「乱れる」 1964年 日本
監督 成瀬巳喜男
出演 高峰秀子 加山雄三 草笛光子 白川由美
三益愛子 浜美枝 藤木悠 北村和夫
十朱久雄 柳谷寛 佐田豊 中北千枝子
ストーリー
礼子(高峰秀子)は戦争中学徒動員で清水に派遣された際、しずに見染められて森田屋酒店に嫁いだ。
子供も出来ないまま、夫に先だたれ、嫁ぎ先とはいえ、他人の中で礼子は森田家をきりもりしていた。
礼子は義母(三益愛子)とその息子の幸司(加山雄三)と同居しているが、二人の女性の心配の種は、店の経営難だけでなく、幸司が毎日ブラブラ遊び歩いていることだった。
何が原因か、女遊びや、パチンコ喧嘩と、その無軌道ぶりは手をつけられない程だ。
そんな幸司をいつも、優しくむかえるのは、義姉の礼子だった。
再婚話しも断り、十八年この家にいたのも、次男の幸司が成長する迄と思えばこそであった。
ある日、素行の良くない女(浜美枝)との交際で口喧嘩となった礼子に幸司は、今までわだかまっていた胸の内をはきすてるように言った。
「馬鹿と言われようが、卑怯者と言われようが、僕は義姉さんの側にいたい」、義姉への慕情が純粋であるだけに苦しみ続けた幸司だったのだ。
礼子は驚き動揺するが、それ以後、二人の仲は気まずくなり言葉のやりとりもぎこちなくなる。
それからの幸司は真剣に店をきりもりした。
社長を幸司にしてスーパーマーケットにする話がもちあがった日、礼子は家族を集め「せっかくの良い計画も、私が邪魔しているからです、私がこの店から手をひいて、幸司さんに先頭に立ってスーパーマーケットをやって欲しい。私も元の貝塚礼子に戻って新しい人生に出発します。私にも隠していましたが、好きな人が郷里にいるのです」とうちあけた。
荷造りをする礼子に、幸司は「義姉さんは何故自分ばっかり傷つけるんだ」と責めた。
「私は死んだ夫を今でも愛してる、この気持はあなたには分からない」と言った礼子の出発の日、動き出した車の中に、思いがげない幸司の姿があった。
「送っていきたいんだ!!いいだろ」幸司の眼も美しく澄んでいた。
寸評
戦死した兄の未亡人に義弟が思いを寄せる話であるが、家名を次ぐために無理やり義弟と結婚させられるのも含めて時々見てきたシチュエーションである。
高峰秀子は19歳で結婚したが夫はまもなく兵役に取られて戦死してしまっている。
家業の店が戦火で焼けてしまい、家族が疎開した中、高峰秀子が一人で店を再建し発展させてきた。
高峰秀子は義父の最後を看取り、今は義母の三益愛子と就職先を辞めて戻ってきた義弟の加山雄三と三人で暮しているが、加山雄三には羽振りのよさそうな北村和夫と結婚した姉の草笛光子と、再婚した白川由美の二人の姉がいる。
きつい母親役が多かった三益愛子も高峰秀子をいたわっており家族関係は悪くはない。
しかし草笛光子が言うように、母親が死に弟が結婚すれば高峰秀子はいずらくなるのではないかと、再婚を進める環境下でもある。
一方で世の中は商店に代わってスーパーが新しい小売り形態としてでき始めている事が描かれる。
中内功が1957年に京阪電車千林駅前の千林商店街に1号店を開店したのが最初と言われている。
劇中でスーパーが宣伝カーを走らせているが、流している歌は1963年に大ヒットした舟木一夫の「高校三年生」で、制作年度と同時代の話であることを表している。
描かれたスーパーは地方スーパーのようだが、やがて巨大資本のスーパーによって駆逐されていき、商店街はシャッター通りとなることをすでに暗示している。
スーパーで5円で売っている卵が、柳谷寛のやっている食料品店では11円なのだから勝負にならず、柳谷寛は自殺に追い込まれている。
そのような社会状況の中で加山雄三の高峰秀子への思いが綴られていく。
加山雄三はとても上手い役者だったとは言えないが、ここでは逆にそのことが25歳の青年の一途さに真実味を与えている。
加山が愛を告白してから二人の関係はギクシャクしだすが回りの者たちはその事に気付いていない。
草笛光子は店のスーパーへの衣替え計画に自分の夫が出資して役員になることをよいことに、高峰秀子を追い出したい気持ちがある。
この家に居たければ給料を渡して事務員としていてもらえばいいじゃないかと冷たい。
再婚している白川由美も、好きな人がいるならいいじゃないと、高峰の嘘を幸いとばかりに実家に帰っていく高峰を見送りもせず帰っていってしまう。
義理の関係とは冷たいものなのだと思わされる。
どう言って家を出てきたのか分からないが、加山は山形まで帰る高峰秀子を追いかけて電車に乗り込んでくる。
途中下車をするのが、当時の国鉄奥羽本線の大石田駅で、そこからバスで銀山温泉に向かう。
銀山温泉は今でもノスタルジーを感じさせる温泉街のようである。
高峰秀子は「私も女だから好きだと言ってもらった時は嬉しかった」と言っているぐらいなので、ここからがこの映画の山場となって結末を迎える。
ラストの高峰秀子のアップの表情は、堪える女を演じる女優として力量が光るこの映画に於ける名シーンだ。
