官がやって来たのでエミコは水口を別室に隠す。
警官とユミエが事に及ぼうとした時、また誰かが訪ねてきたのでユミエは警官を水口とは別の部屋に隠す。
訪ねてきたのはかつて村に住んでいたエミコの恋人の浩二(大地泰仁)だった。


寸評
母と娘が殺人を繰り返す内容で、とても青少年に見せられる作品ではない。
同じことの繰り返しで、しかも一貫して家の居間だけで話が進むので、下手をすると単調すぎて展開に飽きる内容なのだが全くそんなことはなかった。
古びた家の居間だけで展開されるので、それはまるで演劇舞台の喜劇を観ているかのような雰囲気である。
やってくる男たちを演じた役者たちが死に方を競っている。

ユミエの口から語られるのは国策の失敗を国民い押し付けた政府への批判である。
満洲への進出の為に土地をタダでやるから移住しろという国策に基づいて多くの日本人が満洲へ渡った。
ところが戦争に巻き込まれ、満州に渡った人たちはお国の事情で帰国することになった。
国は救済策を打ち出すがそれは名ばかりで、ユミエの親たちが与えられた希望ヶ丘開拓村は出来損ないの引揚者村だったとして、国とはそのような無責任さを持っているのだと糾弾する。

最初に来たダム工事現場の作業員は、公共事業のいい加減さを暴露する。
政府は国民のことなど考えておらず金をばらまきたいだけなのだと言う。
母ユミエとの売春行為に満足した作業員は娘のエミコがすすめる特製焼酎を上機嫌でグイッと飲み干したところ、口から泡を吹いて昇天してしまう。
喜劇の始まりを予感させる木場勝己の昇天ぶりである。
電気屋と水道屋は同じことを言っている。
山奥の一軒家の為に何本も電柱を建てて電線を引っ張り、この一軒家の為に水道管を引いて水を供給しているのだから、早くこの土地から立ち去れと言いたげなのだ。
二人の男たちは彼女たちの餌食となってしまう。
すると作業員の同僚や上司、電気屋の上司もやって来てユミエの売春行為に嬉々として乗っかる。
えらぶっていても結局は同じ下心を持った連中なのだ。
「泣きなさぁい~笑いなさぁ~い」と唄いながら死体を運ぶ母娘の姿には後ろめたさが感じられない。
フクロウは夜中に出てきて虫などを捕らえて食べているらしいのだが、男たちはまるでフクロウのような母娘に食べられる虫ケラである。

権力側の人間でもある警官も同様で、権威ぶっているが要はただのエロ巡査である。
引揚援護課の男は責任感が強そうだが自殺願望がある。
自殺する動機はまともなようでまともではない。
開拓村から出て行った青年が帰って来て、不幸な経緯を語る。
貧困層がたどる悲惨な生活で、貧困は新たな犯罪を引き起こしている。
この3人の関係と顛末は面白い。
しかしこの映画の面白さを支えているのはユミエの大竹しのぶとエミコの伊藤歩の現実離れした怪演だ。
希望ヶ丘開拓村の歌を熱唱する姿に大笑いしてしまった。
ブラックユーモアに包まれた喜劇であるが少々アクが強い。


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