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おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

アウトレイジ

2022-01-23 08:04:37 | 映画
「アウトレイジ シリーズ」では「アウトレイジ ビヨンド」が一番だと思っています。
2020年8月30日に照会しています。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。
今回は第一作の紹介です。

「アウトレイジ」 2010年 日本


監督 北野武
出演 ビートたけし 椎名桔平 加瀬亮
   小日向文世 北村総一朗 塚本高史
   板谷由夏 中野英雄 杉本哲太
   石橋蓮司 國村隼 三浦友和

ストーリー
関東一円を支配する巨大暴力団・山王会の関内会長(北村総一朗)は、傘下の池元組が麻薬を扱う村瀬組と兄弟杯を交わして親密になっていることを快く思っていなかった。
そこで関内の右腕・加藤(三浦友和)はこの2つの組を仲違いさせようと企て、池元(國村隼)に対して「村瀬を締めろ(軽い制裁を与えろ)」と無理な命令をする。
兄弟分の村瀬(石橋蓮司)に手を出せない池元は、配下の大友組に村瀬組を締めることを命令する。
池元の二枚舌、山王会の思惑に翻弄されながらも、大友組は村瀬組を締めることに成功し、村瀬組は解散する。
池元の行動に不愉快を覚えつつ、大友(ビートたけし)は村瀬のシマを事実上継承し、大使館の闇カジノで成功を収める。
一方、村瀬が隠れて麻薬を売っていることが発覚し、池元にそそのかされた大友は村瀬を殺害する。
ところが、このことを口実に池元は大友に破門を言い渡し、大友は怒りを露わにする。
大友は復帰のため、関内の元を訪れ許しを請うが、逆に関内は池元の殺害をそそのかす。
そこで大友は悪びれず闇カジノを訪れていた池元を殺害する。
闇カジノを狙っていた関内は、今度は池元組若頭の小沢(杉本哲太)に、組を継ぎたければ親の仇を討てと煽り、大友組と池元組の抗争を仕掛ける。
本家の手助けも得た小沢は、次々と大友組の組員を殺害し、彼らを追い詰めていく・・・。


寸評
バイオレンス映画ではあるが、北野監督だからと期待する目新しい演出は見当たらない。
指を詰める、顔を切るなどの残酷描写はあるが通り一辺倒の描き方だ。
拳銃もバンバン発射されるが、さして緊張感のあるものでもない。
目新しさと言えるのは、総じて善人を演じることが多い三浦友和とか小日向文世とかが悪役を演じていることで、それが作品のコンセプトの一つでもある。
暴力シーンを次から次へと描いているが、全体的に緊張感が漂わないのはどこか滑稽なところがあるからだ。
もしかすると、これはバイオレンス映画というよりは、コメディー色の強いエンターティメント映画なのかもしれない。
筆頭は石橋蓮司演じる組長の村瀬で、登場するシーンでは笑いどころがタップリなのだ。
弱小組織の組長なのだが、池本組の國村隼と兄弟分の盃をかわしていて「兄弟…」と常に泣きついている。
子分には強くあたっているが、事が起きると頼りなくなっていく様が愉快だった。
石橋蓮司と國村隼の掛け合いはまるで漫才のボケとツッコミのようなやり取りで笑わせる。

冒頭は巨大暴力団・山王会の会合シーンで、外で待っている大友などは組の親分とは言え下っ端であることが分かる。
真ん中で食事をする國村隼の池本が会長かと思わせるが、彼も山王会の一組織の親分に過ぎないことが示され、本部の三浦友和演じる加藤に叱責される。
その加藤を支配しているのが会長の関内で、演じている北村総一朗が二枚舌のずる賢い部分を見せる。
過激組織としてでしか生きられない大友組には椎名桔平や加瀬亮の組員がいるが、腕力担当の椎名桔平とインテリヤクザと思われる加瀬亮の役割分担も出来ていて、終盤にその違いが生きてくるのはいい。

暴力バーの一件から、力対力の対決が描かれていくのだが、その力による支配は敵対組織だけではなく、自分たちの組織内でも発生していくというのが大きな構図だ。
ヤクザ同士の言い争いは熾烈を極め、当事者同士の罵り合いは間髪を入れずの凄まじいもので圧倒される。
登場人物が次から次へと死んで行くが、その殺され方にもうひと工夫欲しかったと思うのが正直な気持ち。