監督 成瀬巳喜男
出演 高峰秀子 加山雄三 草笛光子 白川由美
三益愛子 浜美枝 藤木悠 北村和夫
十朱久雄 柳谷寛 佐田豊 中北千枝子
ストーリー
礼子(高峰秀子)は戦争中学徒動員で清水に派遣された際、しずに見染められて森田屋酒店に嫁いだ。
子供も出来ないまま、夫に先だたれ、嫁ぎ先とはいえ、他人の中で礼子は森田家をきりもりしていた。
礼子は義母(三益愛子)とその息子の幸司(加山雄三)と同居しているが、二人の女性の心配の種は、店の経営難だけでなく、幸司が毎日ブラブラ遊び歩いていることだった。
何が原因か、女遊びや、パチンコ喧嘩と、その無軌道ぶりは手をつけられない程だ。
そんな幸司をいつも、優しくむかえるのは、義姉の礼子だった。
再婚話しも断り、十八年この家にいたのも、次男の幸司が成長する迄と思えばこそであった。
ある日、素行の良くない女(浜美枝)との交際で口喧嘩となった礼子に幸司は、今までわだかまっていた胸の内をはきすてるように言った。
「馬鹿と言われようが、卑怯者と言われようが、僕は義姉さんの側にいたい」、義姉への慕情が純粋であるだけに苦しみ続けた幸司だったのだ。
礼子は驚き動揺するが、それ以後、二人の仲は気まずくなり言葉のやりとりもぎこちなくなる。
それからの幸司は真剣に店をきりもりした。
社長を幸司にしてスーパーマーケットにする話がもちあがった日、礼子は家族を集め「せっかくの良い計画も、私が邪魔しているからです、私がこの店から手をひいて、幸司さんに先頭に立ってスーパーマーケットをやって欲しい。私も元の貝塚礼子に戻って新しい人生に出発します。私にも隠していましたが、好きな人が郷里にいるのです」とうちあけた。
荷造りをする礼子に、幸司は「義姉さんは何故自分ばっかり傷つけるんだ」と責めた。
「私は死んだ夫を今でも愛してる、この気持はあなたには分からない」と言った礼子の出発の日、動き出した車の中に、思いがげない幸司の姿があった。
「送っていきたいんだ!!いいだろ」幸司の眼も美しく澄んでいた。
寸評
戦死した兄の未亡人に義弟が思いを寄せる話であるが、家名を次ぐために無理やり義弟と結婚させられるのも含めて時々見てきたシチュエーションである。
高峰秀子は19歳で結婚したが夫はまもなく兵役に取られて戦死してしまっている。
家業の店が戦火で焼けてしまい、家族が疎開した中、高峰秀子が一人で店を再建し発展させてきた。
高峰秀子は義父の最後を看取り、今は義母の三益愛子と就職先を辞めて戻ってきた義弟の加山雄三と三人で暮しているが、加山雄三には羽振りのよさそうな北村和夫と結婚した姉の草笛光子と、再婚した白川由美の二人の姉がいる。
きつい母親役が多かった三益愛子も高峰秀子をいたわっており家族関係は悪くはない。
しかし草笛光子が言うように、母親が死に弟が結婚すれば高峰秀子はいずらくなるのではないかと、再婚を進める環境下でもある。
一方で世の中は商店に代わってスーパーが新しい小売り形態としてでき始めている事が描かれる。
中内功が1957年に京阪電車千林駅前の千林商店街に1号店を開店したのが最初と言われている。
劇中でスーパーが宣伝カーを走らせているが、流している歌は1963年に大ヒットした舟木一夫の「高校三年生」で、制作年度と同時代の話であることを表している。
描かれたスーパーは地方スーパーのようだが、やがて巨大資本のスーパーによって駆逐されていき、商店街はシャッター通りとなることをすでに暗示している。
スーパーで5円で売っている卵が、柳谷寛のやっている食料品店では11円なのだから勝負にならず、柳谷寛は自殺に追い込まれている。
そのような社会状況の中で加山雄三の高峰秀子への思いが綴られていく。
加山雄三はとても上手い役者だったとは言えないが、ここでは逆にそのことが25歳の青年の一途さに真実味を与えている。
加山が愛を告白してから二人の関係はギクシャクしだすが回りの者たちはその事に気付いていない。
草笛光子は店のスーパーへの衣替え計画に自分の夫が出資して役員になることをよいことに、高峰秀子を追い出したい気持ちがある。
この家に居たければ給料を渡して事務員としていてもらえばいいじゃないかと冷たい。
再婚している白川由美も、好きな人がいるならいいじゃないと、高峰の嘘を幸いとばかりに実家に帰っていく高峰を見送りもせず帰っていってしまう。
義理の関係とは冷たいものなのだと思わされる。
どう言って家を出てきたのか分からないが、加山は山形まで帰る高峰秀子を追いかけて電車に乗り込んでくる。
途中下車をするのが、当時の国鉄奥羽本線の大石田駅で、そこからバスで銀山温泉に向かう。
銀山温泉は今でもノスタルジーを感じさせる温泉街のようである。
高峰秀子は「私も女だから好きだと言ってもらった時は嬉しかった」と言っているぐらいなので、ここからがこの映画の山場となって結末を迎える。
ラストの高峰秀子のアップの表情は、堪える女を演じる女優として力量が光るこの映画に於ける名シーンだ。