官権に対する皮肉は、治外法権の大使館の登場や、椎名桔平が警護の警官の足元にタバコを投げ捨てるなど、所々に見受けられるが、なんと言ってもピカイチは小日向文世の片岡刑事だ。
片岡は大友の学生時代のボクシング部の後輩で、未だに影では「先輩、先輩」と頭が上がらない関係なのがユニークである。
取調室ではマル暴の刑事らしく凄んでみせるが、仲間がいなくなると「先輩、スミマセン」と態度を変える。
暴力団ともつるんでいて、山王会の加藤からは情報料として小遣い銭をもらっているいい加減な刑事だ。
彼の発する一言一言もなんだか可笑しく、彼の存在がこの作品を支えている。
最高経営者、中間管理職、最下層の下っ端労働者など、誰もが共感できる人間模様を、ヤクザ社会という極端にデフォルメされた舞台で描いた作品でもあった。
新鮮さの乏しい映画ではあったが、椎名桔平の殺され方は面白いと思った。
残酷でなくても、あれくらいのハッとするシーンが、北野監督作品だけにもっと欲しかった。


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2 コメント

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「アウトレイジ」について (風早真希)
2024-01-17 09:07:41
この映画「アウトレイジ」には、北野武監督の王道を照れずにやってのける覚悟が見て取れる。

ストーリー然り。組織の中で仕掛けられたちょっとした小競り合いが、凄惨な組織のつぶしあいに発展する一方で、腹黒く狡猾な連中は、状況を利用して、権力を手中に収めようとするという、仁義なき群像劇だ。

キャスティング然り。これまでは、敢えて起用を避けてきたようなオールスターの演技者が並ぶ。

殺しのシーンから逆算し、精緻に組み立てられた脚本には、いろいろなレベルで伏線が張られており、緊張と笑いのバランスを巧みに操り、一気呵成に突っ走る109分になっている。

払ったチケット代は、きっちり楽しませるプロの仕事たらんとする気合がスクリーンに漲っている。

その結果、過剰な自意識やヒロイックな自死願望は消えた。
行間はそのままに、寡黙さが消え、セリフはやたらに増えた。

バイオレンスは、痛さはそのままに、しかし軽く、マンガ的になった。
編集からは、唐突な暴力性が消え、びっくりするぐらいスムーズになった。

ある意味、「普通」の作品に近づいたと言えるだろう。
しかし、普通に接近するほどに、普通の枠にははまらない、北野武の個性も際立ってくるところが面白い。

この作品にも、いつのまにかスッと忍び込んできて、日常を異化してしまう暴力の恐怖は健在だし、オフビートな笑いもそこにある。

暴力的で威圧的なセリフが、気が付けば掛け合い漫才という面白さは、これまでの作品になかったものだ。

だが、彼のキャリアを考えれば、これが北野流コメディのひとつの完成形だろう。
そして、息を呑むような素晴らしいショットもある。

何より、一見単純でありふれたストーリーの裏から、これまでの作品とも底の部分で通じる組織や社会構造、人間に対する彼独特の観察眼と世界観が浮かび上がってくる。

弱小ヤクザ組織が、上位組織の裏切りによって破滅していくところだけを切り出せば、ヤクザ映画として出発しながら、何か違うものに変質していった「ソナチネ」と同じだが、この作品はあくまでヤクザ映画、あくまで分かりやすいエンターテインメントという制約の中で、初期の北野武作品とは全く別のベクトルで仕上げられていると思う。

ともかく、北野武はもう終わっちゃった作家なのではなく、まだ始まっていない、ということだ。

何かをふっきって再度、この作品でスタート地点に立った。
この人は、同じ場所を堂々巡りするのではなく、新しい地点に向かおうとしている。

この作品を見る限り、まだまだ期待していいのだと思う。
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キャスティングの妙 (館長)
2024-01-18 07:05:41
一番はキャスティングのユニークさだと思います。
シリーズでは2作目がお気に入りです。
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